Concert Report #806

ロサンゼルス・フィルハーモニック来日公演(2015年アジア・ツアー)

2015年3月28日、29日 サントリーホール
Reported by 藤原聡(Satoshi Fujiwara)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi):3/28撮影

<演奏>
指揮:グスターボ・ドゥダメル
ロサンゼルス・フィルハーモニック

<曲目>
マーラー:交響曲第6番 イ短調「悲劇的」
ジョン・アダムス:シティ・ノワール
ドヴォルザーク:交響曲第9番 ホ短調「新世界より」op.95
(アンコール)
ドヴォルザーク:スラヴ舞曲第8番 ト短調 op.46-8
バーンスタイン:「ディヴェルティメント」〜第2曲 ワルツ

 ロサンゼルス・フィルが、2009年より音楽監督を務めるドゥダメルと待望の来日である。今回の日本公演は大規模なアジアツアーの一環でのもので、香港→上海→ソウルと巡回した後の来日。3月28日、29日と連続してサントリーホールで行なわれたコンサート両日の感想。
 28日はマーラーの交響曲第6番「悲劇的」1曲のみ。結論から記せば、物凄い演奏であると同時に決定的に物足りない演奏と言える。ドゥダメルはこの曲に音楽的要素以外のドラマトゥルギーを見出そうとは考えていないように思える。冒頭の強靭極まりなく、それでいてしなやかで美しさの極みといいうる低弦の音にすぐさま仰天させられたのだが(この部分だけで度肝を抜かされるに十分だ)、率直に言えば曲が進むにつれて美音の垂れ流し状態に耳が慣れてきて、表面的には凄い音が鳴っているにも関わらず退屈してくる。内面的なドラマ性から生じるメリハリに欠けるからだろう。初めて実演で接したドゥダメルの統率力は噂に違わず素晴らしいものだった。この特大編成(16型!)でも全く音響は混濁せず、各パートの音は最高のバランスを以て鳴り響く。アメリカのオケということで懸念された金管群の突出もなく、オケ全体が有機的に一体化している様は見事としか言いようがない。サロネンの時にはもっとクリアでひんやりとした、言うならば<スケルトン仕様>であったようなロサンゼルス・フィルの響きはより肉厚になっていたけれど、オケの上手さはいささかも減じていない。しかし、筆者が前述のように満足できなかったのは、マーラーに寄り添うのではなくオケの技術開陳の場となってしまっていたためと思える。勿論様々なマーラーがあって然るべきであるし、事実大絶賛の声を多々聞いたけれども、筆者の頭が固いせいなのかどうか、個人的には楽しめなかった夜であった。
 これに比べれば29日は遥かに良かった。アダムスの「シティ・ノワール」、この手の楽曲では彼らのテクニックとゴージャスな響きはほとんどプラスに働く。そして「新世界より」では、想像された通りローカル色や鄙びた表現は全くなく、いわば無国籍的な響きに覆われていたけれど、特にゆったりした部分のセンスある歌いまわし、間の取り方の上手さ(例えば第1楽章の第2主題、あるいは第3楽章のトリオなど)には思わず身を乗り出して頬が緩む自分がいた。しかしながら、この夜に演奏された、28日にはなかったアンコール2曲こそが最大の聴き物であったかも知れない。ドヴォルザークの「スラヴ舞曲第8番」、バーンスタインの「ディヴェルティメント」から第2曲目のワルツ。前者では、素晴らしい快速テンポの中での音楽の躍動ぶりが尋常ではない。リズムの生きていることと言ったら。後者の洒落たワルツでの瀟洒な雰囲気の表出にも目を見張る。何より繊細である。彼らにはこの手の<性格小品>の方が向いている気がしてならない。

藤原聡 Satoshi Fujiwara
代官山蔦屋書店の音楽フロアにて主にクラシックCDの仕入れ、販促を担当。クラシック以外ではジャズとボサノヴァを好む。音楽以外では映画、読書、アート全般が好物。休日は可能な限りコンサート、ライヴ、映画館や美術館通いにいそしむ日々。

WEB shoppingJT jungle tomato

FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.