Concert Report #770

ゴーティエ・カプソン&ユジャ・ワン 第2夜

2014年12月16日 トッパンホール
Reported by 藤原聡(Satoshi Fujiwara)
Photos by 大窪道治/写真提供トッパンホール(撮影日12月15日)

<演奏>
チェロ:ゴーティエ・カプソン
ピアノ:ユジャ・ワン

<曲目>
ベートーヴェン:「魔笛」の主題による7つの変奏曲 変ホ長調 WoO46
ブラームス:チェロ・ソナタ第1番 ホ短調 Op.38
同:第2番 ヘ長調 Op.99
※ アンコール
マスネ:タイスの瞑想曲

ゴーティエ・カプソンとユジャ・ワンのデュオ・リサイタルがトッパンホールで2夜に渡って開催された。筆者はその2日目を聴くことが出来たのだが、1夜目がドビュッシー、ラフマニノフ、プロコフィエフであったのに対し、2日目はベートーヴェンとブラームスである。このコンビのイメージとは俄かには結びつき難い作曲家ではあるのだが、結果はいかに。尚、この日は大雨に見舞われ(おかげでびしょ濡れである…)さらには底冷えのするような夜であったのだが会場はほぼ満席。

1曲目のベートーヴェン。とてもユニークな演奏である。ユジャとしては抑制しているし、ゴーティエも持ち前の美音を駆使しつつも節度は充分に守っているのだが、それでもベートーヴェン的な重厚さや落ち着きよりも躍動的な運動性が自ずと前面に出る。カラフルで美しい演奏だ。ラテン的という形容とも違うのだが、出来合いの手垢の付いたような感性の焼き直しによる解釈ではなく、ただ楽譜を前に自分たちが感じた通りにやってみようという気概が感じられるような演奏と評せよう。楽しいベートーヴェン。

そしてブラームスの2曲。特に『第1番』のソナタは全編これ陰鬱な感情に支配されており、チェロは低音域が徹底的に駆使されて色彩はくすんでいる。これまたユジャとゴーティエのイメージとは正反対の曲であるが、2人とも実に開放的に鳴らす鳴らす。ゴーティエのチェロは艶消しの楽譜から実に艶かしい美音を紡ぎ出し、ユジャもゴーティエに負けじとダイナミックさを打ち出す。2人の呼吸は抜群に合っているが、いわゆる「ブラームスらしさ」、もっと言えば「室内楽」の枠に全くはまらない音楽である。筆者は曲が始まってしばらくは若干の違和感を感じたと正直に告白せねばならないが、曲が進むにつれてその演奏自体の見事さに引き込まれて行き、最後には充分納得させられていた。こういうブラームスもありだな、と。休憩を挟んで同じくブラームスの『第2』ソナタ。ここでは明るい曲調のためか、元々のこのコンビの芸風にマッチしていると思われるが、彼らの演奏の特色である推進力ときらびやかな音色、敢えて言ってしまえば「軽快なリズム感」が『第1』よりも生きている。演奏者自身も曲想への近親性を分っているのか、『第1』だけを聴いていた段階では感じなかったけれど、この『第2』ではノリの良さがさらに増しているのが分る。それにしても、第2楽章のアダージョ・アフェットゥオーソの美しさにはほとんど陶酔的なものすらあった。リズムの軽快さもあり、♯が6つも付いた嬰ヘ長調という複雑な調性を敢えてブラームスが選択したことによる多層的な感情のありよう、内面の逡巡の趣はこの演奏からは感じられないが、それに代わる「美」が確実にあった。ここにははっきりと演奏者の真実の感情が存在していた。しかし言うまでもなく、それが「ブラームス的」かどうかはまた別の問題である。第4楽章も彼らの美質が100%生かされた文句なしの名演。

アンコール。ゴーティエ自身が「フランスの曲です」とアナウンスして弾かれたのがマスネの『タイスの瞑想曲』。蕩けるロマンティズム、繊細さ、節度ある感傷…、まさにマスネの良さここに極まれり。完璧な奏楽(古風な言い方)としか言いようなし! 最後にユジャ・ワンの衣装にも触れておかねばなるまい。前半は胸元と背中が大きく開き、深いスリットが入った青のロングドレス、後半はラメの入った黒のマイクロミニ(のようにしか見えない!)。また、ユジャのぴょこんとしたお辞儀がその都度何ともユーモラスと言うか可愛らしく、ゴーティエとのやり取りもなんだか微笑ましい。頬が緩んでしまいます。

藤原聡 Satoshi Fujiwara
代官山蔦屋書店の音楽フロアにて主にクラシックCDの仕入れ、販促を担当。クラシック以外ではジャズとボサノヴァを好む。音楽以外では映画、読書、アート全般が好物。休日は可能な限りコンサート、ライヴ、映画館や美術館通いにいそしむ日々。

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