Concert Report #775

ドロテー・ミールズ ソプラノ・リサイタル
〜パリの音楽家たちとともに〜

2015年1月12日 津田ホール
Reported by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)

<演奏>
ソプラノ:ドロテー・ミールズ
フラウト・トラヴェルソ:パトリック・ビュークルス
バロック・チェロ:ハルム・ヤン・シュビッテルス
チェンバロ:三和睦子

<曲目>
G.Ph.テレマン:わが喜びは、あなたとともに TWV20:18
M.P.de.モンテクレール:カンタータ第8番『エウロペ』
J.S.バッハ:ファンタジーとフーガ BWV904(チェンバロ)
J.S.バッハ:魂よ、あなたの香油は『イースター・オラトリオ』BWV249より
-------------------(休憩)---------------------
G.F.ヘンデル:ラ・ビアンカ・ローザ HWV160c(ソプラノ、チェロ、チェンバロ)
G.F.ヘンデル:フルート・ソナタ ロ短調 HWV367b(フルート、チェロ、チェンバロ)
A.ヴィヴァルディ:チェロ・ソナタ イ短調 RV44(チェロ、チェンバロ)
G.F.ヘンデル:スウィート・バード オラトリオ『快活の人、沈思の人、温和の人』 HWV55より
--------------------(アンコール)----------------
G.F.ヘンデル:甘美な沈黙
G.F.ヘンデル:我が魂は貴方とともに

ドロテー・ミールズは1971年生まれのドイツのソプラノ、バロック分野が活動の中心だが、ジェラール・グリゼー等20世紀生まれの作曲家の作品もレパートリーとしている。ヨス・ファン・フェルトホーフェン指揮のオランダ・バッハ協会管弦楽団および合唱団とともに来日し、バッハの『ロ短調ミサ曲』でその声を聞かせてくれてはいるが、40代に入り円熟期を迎えた彼女を中心とするコンサートを居ながらにして聴けるのはたいへん楽しみであった。
すべてバロック期の作品で構成されたプログラム、彼女の透き通ったヴィブラートの少ない声はそれ自体が美しく、体に沁み込み、疲れた心をほぐしてくれる。ドイツ語、フランス語、イタリア語、英語の歌詞による世俗カンタータを歌い分け、技術的な困難を感じさせないばかりか、それぞれの作曲家の、そして作曲年代の違いもはっきりと浮かび上がらせる。器楽の三人も、ごく自然に寄り添い、おだやかな空気をつくりだしていた。
コンサートの前半では、モンテクレールの『エウロペ』が、レシタティフ(レチタティーヴォ)での物語りとエール(アリア)での感情の発露により、このギリシャ神話の一場面を生き生きと描き出し、聴きごたえがあった。後半では、ヘンデルの『ラ・ビアンカ・ローザ』の最初のアリア、歌いだしの部分の美しい響き、それだけで「美」への賛美が伝わってくる。それに続く装飾的な部分での歌唱も技術的な困難さを感じさせることなく、実に自然に歌い上げていた。
器楽のみの曲も、彼らが集まり日常的に楽しむといった雰囲気で、会場全体にあたたかい空気が流れる。なかでも、チェロのハルム・ヤン・シュビッテルスの安定した響きが全体を支えていた。
アンコールとしてヘンデルの『9つのドイツ・アリア』から二曲が歌われた。彼がロンドンに移った後の作品だが、ドイツ語の宗教的な内容の歌で、ゆったりとした曲想はこのコンサートを静かに締めくくるものとなった。
余談になるが、この日の会場であった津田ホールはこの3月末で閉館し、取り壊されることになっている。490席のこのホール、アッコルドーネ、インヴェルニッツィといったバロックの演奏家、二期会を中心とした多くの歌手、そしてアリオン音楽財団のコンサートなど、いろいろと楽しませていただいてきた。1988年竣工以来27年という期間、決して長くはなかったが、多様な音楽を体験することができた。感謝の気持ちの一方、淋しさも強く感じる。あの星型の照明もビデオの中でしか見ることができなくなってしまう。
私にとってはこれがこのホールとのお別れ、さようなら、津田ホール!

藤堂清 Kiyoshi Tohdoh
東京都出身。東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。ソフトウェア技術者として活動。オペラ・歌曲を中心に聴いてきている。ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウのファン。ハンス・ヴェルナー・ヘンツェの《若き恋人たちへのエレジー》がオペラ初体験であった。

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