Live Report #797 |
ステップス・アヘッド ブルーノート東京 |
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月曜夜にもかかわらず、そしてチャージが1万円を超えるのに2セットとも超満員となったブルーノート東京。マーカス・ミラーが日本のファンにとって最高のカリスマベーシストであることを思い知らされる。振り返ってみると、マーカスは1959年生まれ、ウィントン・ケリーの甥、1981年に『Miles Davis / The Man with a Horn』に抜擢、以来、マイルス・デイヴィスを支える。1983年にリーダーアルバム『Suddenly』を発表。日本においては『渡辺貞夫 / Orange Express』『渡辺香津美 / To Chi Ka』といったフュージョンの名盤を支えていたことが記憶される。特に<Unicorn>のベースラインは印象的だった。以降、ファーストコールのベーシストとして500を超えるレコーディングに参加、プロデューサーとしても数々のヒットを生み出している。
前作の『Renaissance』から3年を経て、2月中旬に『Afrodeezia』が発売された直後のライブ。「想像を絶する苦難の中にあっても、癒しと強さをもたらす音楽の力に、自分の心を捧げ続けます。UNESCOのArtist for Peaceとして、また奴隷制度問題プロジェクト(Slave Route Project)のスポークスパースンとしての役割にインスパイアされて『Afrodeezia』を創りました」。前作に収められた<Goree>も奴隷貿易の拠点セネガルのゴレ島に因んだ一曲で、今作への出発点となったという。奴隷制度とは過去のものと思ってしまいがちだが、イスラム過激派が異教徒の村を襲撃し、子供たちほぼ全員を誘拐して奴隷にし、少女を売買し改宗させ結婚を強制する、少年兵にするなどの状況はむしろ急激かつ広範囲に拡大している。たとえばリチャード・ボナの故郷カメルーンでも国境の村でこの事件が起こっており、またTwitterで少女売買の情報が交換される、などいかに身近な問題かがわかる。いわゆる先進国ですら拡大する貧富の差の中で生き方の選択が困難になり、軍隊にでも入らなければ大学にも行けないような状況も広義ではつながるかも知れない。黒人が警察に暴行死・射殺された昨今の事件にもマーカスは心を痛める。そして、アフリカから連れてこられた黒人が苦難の中で希望を託した音楽に想いを馳せる。モロッコ、ナイジェリア、サンパウロ、カリブ、パリ、ルイジアナ、シカゴ、デトロイト、ニューヨークなど世界を旅しながら録音を行い、ブラックルーツミュージックのエッセンスを取り入れてルーツを辿っていく。
1曲目は、マーカス・ミラーがデヴィッド・サンボーンに提供した<Run for Cover>。初出が1981年録音の『David Sanborn / Voyeur』だから23歳の作品だ。ブラスのアンサンブルとともにマーカスのスラップが冴える最も有名な曲のひとつだが、出し惜しみせず最初に持って来て、いきなり盛り上がりの絶頂に。そしてこれは単に過去を振り返るだけでなく、今年4月にリリースされる新作アルバム『David Sanborn / Time and the River』が15年ぶりのマーカスのプロデュースというところにつながる。ところで、このアルバムの何が凄いってジャケットが漢字の「サンボンがわ」だ!!
そしてこれ以降は新作『Afrodeezia』から。<B’s River>では、テーマの1回目に北アフリカ・モロッコの「グナワ音楽」の「ゲンブリ」という弦楽器をマーカスが弾き、アフリカ的なグルーヴを生み、やがてベースに持ち替えるが、ゲンブリとベースは構え方と音色も似ているし連続的につながっていく。ゲンブリは現地のフェスティバルでプレゼントされたものだという。ブレット・ウィリアムスのピアノ風キーボードの美しさが光る。
<We were There>は、ジャヴァンとの共作で、昨年亡くなったジョージ・デュークと今年亡くなったジョー・サンプルに捧げられた。アルバムではロバート・グラスパーとレイラ・ハサウェイがゲストに加わっている。ブラジル音楽を愛したジョージとジョーを想い、バンドがサンバのリズムで音楽の喜びを表現し、観客も心を一つにした。続いて定番となったバスクラリネットでのバラード。<My One and Only Love>を低音から高音まで自在に歌い上げる。
今回の来日メンバーは『Afrodeezia』に参加していて、うちアレックス・ハン、アダム・アガティ、ルイス・ケイトーは前作にも参加している。マーカスの耳が選んだメンバーだけあり、演奏は巧みで繊細でありながらゆったりした気持ちのよいグルーヴを生み出す。リズムの役割が大きすぎるブラックルーツミュージックにあって、パーカッショニストを置くことなく、ルイスが一人でその重責を果たしきる。アレックス・ハンのサックスと、リー・ホーガンのトランペットは、優れたブラスアレンジのもとで、テーマにバックリフにソロに力を出し切り素晴らしい演奏を聴かせる。マイルスの右腕であり、自らも管楽器を吹くマーカスが、ハードバップで多用された3管・2管編成を現代に昇華させていくように思える。
<Hylife>は、西アフリカで1970年代に流行したhigh lifeにインスパイアされた曲。ハイテンポでリズムを刻み、2管でのハーモニーにヴォーカルがつながり、スラップを交えたベースが歌う。スピード感があり軽快でありながら、心の底から揺さぶるようなグルーヴの深さのバランスは絶妙で、マーカスの真骨頂を見る。そして鳴り止まない拍手で讃えられながら、ステージを降りる。
アンコールで演奏された<Son of Macbeth>は、パーカッショニストのラルフ・マクドナルドに捧げられた曲。19歳のときラルフに認められて、ボビー・ハンフリー、ラルフ、スティーブ・ガッド、リチャード・ティー、エリック・ゲイルとの録音に1曲だけ参加する機会を得る(予定されていたアンソニー・ジャクソンが席を譲る)。こうしてマーカスの輝かしいスタジオワークへの一歩を踏み出すきっかけを作ったのがラルフだった。トリニダード・トバゴ出身のラルフに因んでカリプソで作られた<Son of Macbeth>、日本で活躍するスティールパン奏者のトニー・ガッピーがゲストで参加し、カリブの雰囲気が高まる。マーカスは「みんなカリプソを知ってるか?知らなきゃ俺が教えてやるぜ!」と笑う。アダム・アガティのギターも強い存在感を見せる。客席の盛り上がりは最高潮に達した。
2月21日にはブルーノート東京でベースクリニックが開催され、すぐに予約でいっぱいになり、ベーシストたちに熱狂的に迎えられて有意義な講義が行われたことも付記しておく。次は『David Sanborn / Time and The River』のツアーだろうか。ライブでこそ伝わるマーカスの魅力、次回の来日も楽しみだ。
【関連リンク】
Marcus Miller 公式ウェブサイト
http://www.marcusmiller.com
Afrodeezia ビクターエンターテイメント公式YouTube
https://youtu.be/9CGnTC4GVsA
【JT関連リンク】
International Jazz Day Global Concert 2014 Osaka
http://www.jazztokyo.com/live_report/report686.html
Afrodeezia | Renaissance | David Sanborn / Time and The River |
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
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#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
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#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
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