Live Report #774

SuperDeluxe & TEST TONE present!!

2015年1月10日 東京・六本木SuperDeluxe
text & photos by 剛田 武 (Takeshi Goda)

出演:
Anla Courtis × 灰野敬二
John Hegre × Nils Are Dronen × Jon Irabagon
PHEW × Rokapenis
L?K?O × Cal Lyall × 山本達久

DJ:
Evil Penguin

宣伝美術:
D.K.Z.(河村康輔+HAMADARAKA)

筆者が2014年に最も回数多く訪れたライヴハウス/コンサート会場は、計10回通った六本木SuperDeluxeだった。2002年のオープン以来一貫してオルタナティヴな音楽/アートを提供し続けてきたこのライヴハウスは、出演者のラインナップは勿論だが、企画イベントのユニークさも大きな魅力である。

そのひとつが「東京の不定形な芸術、音楽、パフォーマンスを毎月提供する実験室」をコンセプトとする入場無料のシリーズ・イベント「TEST TONE」だった。2005年から2014年までの9年間開催され、出演アーティスト数は500組に上る。殆どのパフォーマンスがこのイベントだけのスペシャル・セッションで、意外性のある組み合わせが生み出す創造性はまさに「実験室」と呼んでいい。2014年1月の100回目3daysで終了した「TEST TONE」の名前が、スーデラ2015年ライヴ営業初日イベントで復活したことは、どの出演者もメインアクト級の豪華大盤振る舞いのお年玉企画に相応しい。


●L?K?O × Cal Lyall × 山本達久

TEST TONE主催者でもある即興ギタリストのキャル・ライアルと、様々なプロジェクトに参加し活躍著しいドラマー山本逹久、さらに先鋭的ターンテーブル奏者L?K?Oという、言わばTEST TONEレギュラー・メンバーによるトリオ・セッション。L?K?Oは客席後方の特設DJブースで演奏するので、正面ステージの二人が透明人間と共演しているような不思議な雰囲気がある。姿の見えない演奏者(L?K?O)がPAから放射する強迫的なスクラッチ音に感化されて、焼け付くような山本とライアルの闘志溢れるプレイが爆走する。デュオでは成しえない、「即興」を越えた演奏の地平を見せてくれた。

●PHEW × Rokapenis

70年代末にパンク・バンド、アーント・サリーのヴォーカリストとしてデビューし、80年代からソロで独自の歌世界を追及するPHEW(フュー)は、2013年にエレクトロニクスと映像によるソロ・プロジェクトをスタートした。一人で数多くの電子楽器を操るエレクトロニカ・モードの演奏は、アーント・サリー時代に在籍していたインディ・レーベル、ヴァニティ・レコードのニューウェイヴ・テクノ路線と、80年代に共演したコニー・プランクやCANなどのジャーマン・ロックを融合したトランス電子音響。個性派映像アーティスト、ロカペニスのレーザー放射が、音の波長と同期し周波数強調するマジックを生み出し、狭いライヴハウスを電子砂嵐吹き荒れる大砂漠にワープさせた。

●John Hegre × Nils Are Dronen × Jon Irabagon

ノルウェー・ノイズ・ミュージックの代表格ジャズカマー(Jazkamer)のギタリストJohn Hegreと、ジャズカマーにもゲスト参加するドラマーのNils Are Dronenは1996年からPublic Enema名義でデュオ活動する。その音楽性はハイ・エナジー・フリー・フォームと呼ばれる激烈なもの。今回の来日に同行したのは、ニューヨークを拠点に活躍している実力派サックス奏者ジョン・イラバゴン。JazzTokyo Five by Five # 1161で細田成嗣氏が紹介したNYの個性派ジャズ・グループ、モストリー・アザー・ピープル・ドゥ・ザ・キリングのメンバーでもある。最近は伝説的ドラマー、バリー・アルトシュルとのトリオでの活動も報じられるNY即興シーンの闘士イラバゴンと北欧ハードコア・デュオとの邂逅が生み出したダイナミックな非ジャズ即興は、異能音楽愛好家が集う地下倶楽部を白夜の激情で焼き尽くした。

●Anla Courtis × 灰野敬二

アンラ・コーティスは、アルゼンチンのエクスペリメンタル・サイケデリック・ロックバンド、レイノルズの創設メンバーとして、90年代前衛ロック・シーンで名を馳せた。ソロとしても多彩な活動を行い、何度も来日し日本のミュージシャンとの共演も多い。2011年の来日時に、しきりに灰野敬二に会いたいと語っていた。その願いが叶って今回初共演が実現。右に灰野、左にコーティス。灰野が最近愛用する電気増幅スプリングの爆音ノイズとコーティスのフィードバック・ギターでスタート。続くギター・デュオ演奏では、激しいアクションで切れ味のよい轟音を掻き鳴らし、英語で自らの詩を歌う灰野に対して、コーティスはフォルクローレ・マントを纏って影のように舞いドローン演奏を繰り広げる。いつもは闇に立つ灰野にライトが当たり、カーニバル好きのアルゼンチン人が暗黒に隠れるという逆転劇は、血の臭いが漂う歓びの謝肉祭だった。

キャル・ライアルによれば、今年もSuperDeluxeで不定期に「TEST TONE」を開催予定とのこと。入場無料ではないそうだが、混沌から交歓へと移行した時代に於ける「実験室」の重要性は今まで以上にクローズアップされて然るべきだろう。

剛田 武 Takeshi Goda
1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。レコード会社勤務。
ブログ「A Challenge To Fate」 http://blog.goo.ne.jp/googoogoo2005_01

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追悼特集
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#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
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COLUMN
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今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


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