Concert Report #770 |
ゴーティエ・カプソン&ユジャ・ワン 第2夜 |
---|
<演奏> |
---|
ゴーティエ・カプソンとユジャ・ワンのデュオ・リサイタルがトッパンホールで2夜に渡って開催された。筆者はその2日目を聴くことが出来たのだが、1夜目がドビュッシー、ラフマニノフ、プロコフィエフであったのに対し、2日目はベートーヴェンとブラームスである。このコンビのイメージとは俄かには結びつき難い作曲家ではあるのだが、結果はいかに。尚、この日は大雨に見舞われ(おかげでびしょ濡れである…)さらには底冷えのするような夜であったのだが会場はほぼ満席。
1曲目のベートーヴェン。とてもユニークな演奏である。ユジャとしては抑制しているし、ゴーティエも持ち前の美音を駆使しつつも節度は充分に守っているのだが、それでもベートーヴェン的な重厚さや落ち着きよりも躍動的な運動性が自ずと前面に出る。カラフルで美しい演奏だ。ラテン的という形容とも違うのだが、出来合いの手垢の付いたような感性の焼き直しによる解釈ではなく、ただ楽譜を前に自分たちが感じた通りにやってみようという気概が感じられるような演奏と評せよう。楽しいベートーヴェン。
そしてブラームスの2曲。特に『第1番』のソナタは全編これ陰鬱な感情に支配されており、チェロは低音域が徹底的に駆使されて色彩はくすんでいる。これまたユジャとゴーティエのイメージとは正反対の曲であるが、2人とも実に開放的に鳴らす鳴らす。ゴーティエのチェロは艶消しの楽譜から実に艶かしい美音を紡ぎ出し、ユジャもゴーティエに負けじとダイナミックさを打ち出す。2人の呼吸は抜群に合っているが、いわゆる「ブラームスらしさ」、もっと言えば「室内楽」の枠に全くはまらない音楽である。筆者は曲が始まってしばらくは若干の違和感を感じたと正直に告白せねばならないが、曲が進むにつれてその演奏自体の見事さに引き込まれて行き、最後には充分納得させられていた。こういうブラームスもありだな、と。休憩を挟んで同じくブラームスの『第2』ソナタ。ここでは明るい曲調のためか、元々のこのコンビの芸風にマッチしていると思われるが、彼らの演奏の特色である推進力ときらびやかな音色、敢えて言ってしまえば「軽快なリズム感」が『第1』よりも生きている。演奏者自身も曲想への近親性を分っているのか、『第1』だけを聴いていた段階では感じなかったけれど、この『第2』ではノリの良さがさらに増しているのが分る。それにしても、第2楽章のアダージョ・アフェットゥオーソの美しさにはほとんど陶酔的なものすらあった。リズムの軽快さもあり、♯が6つも付いた嬰ヘ長調という複雑な調性を敢えてブラームスが選択したことによる多層的な感情のありよう、内面の逡巡の趣はこの演奏からは感じられないが、それに代わる「美」が確実にあった。ここにははっきりと演奏者の真実の感情が存在していた。しかし言うまでもなく、それが「ブラームス的」かどうかはまた別の問題である。第4楽章も彼らの美質が100%生かされた文句なしの名演。
アンコール。ゴーティエ自身が「フランスの曲です」とアナウンスして弾かれたのがマスネの『タイスの瞑想曲』。蕩けるロマンティズム、繊細さ、節度ある感傷…、まさにマスネの良さここに極まれり。完璧な奏楽(古風な言い方)としか言いようなし!
最後にユジャ・ワンの衣装にも触れておかねばなるまい。前半は胸元と背中が大きく開き、深いスリットが入った青のロングドレス、後半はラメの入った黒のマイクロミニ(のようにしか見えない!)。また、ユジャのぴょこんとしたお辞儀がその都度何ともユーモラスと言うか可愛らしく、ゴーティエとのやり取りもなんだか微笑ましい。頬が緩んでしまいます。
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
:
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
:
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.