Live Report #772

故副島輝人さんを偲ぶ会

2014年12月21日 新宿ピットイン
text & photo by 横井一江 (Kazue Yokoi)
photo by 大友洋/協力 JAZZ JAPAN:集合写真

1st Set
1. D.U.B.:梅津和時(as)、片山広明(ts)、早川岳晴(b)、菊池隆(ds)
2. 中村達也(ds)、松本健一(ts)、荒井皆子(voice)、ケン・サイモン(sax)
3. 大沼志朗(ds)、雨宮拓(p)、森順治(sax)
4. 山崎比呂志(ds)、さがゆき(voice)、巻上公一(voice)、多田葉子(as)
5. 翠川敬基(b)、黒田京子(p)、太田恵資(vln)
6. 山下洋輔(p)

2nd Set
1. 大友良英(g)、灰野敬二(g)、芳垣安洋(ds)
2. のなか悟空(ds)、近藤直司(ts)、伊東篤宏(optron)
3. 今井和雄(g)、鬼怒無月(g)
4. 渋さちびズ:不破大輔(b)、梅津和時(as)、片山広明(ts)、立花秀輝(as)、鬼頭哲(bs)、小森慶子(sax)、北陽一郎(tp)、大友良英(g)、芳垣安洋(ds)、ペロ(dance)、松原東洋(舞踏)、長谷川宝子(舞踏)
5. 佐藤允彦(p)

7月12日に亡くなったジャズ評論家の副島輝人氏を偲んでミュージシャンが集まった。葬儀で弔辞を読むように指名された梅津和時、不破大輔、大友良英、そして佐藤允彦の4名が発起人となり、新宿ピットインの協力を得て「故副島輝人さんを偲ぶ会」が行われたのである。

D.U.B.で始まったステージは、なつかしいユニットあり、リユニオンあり、飛び入りあり。大友良英、灰野敬二、芳垣安洋による高密度なノイズによる交感、二人のギタリスト今井和雄と鬼怒無月によるハイブロウなインプロなどのように、この日だから実現したセッションも。他にも長年共演してきたのなか悟空と近藤直司に伊東篤宏が入るというあり得ないような組み合わせだが、伊藤の進化し続けるオプトロンとフリージャズの相性が絶妙だったりと、想定内と想定外の狭間の面白さがあったイベントだった。そして、第1部のトリは山下洋輔、第2部は佐藤允彦とジャズ界の重鎮2人が締める。もちろん大トリの前には、これまた贅沢なメンバーの「渋さちびズ」が大いに盛り上げた。これだけのミュージシャンが一堂に介し、次々と演奏を繰り広げる様は、故人の著書になぞらえてひとことで言うならば「日本フリージャズ史の現在」である。こう書くと、高柳昌行も富樫雅彦もいないではないかと反論されそうだが、高柳のニュー・ディレクションのドラマーだった山崎比呂志が参加、そして黒田京子トリオが演奏したのは故人も好きだった富樫雅彦の作品<ワルツ・ステップ>だったのだ。かと思えば、客席に座っていたニュージャズ・シンジケートの庄田次郎が出てきてマイクを持ってひとしきり喋る。副島夫人や弟さんをはじめとして70年代を知る人は、故人がプロデュースし、新宿のアートシアターで開催されたフリージャズ大祭『インスピレーション&パワー』を思い起こしていたようだ。しかし、演奏自体は全くもって現在形、今の音楽シーンをフリージャズというキーワードで切った時に、これほど多様で個性の際立つミュージシャンがここに居るということに、私は豊かさを感じたのである。
こうして、数多くのミュージシャンが自発的に集まったのは、ひとえに副島氏のジャズ評論家としての立ち位置、生き様にあったと思う。ありきたりの音楽ライター、ディスコグラファーと違い、現場を共にすることに、共犯者たることに最大の快感を感じていた人だからである。存命中はさんざんブツクサ文句を言っていたミュージシャンも含めて皆こうしてやってくる。人徳としか言いようがない。
イベントの冒頭で、「霊界に行っても好きなことしかやらん」と亡くなる少し前に録音してあったメッセージが流れた。「好きなことしかやらん」というのは、日和ったりせずに自身の信念と美学を貫くということを副島語で言っただけのこと。その大いなるワガママ精神を貫くには、社会性もなければならないし、周囲の理解と協力もまた必要だったのである。この日の演奏をニコニコしながら楽しんでいたよき夫人の理解とサポートがあってこそだったことを、私はここで付け加えたい。

実はこのイベント開催を知った時、これは副島氏の葬儀の最終章ではないかと思ったのだ。ニューオリンズのジャズ葬では、墓地へ向かう時に楽団がもの悲しげな曲を奏で、墓地からの帰りは陽気な音楽を演奏する。その帰り道では、セカンドラインと呼ばれる葬儀とは無関係な人たちが列に加わって、踊りながら練り歩く。ニューオリンズでは亡くなる前に、自分の葬儀で演奏するバンドや音楽を指定するということも聞いたことがある。副島氏の葬儀は全て生前に彼自身が企画したとおりに行われた。多くの人が「引っ越し」の言葉を真に受けてしまった最後のメッセージにあった京都への引っ越し、つまり墓地への納骨も完了している。梅津和時のMCによると、この日出演した全てのミュージシャンはイベント開催の呼びかけに対して自発的に集まってきたのだという。そういう意味でも、故人の名前とは無関係に凄いミュージシャンがいっぱい出ているということだけで来た観客も含め、この会は副島輝人氏の葬儀の最後のパレード、ジャズ葬で言うならばセカンドラインだったのだ。フェスティヴァル的な明るさと熱い空気はまさにそれである。故人が亡くなる前にここまで想定していたのかどうかはわからない。だが、終演後に新宿ピットインを出た時に思ったのは、これで葬儀一切が完了したのだな、これで魂が霊界へ無事旅立てたなということだった。

このイベントは、錚々たる顔ぶれが出演したこともあって、満席で立ち見が出るくらいの盛況だった。しかし、8月21日にひっそりとあるライヴが行われていたことはほとんど知られていない。副島氏が生前にプロデュースした最後のライヴ、朴在千と芳垣安洋のデュオである。同じ新宿ピットインで行われたが、お客さんは20人いたかどうか。客席の中央に二人が向き合うようにドラムスを配置し、周りを客席が取り囲むようなセッテイングで行われたデュオは、ドラムスという楽器によるさらなるサウンド空間の可能性に耳を拓かせてくれた。客入りに関しては「まあ、こんなもんだよ」と故人は言うだろう。創造的な取り組みはいつもひっそりとどこかで行われているのである。
私の耳の奥には、亡くなる数年前から副島氏との会話でよく出てきた「ボクの心は熱く燃えているのに、ジャズは低迷期に入ってしまったようでツマラナイ」という言葉がずっと残っている。価値観が定まった音楽を否定する訳ではないが、「あっ」と驚くようなことを冒険者のココロを持つ彼はいつも期待していたのだ。霊界のどこかで「日本フリージャズ史」の次なる章を、21世紀版「インスピレーション&パワー」を待っているだろう。

関連リンク:
追悼 副島輝人
http://www.jazztokyo.com/rip/soejima/soejima.html
Library 『世界フリージャズ記』副島輝人著 text by 横井一江
http://www.jazztokyo.com/library/library071.html

横井一江 Kazue Yokoi
北海道帯広市生まれ。The Jazz Journalist Association会員。音楽専門誌等に執筆、 雑誌・CD等に写真を提供。海外レポート、ヨーロッパの重鎮達の多くをはじめ、若手までインタビューを数多く手がける。 フェリス女子学院大学音楽学部非常勤講師「音楽情報論」(2002年〜2004年)。著書に『アヴァンギャルド・ジャズ―ヨーロッパ・フリーの軌跡』(未知谷)。趣味は料理。本誌編集長。

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