Concert Report #783

いずみシンフォニエッタ大阪 第34回定期演奏会
新・音楽の未来への旅シリーズ
「リズムの秘宝〜世界の創造」

2015年1月25日 いずみホール(大阪)
Reported by 佐伯ふみ(Fumi Saeki)
Photos by 樋川智昭(Tomoaki Hikawa)

【出演】
いずみシンフォニエッタ大阪
指揮:板倉康明
サクソフォン:西本 淳
ピアノ:福間洸太朗

【曲目】
コープランド:アパラチアの春
ロタル:シャクティ〜サクソフォンと室内オーケストラのための協奏曲
リゲティ:ピアノ協奏曲
ミヨー:世界の創造 op.81

 今年で結成15年を迎える、いずみホールのレジデンス・オーケストラ、いずみシンフォニエッタ大阪。今回の定演は指揮に板倉康明を迎え、「リズム、音色、旋律そしてアンサンブル、様々な面で個性的な作品を集めた」(音楽監督:西村朗)プログラムで、ソリストも傑出した若手が2人も。4曲のうち、たとえ3曲だけでも聴衆は満足して帰っただろう。サービス精神満点、関西音楽界のパワーを目の当たりにした、楽しいコンサートだった。

 開幕のコープランド『アパラチアの春』は、通常の2管編成オケの組曲ではなく、1944年初演時の小編成版(管楽器3本+ピアノ+弦楽器)。このオリジナル版を聴けるのは貴重な機会で、各楽器が実に洒落た扱いをされているのがわかり、コープランドの才気を改めて見直す思い。

 ディアナ・ロタルはルーマニアの若手作曲家(1981年生まれ)。この作品は入野賞受賞作(第25回)で、本日の指揮者である板倉康明(+東京シンフォニエッタ+ダニエル・ケンジー)が2005年に初演。ソロ・サクソフォンとオケが凄まじいやりとりを展開するハードな1曲。タイトルはヒンドゥー哲学の「宇宙を動かす根源的な力」を表す。ソロの西本淳が何本かの音域違いの楽器を持ち替えつつ、まさに体当たり、全身全霊でオケと厳しく対峙し、エネルギーを引き出し、取り込み、また相手に返していく。エネルギーのうねりが音となって噴出してくるような、圧巻の演奏だった。

 西本の熱演を受けて後半第1曲に登場したのは、これも傑出した若手演奏家、福間洸太朗。彼がリゲティのあの超・難物の『ピアノ協奏曲』(1988年作曲)に挑戦するというのが、このコンサートの呼び物の一つであった。落ち着きはらって、難しいことなど何もないかのように弾ききった福間には、驚嘆しすぎて半ばあきれるくらい。いずみシンフォニエッタの面々も、破綻なくまとめた板倉もすごい。でも欲を言えばだが、ソリストにはもう少しケレン味がほしい気がした。「すごい」ことを、いかにも「すごい」と聴衆に印象づけ圧倒することも、パフォーマンスの大事な一要素。理知に野卑が加わって初めて演奏に火がつく。

 最後のミヨー『世界の創造』(1923年初演)は、いよいよいずみシンフォニエッタが主人公、ともいえる選曲。オケの一人一人が熱演、ジャズをバックボーンにした独特のグルーヴ感が素晴らしい。板倉のきびきびした手さばきが、見て・聴いて心地よく、際立った存在感を放っていた。

佐伯ふみ Fumi Saeki
1965年(昭和40年)生まれ。大学では音楽学を専攻、18〜19世紀のドイツの音楽ジャーナリズム、音楽出版、コンサート活動の諸相に興味をもつ。出版社勤務。筆名「佐伯ふみ」で、2010年5月より、コンサート、オペラのライヴ・レポートを執筆している。

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