Live Report #790

守屋純子オーケストラ 〜 Big Band Plays Hard Bop

2015年2月20日 渋谷区文化総合センター大和田・さくらホール
Reported by 悠雅彦(Masahiko Yuh)
Photos by 土居政則

<第1部>
1.Blowin' the Blues Away
2.Moon Rays
3.A Touch of Monk
4.Sing Your Song
5.Señor Blues 

<第2部>
1.St. Vitus Dance
●徳川家康公ジャズ組曲/厭離穢土・欣求浄土(おんりえど、ごんぐじょうど)
2.House of the Winner(表家康公)
3.Another side of the Winner(裏家康公)
4.Samurai Spirit of Mikawa Warrior(三河武士魂)
5.Mt. Kuno(久能山東照宮)
6.Groovin' Forward
(Anc.) Dear Hunter より

守屋純子(pf, comp, arr)
エリックミヤシロ、木幡光邦、奥村晶、岡崎好朗(tp)
片岡雄三、佐藤春樹、東條あづさ(tb)、山城純子(b−tb)
近藤和彦(as, ss, fl)、緑川英徳(as)、岡崎正典(ts, fl)、アンディー・ウルフ(ts)、宮本大路(bs)
納浩一(b)、広瀬潤次(ds)、岡部洋一(perc)

 昨2014年6月18日、往年のハード・バップの孤塁を独り死守していた観すらあったピアニスト、ホレス・シルヴァーが永眠した。享年84歳だった。
 ピアニストとしてよりもむしろ作曲家として、私はソニー・クラークとともにホレス・シルヴァーが大好きだった。モダン・ジャズ黄金時代、とりわけファンキー・ジャズの牽引者としてのシルヴァーを筆頭に、ジャズ・メッセンジャーズのアート・ブレイキー、ソニー・ロリンズ、セロニアス・モンクら60年代初頭に来日した彼らの活躍があったからこそ、日本にモダン・ジャズの花が咲いたといっても断じて言い過ぎではない。ところが不思議なことに、ブレイキーと袂を分かったのちクィンテットを率いたシルヴァーはわが国ではアート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャーズのような熱狂的大衆人気を博することがなかった。だが、シルヴァーのペンが生んだ数々の佳曲、<ドゥードゥリン>、<プリーチャー>、<セニョール・ブルース>、<ソング・フォー・マイ・ファーザー>を含めたこれらのオリジナル曲がファンキー・ブームの呼び水となり、人々の愛聴曲として今なお生き続けている。それがこの夜、守屋純子にも生き続けていたことを知って感慨を新たにした。そして、守屋純子オーケストラが演奏するシルヴァー作品を聴きながら、<ブロウイン・ザ・ブルース・アウェイ>で幕が開いたこの夜、久しぶりに涙した。
 守屋純子はこのオーケストラを組織して以来、毎年律儀に定期演奏会を催している。現代ではジャズのビッグバンドを率いることがいかに至難かは贅言を要すまい。このオケは角田健一ビッグバンドのように常時活動しているわけではないが、年に1度の定期公演だけは決して欠かさない。不定期ながら活動を続けている小曽根真のNo Name Horsesと双璧だろう。メンバーもほとんど変わらないだけに、アンサンブルの一体的な充実感は増しこそすれ衰えなど微塵もない。バンドは<ブロウイン・ザ・ブルース・アウェイ>に続いて、<ムーン・レイズ>を演奏し、守屋純子の2曲を挟んで有名な<セニョール・ブルース>で前半を締めくくった。中でも58年作の<ムーン・レイズ>を取り上げ、自らの新しいアレンジで演奏し、曲の魅力となっている一種のファンタジーに光を当てたことを特筆したい。確認はしていないが、ビッグバンドによる新しい編曲でこの曲を披露した初の例となるのではないか。<Moon Ray>(Moonrayとも表記する)といえば、アーティ・ショウら3人が作曲した同名の佳曲がある。ショウ楽団の演奏(39年)でヒットし、同年にはエラ・フィッツジェラルドが歌った。私はロイ・ヘインズ・クヮルテットにおけるローランド・カークの演奏が好きだったが、シルヴァーのこの<Moon Rays>とどちらが好きかと問われたら答えに窮する。この2曲は私には甲乙つけがたい。彼女が高く評価する曲だけあって、アンサンブル・ワークを活かして色彩性にも意を払った守屋のオーケストレーションが素晴らしかった。
 休憩後の第2部の冒頭を飾ったトリオ演奏(守屋純子、納浩一、広瀬潤次)も、曲はシルヴァーの<St. Vitus Dance>だった。守屋が大のシルヴァー・ファンであることを示した好ましい演奏。この演奏での納浩一のボウイングといい、前半の「シング・ユア・ソング」でフィーチュアされたエリックミヤシロのソロといい、どれもさすが第1級の実力者たちのソロ。いわずもがな聴きごたえ充分だった。
 このトリオ演奏後のビッグバンド演奏が、守屋としては強くアピールしたいものだったろう。プログラムに自ら書いたように、今年は<徳川家康公顕彰400年>とかで、彼女は家康公ゆかりの岡崎市、浜松市、静岡市という3市から家康の足跡をテーマとする組曲作品を委嘱された。司馬遼太郎の『覇王の家』を読んで家康の人生のあらましを学んだという守屋はこの夜、岡崎と静岡から委嘱された2曲を初演した。浜松からの委嘱作品は同市での恒例のイベント、浜松ジャズ・ウィークで初演する約束になっているとのことで披露されなかった。このうち家康公ジャズ組曲の(2)と(3)はすでに昨年の定期公演で紹介されたので、(4)と(5)が初披露曲ということになる。むろん守屋のペンは現在絶好調を維持しており、どちらも興味深く聴いた。ただし、徳川家康を称え顕彰したジャズ組曲としては浜松作品を含めた全体を聴かせてもらった後で、改めて機会を得て取り上げることができればと考えている。

悠 雅彦 Masahiko Yuh
1937年、神奈川県生まれ。早大文学部卒。ジャズ・シンガーを経てジャズ評論家に。現在、朝日新聞などに寄稿する他、ジャズ講座の講師を務める。共著「ジャズCDの名盤」(文春新書)、「モダン・ジャズの群像」「ぼくのジャズ・アメリカ」(共に音楽之友社)他。本誌主幹。

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