Live Report #778

おめでとう!〜見砂和照と東京キューバンボーイズ〜結成65周年記念コンサート

2015年1月16日 メルパルクホール東京
Reported by 悠 雅彦(Masahiko Yuh)

東京キューバンボーイズ
見砂和照(cond)
ルイス・バジェ、横山均、石井真、城谷雄策(tp)
大高實(concert master)、早川隆章、内田日富、ジミー・セグトン(tb)、
貫田重夫(as, arranger)、Hal 斉藤(ts)、加塩人嗣(as)、五十嵐正剛(ts)、武田和大(bs)
テリー池谷、武藤裕二(b)
矢野顕太郎(ds)、納見義徳(bongo)、石川浩(conga)、斉藤恵(timbales)

<ゲスト>
ペギー葉山、雪村いずみ、久野綾希子、えまおゆう、湖月わたる、岸のりこ
ラス・ペルラス(コーラス)、Las Hermanas(ダンス)、神崎一人(振付)
石尾和子(司会)
東京スカパラダイスオーケストラ〜NARGO(tp)、北原雅彦(tb)、GAMO(ts)、谷中敦(bs)、沖裕市(kbrd)、加藤隆志(g)、川上つよし(eb)、茂木欣一(ds)、大森はじめ(perc)

 今日ほどビッグバンド活動がむずかしい時代はない。加えて、往年のビッグバンド時代を牽引してきた原信夫とシャープス&フラッツも活動に終止符を打った。シャープス&フラッツと肩を並べてビッグバンド黄金時代をリードし、世界的な注目すら集めたニューハードも、リーダーの宮間利之が傘寿を迎えて活動に復帰するという話題で沸かせはしたものの、かつての黄金時代の再現は望むべくもない。そんな中で、ラテン・ビッグバンドの名門、東京キューバンボーイズが結成65周年の記念コンサートを行った。これは朗報という以上の、誇張していえば快挙というにふさわしいイヴェントだった、とあえて大書したいと思う。これにはほんの少し説明が要る。
 キューバンボーイズを屈指のラテン・ビッグバンドに育て上げたリーダーは見砂直照である。1949年9月の結成後、見砂直照のもとで本場のキューバの音楽界からも賞賛を集めるほどの黄金時代を築いたバンドだったが、惜しまれつつも栄光の歴史を閉じたのは1980年2月のことだった。10年後の1990年に見砂直照が他界したあとは、OBたちが集まってコンサートを開くなどの不定期な活動を続けることによって辛うじて命脈を保っていたが、復活をすすめる関係者やファンの声にこたえるべく2005年に令息の和照氏が正式に再結成して新たな活動に踏み出した。かくして昨年9月に結成65周年を迎えた東京キューバンボーイズは、年が改まった2015年の去る1月、新たに生まれ変わった東京キューバンボーイズとしての第1歩を踏み出す、その活動宣言を披瀝したというわけだ。
 とはいえ、ここにあえて取り上げたのは過去の名声や懐旧趣味ゆえではなく、東京キューバンボーイズの演奏が再出発の狼煙を思わせる力強い演奏だったからに他ならない。「グラナダ」に始まって「マイアミ・ビーチ・ルンバ」、「ティコ・ティコ」、「南京豆売り」、後半で演奏した「マンボ・No.5」や「セレソ・ローサ」、バンドの黄金時代に在籍した内藤法美の編曲で多くの人々に愛された「城ヶ島の雨」など、東京キューバンボーイズゆかりの曲を、多くは現バンドの編曲者・貫田重夫の新しいアレンジで演奏し、バンドを応援するファンの期待に応えた。トロンボーン奏者でコンサート・マスターをつとめる大高實や、早稲田のハイソサエティ・オーケストラ時代は実を言えば私の同僚で、その後わが国屈指のラテン打楽器奏者として君臨し、今なお堂々と活躍する第1人者、当夜も”人間国宝”と紹介された納見義徳をはじめ、病欠の平田フミトに代わってピアノの椅子に座った名手テリー池谷ら多士済々の顔ぶれで、全盛時代を思い起こさせる活気のあるラテン・アンサンブルを披露して喝采を博したこの名門バンドの再出発をあらためて祝福したい。後半ゲスト・バンドとして招いた東京スカパラダイス・オーケストラとのバトルでも負けない力強さとノリを示して意気軒昂ぶりを発揮したこの名門バンドが、今後どんな展開を見せてくれるかを注視していきたいと思う。
 ゲストも多彩。ペギー葉山を筆頭に雪村いずみ、湖月わたる、えまおゆう、久野綾希子に、後半の岸のりこ&ラス・ペルラス、ダンスのラス・エルマーナス。舞台が重なったため出演が不可能になった水谷良重も花束を持って駆けつけて祝福した。それにしても雪村いずみの声も動きも若いこと! また、20年以上も前にハバナで会ったことがある岸のりこが「ロケ・メ・ケダ・ポル・ビビール」で成熟し切った素敵なヴォーカルを聴かせてくれたこと等々、ラテン音楽の熱気に酔いながら2時間を超える熱演を存分に楽しんだ。ゲストの温かい応援のヴォーカルや演奏に祝福されて、新生東京キューバンボーイズが勢いよく船出したことを喜びたい。
 最後はアンコールの「クマーナ」とキューバのサンテリア儀式に題材をとった「キューバン・ファンタジー」。客席で拍手する原信夫の笑顔が印象的だった。

悠 雅彦 Masahiko Yuh
1937年、神奈川県生まれ。早大文学部卒。ジャズ・シンガーを経てジャズ評論家に。現在、朝日新聞などに寄稿する他、ジャズ講座の講師を務める。共著「ジャズCDの名盤」(文春新書)、「モダン・ジャズの群像」「ぼくのジャズ・アメリカ」(共に音楽之友社)他。本誌主幹。

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