Live Report #794

今井和雄 齋藤徹 ロジャー・ターナー

2015年3月2日 バーバー富士
Reported & photographed by 玉井新二(Shinji Tamai)

今井和雄 Kazuo Imai (g)
齋藤徹 Tetsu Saitoh (b)
ロジャー・ターナー Roger Turner (ds)

27年間で104回の「自宅ライヴ」

「バーバー富士」で、今井和雄(g)齋藤徹(b)ロジャー・ターナー(ds)という素晴らしい組み合わせのセッションがあるというので、駆けつけた。「バーバー富士」については、ネットなどで目にはしていたが、実際に行ったのは今回が初めてだった。高崎線大宮駅から2つ目、上尾駅から徒歩10分弱の静かな住宅街にある床屋さん。理容椅子2脚のそう広くはないお店で、すでに100回を超える即興ライヴ(自宅ライヴ)が行われているという。
バーバー富士のHPによると、1988年5月のルー・タバキン〜デイヴ・ホランドを皮切りに、レオ・スミス、バール・フィリップス、ミッシャ・メンゲルベルク、ポール・ラザフォード、ペーター・ブロッツマン、イレーネ・シュヴァイツァー、姜泰煥、ルイ・スクラヴィス、ローレン・ニュートン、ジョン・ラッセル、ジョン・ブッチャー、日本人では豊住芳三郎、齋藤徹をはじめ、梅津和時、翠川敬基、高木元輝、灰野敬二、広瀬淳二、内藤和久、板橋文夫、板倉克行、今井和雄、林栄一など、内外の即興演奏のそうそうたるメンバーが顔をそろえている。そして今回の今井〜齋藤〜R.ターナーによる即興ライヴで104回目をむかえた。27年間継続してき力、その強い信念はどこから生まれてきたのか…。お店のオーナーで主催者の松本渉さんに聞いてみた。
「上尾ジャズクラブの会長をしていた当時、レコードコンサートからライヴコンサートまで手がけました。赤字が増えて続けるのが困難に、でも好きなミュージシャンのライヴはあきらめきれない…。そんな時、上尾ジャズクラブで主催したR.タバキンがD.ホランドと来日することを聞き、『ぜひ呼びたい、何とかできないものか』との思いから、88年5月、第1回自宅ライヴが始まったんです」と話す橋本さん。じつに飄々とした温和な表情で、いつものことのようにライヴの準備を進める。そして、近隣に音が漏れないように店のシャッターを下ろすと、演奏がスタートした。

・松本さんとミュージシャンのお店での交流風景
http://members.jcom.home.ne.jp/barberfuji/impro.html


孤高の領域に迫るプレー

スネア1つにシンバル2つ、小さなハイハットというターナー、まるでムダを極限までそぎ落としたシンプルなスタイルだ。まったくアコースティックな演奏の中、ギターやベースの音がきれいに立ち上がり、それぞれの音がかき消されることがない素晴らしいバランスが保たれていた。百戦錬磨、世界各国のミュージシャンとの即興演奏やミクスドメディアとのパフォーマンスを渡り歩いてきた達人の制御された繊細なプレーが感じられた。
一方、この日の演奏の導火線を握っていたのは今井だった。白熱した演奏の中で、エフェクターなど使わず、ガットのみでここまでアブストラクトな音を変幻自在に放つ、その技量と情熱に、聴き手も、奏者も引き込まれていく。高柳昌行の「煉塾」で尖鋭的な音楽の生みの苦しみと向き合い、「タージマハル旅行団」の小杉武久の壮大な宇宙観の下で無限に広がる音世界を体現した今井。そのストイックなまでに凝縮された音の連なりが絶頂へ登り詰め弛緩してゆく、もはや孤高の領域に迫るといっても過言ではないと思う。
このライヴに最多の24回出演している齋藤は、文字どおり松本さんとともに「自宅ライヴ」を支えてきた中心的人物。卓越した技法と奇抜なアイデア、その豊かな表現力で惜しみなく奏でてくれる。そしてターナーの演奏の中に、ジャジーなリズムとビートが消し難く流れていたのを確認できた。とにかく、三者三様に語り、叫び、投合した素晴らしい演奏の渦の中で、寒さを忘れるほどホットな時空を体験させていただいた。

なお、バーバー富士では自主レーベルで3枚のCDをリリースしているほか、内外の貴重な即興演奏のCDを販売しており、レーベル別、アーチスト別リストがアップされている。
@レオ・スミス=豊住芳三郎「Cosmos has Spirit」(1992.4.13 バーバー富士)
A齋藤徹=Michel Doneda「M'uoaz」(1995.フランスツアー)
B齋藤徹=Michel Doneda「春の旅 01/Spring Road 01」
・詳しくは以下のアドレスで!
http://members.jcom.home.ne.jp/barberfuji/fuji.html

玉井新二 Shinji Tamai
北海道札幌市生まれ。1971年法政大学卒業。ニュージャズホールのスタッフとして『off jazz』誌創刊(70年)、『JAZZ批評』誌編集(71〜79年)、同時にProject21として大橋邦夫とコンサートの企画・公演(高柳昌行、富樫雅彦、加古隆など)を行う。その後、ジャズ界から離れるが、最近、ライヴ会場等に出没。

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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
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