Live Report #773

リチャード・ボナ・グループ

2015年1月12日2nd set コットンクラブ
Reported by 徳永伸一郎(Shin-ichiro Tokunaga)
Photos by 米田泰久(Y. Yoneda)/写真提供:COTTON CLUB

Richard Bona (b,vo)
Adam Stoler (g)
Etienne Stadwijk (key)
Ludwig Afonso (ds)
Tatum Greenblatt (tp)

1. TeMisea
2. Kalabancoro
3. Please Don't Stop
4. Mut' esukudu
5. Shiva Mantra
6. Drum'n' Bass Duet
7. Teen Town
8. Three Views of a Secret
9. Tumba La Nyama (Bona's solo)
10. O Sen Sen Sen
11. Diba La Bobe
Enc) Still There (Bona's solo)

 リチャード・ボナを初めて見たのは90年代後半、ザヴィヌル・シンジケートの来日公演だ。パコ・セリー(ds)とのアフリカ人タッグが生み出す強烈なリズムに魅了された。その後も渡辺香津美Mo'Bopトリオ、パット・メセニー・グループの一員としての来日公演(いずれも映像作品として商品化されている)を体験し、驚異的なテクニックとマルチ・プレイヤーぶりに圧倒されるばかり。近年は自己のグループを率いて来日する機会が増え、日本での人気も定着したようだ。今回はベース&ボーカルのボナの他にギター、キーボード、トランペット、ドラムという、シンプルな5人編成。ドラマーは最新アルバム『Bonafied』にも参加していたObed CalvaireからLudwig Afonsoに交代しているが、他は数年来活動を共にしているミュージシャン達だ。

 ソロ・アーティストとしてのボナは、今やトップ・ベーシストというだけでなく、アフリカン・ポップスを代表するスター。ライブ冒頭から、真っ先に耳に飛び込んでくるのは、母国カメルーンのドゥアラ語による美しい歌声だ。ほどなくして、それがとんでもないベースラインを弾きながら発せられていることに気付いて呆気にとられるのだが、そのぐらいで驚いてはいけないのだろう。文字通り一体化した声とベースが生み出すグルーヴは、唯一無二と言っていい。

 ボナのポリシーは、バンドメンバーの人選にも明確に表れている。普通に考えればアフリカ由来のリズムを表現するために必要ではないかと思われる民俗系打楽器の奏者は、ライブでは起用されず、ボナ以外のメンバーが発する音からアフリカ的な要素を見出すことは難しい。Tatum Greenblattの音遣いは紛れもなく"ジャズ・トランぺッター"のそれだし、スタイリッシュなスーツに身を包んだAdam Stolerに至っては、完全に"ロック・ギタリスト"の趣きで、ブルージーなフレーズを弾きまくる。楽曲の方も、英語で歌われる<Please Don't Stop>は洗練されたブラック・コンテンポラリーのように響き、<Shiva Mantra>にはあからさまなインド風フレーズがちりばめられている、といった具合。アフリカン・ポップスそのものがすでにグローバル化しているということもあるだろうが、むしろそういった異質な要素の融合が、(意図的ではないにせよ)ボナ自身の揺るぎない"アフリカ性"を、より際立たせている。音楽の幅が広がっても、芯はブレないのだ。

 ライブ中盤では、それまで若干抑え気味に思われた、超絶ベーシストとしてのボナの側面が炸裂。5弦フレッテッドから4弦フレットレスに持ち替えると、まずドラムとのデュオでたっぷりアドリブ・ソロをとり、そのまま<Teen Town>へ。この日は「ジャコの曲をもう1曲やろう」と名曲<Three Views of a Secret>も披露してくれて、嬉しいサプライズ。ジャコの魂が舞い降りてきたかのような、沁み入る演奏だ。先述のパット・メセニー・グループの来日公演で、やはりサプライズ的に演奏された<ブライト・サイズ・ライフ>の感動が蘇った。続いて演奏された、ボーカル+ディレイ・ループによる<Tumba La Nyama>も、この手法の先駆者と言うべきジャコへのオマージュが込められているに違いない。

 最後は客席も巻き込んで盛り上がる<O Sen Sen Sen>から縦ノリ的なロック・チューンの<Diba La Bobe>へとなだれ込み、ステップス・アヘッドの<Trains>のテーマが演奏されて本編終了(同バンドの来日公演が直後に控えていたからというわけではなくて、恒例らしい)。終始笑顔を絶やさず、聴く者すべてを幸福にする生来のエンターテイナー、いや「音楽の申し子」とでも言うべきか。深い充足感に浸りながら、会場を後にした。

註:トランペット奏者の名前は、ブルーノート、コットンクラブ共にLee Greenblattと表記されていましたが、正しくはTatum Greenblattであることを確認しましたので、本稿ではTatum Greenblattと表記してあります。

徳永伸一郎 Shin-ichiro Tokunaga
90年代後半からクラシックギター専門誌「現代ギター」に執筆を開始。現在は同誌と「Latina」誌に定期的に執筆。2002年以降、いくつかのCD、コンサートの企画制作も手掛ける。ギターが好きで、あらゆるジャンルのギタリストを聴くうちに、興味はジャズや中南米音楽へ。本業は理系の大学教員。

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