Concert Report #807

東京・春・音楽祭−東京のオペラの森2015−
リヒテルに捧ぐW(生誕100年記念)
ボロディン弦楽四重奏団 with エリーザベト・レオンスカヤ

2015年4月2日 東京文化会館 小ホール
Reported by 佐伯ふみ(Fumi Saeki)
Photos by 堀田力丸/提供:東京・春・音楽祭

【出演】
ボロディン弦楽四重奏団
 第1ヴァイオリン:ルーベン・アハロニアン
 第2ヴァイオリン:セルゲイ・ロモフスキー
 ヴィオラ:イゴール・ナイディン
 チェロ:ウラディーミル・バルシン
ピアノ:エリーザベト・レオンスカヤ

【曲目】
シューベルト:弦楽四重奏曲 第12番 ハ短調 D.703《四重奏断章》
シューマン:ピアノ五重奏曲 変ホ長調 op.44
ショスタコーヴィチ:ピアノ五重奏曲 ト短調 op.57

古武士の風格レオンスカヤ 絶品のショスタコーヴィチ

 今年の「東京・春・音楽祭」はリヒテル生誕100年のメモリアル・シリーズが特色の一つ。上野文化会館小ホールのピロティには、往年のリヒテルの貴重なショットが飾られ、訪れた聴衆の目を引いていた。リヒテルと一緒に多くの名演を残してきたボロディンSQと、リヒテルよりもちょうど一世代(30歳)若く、モスクワ音楽院に学んだグルジア生まれのピアニスト、レオンスカヤが共演。ピアノ・クインテットの名曲2曲に挑んだ。

 幕開けのシューベルトはボロディンSQのアンサンブルを堪能させる佳品。美しい音色、よく歌う旋律、自然でおおらかな呼吸。巧いカルテットはたくさんあるが、こうした美質を兼ね備える団体は本当に少ない。聴いていてほっとする。

 いよいよレオンスカヤが登場、四重奏に加わる。
 最初のシューマンはしかし、残念なことにちぐはぐなスタート。レオンスカヤがどのような音楽を紡ぎ出すか、カルテットの面々が十分に知悉しておらず、合わせようと待ってしまう。一方レオンスカヤは思ったよりピアノが鳴らない。ミスタッチも出る。彼女に特徴的な押し込むような強い打鍵が、まるで奏者の焦りを表すかのように、耳についてしまう。決して悪い音楽ではなくて、骨格のしっかりした、大きな音楽で、好感は持てるのだが…。

 後半の大曲ショスタコーヴィチは一転、まるで古武士のような、無愛想で飾らないレオンスカヤが見事にはまった。ショスタコーヴィチの乾いたユーモアや、感傷的には決してならないが魂の底からの訴えかけが、大胆に、容赦なく、表現される。めくるめく快感とはこのことか。こんなに面白いショスタコーヴィチは、めったに聴けるものではない。ロシアの音楽は、無骨だけどまことに奥が深く、大きい… 聴きながらそんなことを思った。
 アンコールは、特に見事だった〈スケルツォ〉楽章。聴衆のあたたかな喝采が心地よい、忘れがたいコンサートとなった。

佐伯ふみ Fumi Saeki
1965年(昭和40年)生まれ。大学では音楽学を専攻、18〜19世紀のドイツの音楽ジャーナリズム、音楽出版、コンサート活動の諸相に興味をもつ。出版社勤務。筆名「佐伯ふみ」で、2010年5 月より、コンサート、オペラのライヴ・レポートを執筆している。

WEB shoppingJT jungle tomato

FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.