Concert Report #777

樫本大進&エリック・ル・サージュ 2015年来日公演

2015年1月15日 サントリーホール
Reported by 藤原聡(Satoshi Fujiwara)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<演奏>
ヴァイオリン:樫本大進
ピアノ:エリック・ル・サージュ

<曲目>
フォーレ:ヴァイオリン・ソナタ第1番 イ長調 Op.13
プーランク:ヴァイオリン・ソナタ FP.119
フォーレ:ロマンス 変ロ長調 Op.28
フランク:ヴァイオリン・ソナタ イ長調

※ アンコール
フォーレ:子守唄 Op.16
マスネ:タイスの瞑想曲

樫本大進とエリック・ル・サージュのコンビによる演奏は、一足先にAlphaレーベルよりフォーレの『ヴァイオリン・ソナタ』のディスクが発売されていたのだが、今回のこの来日ツアーでは初めて彼らの実演を耳にすることが出来た。筆者が耳にしたのは1月15日のサントリーホール公演。

1曲目はディスクでも聴くことの出来るフォーレの『ヴァイオリン・ソナタ第1番』だ。ル・サージュの弾くピアノ前奏が実に素晴らしい。柔らかくしなやかで、全く力みがないのに力強い迫力もある。そこに乗ってくる樫本のヴァイオリンは、こちらも見事なものではある。しかしル・サージュに比べると、どこか硬い。自由に楽曲を呼吸しているこのピアニストとの対比において、どこか音楽が「外」にあるかのような印象を受けてしまう。まだこなれていないのか。前半2曲目のプーランクの『ソナタ』、冒頭で軽いハプニングが。弾き始めてすぐに樫本が演奏を止めてしまう。筆者はあまりよく分らなかったが、どうも本人として上手くいかなかったようである。すぐに再度演奏が始まったが、プーランクでは樫本も遥かにツボにはまっている。フォーレのようなある意味古典的なソナタではなく、表面的な意匠に対する変わり身の早さがキモであるプーランクのような現代的な曲においては樫本の上手さはいやが上にも際立つ。

休憩を挟んで再びフォーレの『ロマンス』(余談だが、後半開始前にRBブロック席に皇后美智子様がご来場)。こちらも休憩前のソナタと多かれ少なかれ同様の印象を受けたのだが、プログラムのトリであるフランクの『ソナタ』、こちらは掛値なしに名演であった。この曲はラテン的に軽やかかつ透明、いわば地中海的な気質とドイツ的に重厚な構築性が合わさった独特の内容を持っているけれど、樫本とル・サージュの演奏はこの両者のバランスがかなり理想的だったと思う。樫本の弾きぶりはここでも端正で真面目であり、「しな」を作ったりするところは皆無。しかしフランクではそれが物足りなくはならない。ル・サージュは樫本にぴったりと寄り添って抑制するところは抑制しつつも、ソロの箇所では相当のダイナミックさを聴かせる。そしてともすると樫本に欠けがちな情感を補っていたとも思える。個人的には、フランクの『ソナタ』をより情緒的に、敢えて言ってしまえば「ベッタリと」弾く演奏には辟易するところがあるので、この夜の演奏は大いに溜飲を下げたのだった。

熱烈な聴衆の拍手に応えてアンコールが弾かれたのだが、1曲目は筆者が弾いて欲しいと思っていたまさにその曲であった。フォーレの『子守唄』。この曲のメロディにはどこか懐かしさと物悲しさ、いくばくかの感傷性が入り混じり聴くたびに感じ入ってしまうのだが、樫本&ル・サージュのコンビはあくまでストレートに、しかし感情も込めて、素晴らしく美しく弾いた。ここで終わりかと思いきやさらに1曲、タイスの『瞑想曲』。ここでも甘さ控えめ、格調の高い樫本の演奏は逆に新鮮な感銘を聴衆に与えたのではないかと思う。満足。

藤原聡 Satoshi Fujiwara
代官山蔦屋書店の音楽フロアにて主にクラシックCDの仕入れ、販促を担当。クラシック以外ではジャズとボサノヴァを好む。音楽以外では映画、読書、アート全般が好物。休日は可能な限りコンサート、ライヴ、映画館や美術館通いにいそしむ日々。

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