Concert Report #780

Music Weeks in TOKYO 2014
プラチナ・シリーズ 第2回 〈バッハ・コントラスト〉
ハンスイェルク・シェレンベルガー&堀米ゆず子&中野振一郎 他

2014年1月21日 東京文化会館小ホール
Reported by 佐伯ふみ(Fumi Saeki)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

【出演】
ハンスイェルク・シェレンベルガー(オーボエ)
堀米ゆず子(ヴァイオリン)
中野振一郎(チェンバロ)
山本 徹(チェロ)

【曲目】
J.S.バッハ:トリオ・ソナタ ト長調 BWV1039
ハインツ・ホリガー:独奏オーボエのためのソナタ(1956/1999)
J.S.バッハ:トリオ・ソナタ ニ短調 BWV1036
J.S.バッハ:トリオ・ソナタ ハ長調 BWV1037
三善晃:ヴァイオリンのための「鏡」(1981)
J.S.バッハ:「音楽の捧げもの」BWV1079より トリオ・ソナタ

 優れた音響で知られる東京文化会館小ホールで、東西の名手の音楽に耳を傾ける「プラチナ・シリーズ」。今回は、ベルリン・フィルで長く活躍し国際オーボエコンクール・軽井沢の審査委員長を1994年以来つとめているオーボエの第一人者シェレンベルガーと、ヴァイオリンの堀米というツー・トップで、バッハと現代作品のコントラストを楽しむという趣向。

 名手2人、だが、バッハのトリオの、特に前半はハラハラさせられた。堀米のヴァイオリンはフレーズの入りも終わりもふんわり柔らかく、いかにも自然な呼吸。まろやかで品格ある響きに、さすが、と感嘆した。ところがそうした音楽作りが、シャープでアグレッシヴなシェレンベルガーのオーボエとは微妙にずれる。アタックは柔らかく自然だが、そのあとで必ず音をふくらませて響かせようとするヴァイオリンが、常に音楽に遅れがちと聞こえるのである。『BWV1039』<アダージョ>の終わり近くでは、拍と、さらに音程までがばらけて、かなり危うい「事故」も発生。バッハの、そしてトリオの音楽は、いかに名手といえども即製のアンサンブルでは難しい、ということを再認識させられた一幕だった。
 後半になってアンサンブルが落ち着き、破綻なくまとめるようになったところで、がぜん聞こえてきたのが、屋台骨を支える2人、中野のチェンバロと山本のチェロである。チェロはいささか控え目すぎてもどかしくなるくらいだが、バッハの合奏曲に対する確固とした哲学をもっていて、そこから一歩も譲らないという音楽作りをしていることがよくわかる。中野はさすが安定感があり、饒舌でありながら見事にアンサンブルに溶け込む、バランスのとれた演奏だった。

 ソリスト2人が本領を発揮したのは、ソロの現代作品。ホリガーの若さあふれる超絶技巧のソナタを一気呵成に演奏しきったシェレンベルガーには惜しみない拍手が送られていたし、堀米による三善の『鏡』も渾身の演奏。1年前のお別れの会でも同じ曲を聴いたが、今回のこの演奏で改めて、三善作品の奥深さと、堀米の技倆に感嘆した。

佐伯ふみ Fumi Saeki
1965年(昭和40年)生まれ。大学では音楽学を専攻、18〜19世紀のドイツの音楽ジャーナリズム、音楽出版、コンサート活動の諸相に興味をもつ。出版社勤務。筆名「佐伯ふみ」で、2010年5月より、コンサート、オペラのライヴ・レポートを執筆している。

WEB shoppingJT jungle tomato

FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.