Concert Report #768

ピアニスト園田高弘没後10年を偲んで Vol.2
高橋礼恵ピアノリサイタル

2014年12月13日 トッパンホール
Reported by 佐伯ふみ(Fumi Saeki)

<曲目>
オール・ベートーヴェン:
ピアノ・ソナタ 
 第13番 変ホ長調 「幻想風」Op. 27-1
 第14番 嬰ハ短調 「月光」Op. 27-2
ディアべリの主題による33の変奏曲 ハ長調 Op.120

 日本のピアノ史に大きな足跡を残した園田高弘(1928〜2004)が没して10年。それを記念して、4回にわたるリサイタル・シリーズがトッパンホールで開催されている。すでに第3回まで終了。最終回は2015年1月である。登場する若手ピアニストたちはいずれも、内外のマスタークラスで園田の教えを受けたり、大分で開催されていた園田高弘賞ピアノコンクール(1985年〜2002年)の入賞者である。第1回(2014年11月3日):杉目奈央子、第2回(12月13日):高橋礼恵(のりえ)、第3回(12月24日): 仁上亜希子、第4回(2015年1月31日):田村響。筆者はこのうち第2回と第3回を聴いた。ここでは第2回、高橋にのみ触れる。

 前半は《ピアノ・ソナタOp.27》の2曲。冒頭、ふわりと音楽に入りこむ自然さ。とても繊細だが雄弁な弱音。そこここに散りばめられたベートーヴェンならではの香気あふれる旋律を、古典的な抑制(大変好ましい)をもって美しく歌わせる。すでに、これは、と思わせる演奏である。
 聴きものはやはり後半の《ディアベリ変奏曲》だが、一転して気宇壮大、実に立派な、堂々たる演奏だった。ベートーヴェンが最後に到達した、宇宙的な世界観。演奏技術も、またそこに込められた思想の表現もたいへん困難な作品で、リサイタルではめったに取り上げられないが、女性が、しかもこの若さで取り組んだ、その覇気にまず敬意を表したい。そして高橋礼恵は、そのチャレンジに見事に勝利した。
 これは決して悪い意味ではないのだが、聴いていて、師・園田高弘の演奏が二重写しのように思い出された。演奏が似ている、のではない。音楽に取り組む気概、作曲家への畏敬の念や永遠の憧憬といった園田の演奏姿勢が、彼女の中に息づいていると感じたのだ。
 孤高のピアニスト・園田は日本的な「門下」を持たなかった。しかし日本とヨーロッパの各地で、若いピアニストたちが園田の薫陶を受け、その偉大なスピリットを受け継ぐべく果敢なチャレンジを続けている。園田の蒔いた種子は、確実に、豊かな実りを日本ピアノ界にもたらしている。そのことに深く感動させられ、至福のひとときを過ごした。メモリアルの名にふさわしいコンサートであった。

 高橋礼恵は桐朋学園大とベルリン芸術大で学び、NAXOS レーベルにベートーヴェン《ピアノ・コンチェルト第4番》の録音があるほか、2005年にデビュー・リサイタルのライヴ盤、2009年にライヴのベートーヴェン・ソナタ集、そして今年9月にリスト作品集をリリースし、着実にキャリアを重ねている。ベルリン在住ということもあって、日本での知名度は今ひとつ。今後もぜひ、コンスタントに日本でのリサイタルを計画してほしい。演奏の進化(深化)を見届けていきたいピアニストである。

佐伯ふみ Fumi Saeki
1965年(昭和40年)生まれ。大学では音楽学を専攻、18〜19世紀のドイツの音楽ジャーナリズム、音楽出版、コンサート活動の諸相に興味をもつ。出版社勤務。筆名「佐伯ふみ」で、2010年5月より、コンサート、オペラのライヴ・レポートを執筆している。

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