Concert Report #784

プラハ・フィルハーモニア管弦楽団2015年日本公演

2015年2月6日 サントリーホール
Reported by 藤原聡(Satoshi Fujiwara)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<演奏>
指揮:ヤクブ・フルシャ
チェロ:ミッシャ・マイスキー

<曲目>
ドヴォルザーク:序曲「謝肉祭」op.92
同:チェロ協奏曲ロ短調op.104
(マイスキーのアンコール)
同:「森の静けさ」op.68-5
J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第2番ニ短調BWV1008〜サラバンド
(休憩)
ドヴォルザーク:交響曲第9番ホ短調「新世界より」op.95
(アンコール)
同:スラヴ舞曲第10番ホ短調op.72-2、第15番ハ長調op.72-7

 東京都交響楽団の主席客演指揮者に就任し、我々日本人にもより近しい存在となった俊英ヤクブ・フルシャが、音楽監督を務めるプラハ・フィルハーモ二ア管弦楽団と3年振りに2度目の来日公演を行なったが、筆者は2月6日のサントリーホール公演を聴くことができた。オール・ドヴォルザーク・プロ。
 見たところ編成はやや小さめ。弦楽は12型で、コントラバスは5人。1曲目の『謝肉祭』序曲では、その小ぶりな編成が功を奏したというべきか、ともすると雑然とした響きになりがちなこの曲の各部分が実に整然と美しく耳に届いてくる。フルシャという人は、何度か接した実演及び録音からの印象では、基本的に理知的かつ端正な音楽作りを志向する指揮者のように思われるけれども(それが場合によっては「冷たい」という印象にも繋がっていた)、ここではドヴォルザークといういわば「お国モノ」のせいか、端正路線は変わらないがどこか人懐っこい表情付けが見え隠れする。「前菜」として上々の出来栄え。
 2曲目はマイスキーを迎えての『チェロ協奏曲』。聴く前からの印象では、大掛かりなロマン的没入を見せるマイスキーと前述したフルシャの芸風がどういう形で折り合いが付けられるのか興味津々であったが、ここではやはり、というべきか主導権はマイスキーにあるようだ。筆者はマイスキーの実演は初めてなのだが、まず音の大きさと図太さ、迫力に驚かされた。ちょっと格が違うという感じである。しかし、聴いている内に、基本音量が大きなままで、かつ表現自体のメリハリというか幅はあまり広くないのでは、と感じられて来る。もっと言えば「力で押し切る」印象。とは言いながらもこれだけ堪能させてくれるチェロを他に誰が弾けるのか。主導権はマイスキーでありつつも、フルシャも大人しく引っ込んでいるばかりではない。マイスキーとは対照的にシャープで、それでいて朴訥な温かみある音色と歌い回しでチェリストをサポートする。それぞれの芸風は違えど、見事に調和してしまうのが協奏曲の不思議でもある(言うまでもなく、ソリストと指揮者=オーケストラがまるで別の方向を向いた「迷演」もままある。これがそうならなかったのはひとえにフルシャの音楽性と知性の賜物である)。協奏曲終演後、熱狂的な拍手に応えて同じくドヴォルザークの『森の静けさ』とバッハの『無伴奏チェロ組曲第2番』のサラバンドをアンコール。筆者は協奏曲よりもさらにこちらの方が名演奏と感じた。
 休憩を挟んでは『新世界より』。機動性の高いリズミカルな演奏と評すべきか。編成の小ささもあり、大迫力で聴かせる代わりに弱音を際立たせ、それゆえにクライマックスがメリハリ効果で生きる。少人数のオケでも心理的な迫力は十分だ。ソロも皆上手く、細やかなニュアンスの表出と各楽器の受け渡しも冴え渡るーーと、これ単体で聴くのならば相当な名演奏と思うのだが、幸か不幸か昨年10月にフルシャの師匠(本人は教えてはいないと言っているようだが)のエリシュカが読響を振った同曲の超絶的名演奏が未だに耳朶に残って離れない中、これは分が悪かった。一般に、演奏がどれだけの高みに達することが可能なのかは、当たり前のようだが「僥倖」とも呼ぶべき実際の奇跡的な演奏現場に遭遇することによってしか「体感」できない。1度奇跡を味わうと、他が全てそれとの比較になってしまう(危険だ)。何だかフルシャのコンサート評でエリシュカを礼賛するのも妙な話ではあるが、こういう脱線も含めたあれやこれやに思いを巡らせることも含め、筆者はこのコンサートを心から楽しんだと言うことでご理解頂ければ。
 オケのアンコールは2曲、『スラヴ舞曲第第10番』と『15番』。大体アンコールが1番良いというケースはしばしば生じるものだが、これも正にそれ。文句の付けようのない秀演。

藤原聡 Satoshi Fujiwara
代官山蔦屋書店の音楽フロアにて主にクラシックCDの仕入れ、販促を担当。クラシック以外ではジャズとボサノヴァを好む。音楽以外では映画、読書、アート全般が好物。休日は可能な限りコンサート、ライヴ、映画館や美術館通いにいそしむ日々。

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