Concert Report #804

オーケストラ・アンサンブル金沢 第31回東京定期公演

2015年3月24日 サントリーホール
Reported by 藤原聡(Satoshi Fujiwara)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<演奏>
指揮:井上道義
オーケストラ・アンサンブル金沢
ヴァイオリン独奏:アビゲイル・ヤング
ピアノ:仲道郁代

<曲目>
ペルト:フラトレス〜ヴァイオリン、弦楽および打楽器のための(1977/1992)
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番 ト長調 作品58
シューベルト:交響曲第8(9)番 ハ長調 D.944「グレート」

 オーケストラ・アンサンブル金沢の第31回東京公演は病癒えたる我らが井上道義指揮で行われた。
 1曲目はぺルトの『フラトレス』。寡聞にして他の実演に接したことがなく、はたまた映像でも見たことがないのだが、ヴァイオリン・ソロ(コンサート・ミストレスのアビゲイル・ヤング)がオケの前方に立ち、ヴァイオリン協奏曲のような形態で演奏した。本来このような形なのだろうか。パーカッションは上手ステージ袖から演奏、ぺルトの多くの曲がそうであるように幽玄で重力の感じられない、無時間的な音世界がしばし繰り広げられる。陶然。
 仲道郁代が弾くベートーヴェンの『ピアノ協奏曲第4番』は、ぺルトの空気を引きずった、という訳ではないだろうがこれも「ふと気付いたら音楽が始まっていた」というようなさりげなさの極み的開始。仲道のピアノはニュアンスがよく付き、実に繊細である。井上のサポートは、少なめなオケの人数ということもあるだろうが対照的にソリッドな表現に傾いていたように思える(この曲では珍しい)。ソロとオケに若干の方向性の違いを感じながらも、不思議と違和感が感じられない佳演。
 トリはシューベルトの『グレート』。ここでも、人数が少なめのオケということもあるだろうが、木管群のバランスが強めに聴こえるのが楽しい。第1楽章では冒頭からどこか冴え冴えとした雰囲気があり、手探りで進んで行くような不思議な感触がある。対して、主部の素晴らしいリズム感。この辺りの設計が見事だ。楽章終結部は金管を抑え目にして洗練されて趣味の良い、力で押さない美しい演奏となっていた(ここでこれ見よがしに盛り上げる演奏は恥ずかしい)。第2楽章では第1楽章から受け継がれるリズム的律動感に一体感がある(心持ち遅めのテンポ)。素晴らしくノリのよいスケルツォに続いての終楽章、この楽章はシューベルトが苦手な人には受け入れ難く、そして好きな人にはこの繰り返しがたまらない魅了となるのだが、井上の構築力とメリハリの付け方は実に上手い。この指揮者が『グレート』をここまで見事に演奏するとは思ってもいなかった。これは名演と言ってもよいレヴェルだと思う。
 尚、終演後にはミッキー(愛称はミッチーではないです)お得意のマイクパフォーマンス。「北陸新幹線が開通しました。テレビでは金沢の特集をよくやっているけれど、21世紀美術館もオーケストラ・アンサンブル金沢も紹介しないのはけしからん!」「今日の演奏は録音していました。そのうち出します」「金沢で熱狂の日をやりますが、GWなのでホテルは取りにくいかも知れませんが、北陸新幹線のお陰で日帰り出来ます。是非金沢へ!」(細かい言い回しはともかく、大筋ではそのようなことを喋られた)。病気前よりも元気なのではないか、ミッキー!

藤原聡 Satoshi Fujiwara
代官山蔦屋書店の音楽フロアにて主にクラシックCDの仕入れ、販促を担当。クラシック以外ではジャズとボサノヴァを好む。音楽以外では映画、読書、アート全般が好物。休日は可能な限りコンサート、ライヴ、映画館や美術館通いにいそしむ日々。

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