Cocert Report #761

《歌曲(リート)の森》 〜詩と音楽 Gedichte und Musik〜 第15篇
ナタリー・シュトゥッツマン(コントラルト) フランス歌曲の夜

2014年11月26日 トッパンホール
Reported by 藤堂 清 (Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 大窪道治/写真提供トッパンホール

<演奏>
コントラルト:ナタリー・シュトゥッツマン
ピアノ:インゲル・ゼーデルグレン

<曲目>
ショーソン:
『7つの歌』Op.2より「ナニー」/「蝶々」
『3つの歌』Op.27より 「刻」
『愛と海の詩』Op.19より 「リラの花咲く季節」
『7つの歌』Op.2より 「イタリアのセレナード」
グノー:
「愛し合おう」/「その花を私にください」/「夕暮れ」/「小さな谷」
ドビュッシー:
「麦の花」/ 『2つのロマンス』より「鐘」、『3つの歌』より「海はさらに美しい」
-------------------(休憩)---------------------
フォーレ:
『2つの歌』Op.46より「月明かり」
『5つのヴェネツィアの歌』Op.58より「マンドリン」
『3つの歌』Op.5より「愛の夢」
『2つの歌』Op.1より「蝶と花」
『3つの歌』Op.18より「ネル」
『3つの歌』Op.7より「夢のあと」
プーランク:
歌曲集『平凡な話』全5曲
歌曲集『村人の歌』より「はすっぱ娘の歌」
「モンパルナス」
アラゴンによる2つの詩 「セー」/「みやびやかな宴」
--------------------(アンコール)----------------
プーランク:「愛の小径」
アーン :「クロリスに」

ナタリー・シュトゥッツマンは1965年生まれのフランスのコントラルト、女性のもっとも低い声域の歌手である。彼女が話す声は電話では男性と間違えられるという話もあるが、歌う場合でも他の歌手が苦労する低い音域もごく自然に響かせることができる。マーラーの歌曲や交響曲、モーツァルトのレクイエムなどの宗教曲の独唱者としてごく若いころから多くの指揮者と共演してきた。歌曲に関しては、ハンス・ホッターに師事したという経歴によるものか、深々とした声を活かした長い旋律線が印象に残る。
1995年のモーストリー・モーツァルト・フェスティバルでの初来日以来、リサイタルやオーケストラの独唱者として何度も日本を訪れている。ピアノのゼーデルグレン(*)とともにシューベルト、シューマン、ブラームスなどのドイツ歌曲を聴く機会が多かった。この日のプログラムのようにすべてフランス歌曲によるリサイタルというのは、私にとっては初めての体験であった。
プログラムに取り上げられた作曲家は5人、ショーソン、グノー、ドビュッシー、フォーレ、プーランクである。彼女は歌曲集として編纂されたものをまとめてとりあげたりはせず、作曲家ごとに数曲ずつ選び出し、シュトゥッツマン独自の歌曲集を作り上げている。<愛、その喜びと悲しみ、そして、死>といったところがテーマだろうか。リサイタル全体としての流れもあるし、作曲家ごとのブロックでのまとまりもある、たいへんよくできたプログラムであった。
前半の最初のブロック、ショーソンの歌曲では、比較的遅めで大きな跳躍を要求しない音楽が彼女の声のたっぷりとした響きによく合い、すぐに彼女の作り上げる世界に引き込まれた。グノーとドビュッシーも、テンポがゆっくりとした曲、母音をゆったりと使う歌が彼女に合っていた。後半の曲も歌自体はのびやかな曲想のものが多かったが、それを支えるピアノには細かな動きが要求される部分があり、そういったところでは満足できないところもあった。最後のブロックのプーランク、なかでも「みやびやかな宴」などでは、彼女の歌にももう少しメリハリが欲しいと感じられた。全体としては、彼女の響きに包まれた幸福な一晩であった。
彼女の歌唱、母国語の強みだろうか、自然で、低音域の安定感は彼女ならではと感じた。一方で高い音になると多少音程が甘くなることがあり、それとともに声の響きが他の声域と変わることが気になった。
少し残念だったのは、ピアノのゼーデルグレンの打鍵が弱く音が十分に鳴らないこと、あるいは指がまわりきらずこぼれてしまう音があったこと。1947年生まれ、年齢による影響があったのだろうか。歌手とピアニストのデュオ、成熟にはある程度の期間が必要であるから、シュトゥッツマンが今後10年程度歌い続けると想定すると、ピアニストをどうするか考えなければならない時期がきているように感じた。

(*)名前の読み方は、セーデグレン、あるいは、シェーデグレンの方が近いようだが、プログラムに従って記載した。

藤堂清 Kiyoshi Tohdoh
東京都出身。東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。ソフトウェア技術者として活動。オペラ・歌曲を中心に聴いてきている。ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウのファン。ハンス・ヴェルナー・ヘンツェの《若き恋人たちへのエレジー》がオペラ初体験であった。

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