Concert Report #811

東京春祭マラソン・コンサートvol.5
《古典派》〜楽都ウィーンの音楽家たち
〜音楽興行師ザロモン(没後200年)と作曲家

2015年4月5日 東京文化会館 小ホール
Reported by 佐伯ふみ(Fumi Saeki)
Photos by 堀田力丸/提供:東京・春・音楽祭

【第U部】フランツ・ヨーゼフ・ハイドン (13:00〜)
<出演> ヴァイオリン:松山冴花
チェロ:門脇大樹
ソプラノ:佐竹由美
ピアノ:津田裕也、湯浅加奈子
<曲目>
ハイドン:ピアノ三重奏曲 第25番 ト長調 Hob.XV:25《ジプシー・ロンド》
ヘンデル:オラトリオ 《メサイア》HWV56より「シオンの娘よ、大いに喜ベ」
ハイドン:オラトリオ 《天地創造》Hob.XXI:2 より「今や野はさわやかな緑を」
ハイドン(ザロモン編):交響曲 第96番 ニ長調 Hob.I:96《奇跡》より第2楽章
プレイエル:ピアノ三重奏曲 ヘ長調より第1楽章

【第V部】ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト (15:00〜)
<出演>
ヴァイオリン:白井 篤 、猶井悠樹
ヴィオラ:中村翔太郎
チェロ:市 寛也
フルート:神田寛明
テノール:鈴木 准
ピアノ:佐藤卓史 、湯浅加奈子
<曲目>
モーツァルト:歌劇《魔笛》 K.620 より「なんと魔法の音は強いことか」
モーツァルト:結社員の旅 K.468
クレメンティ:《6つのソナチネ》 op.36 より第3番 ハ長調
ザロモン:《6つのカンツォネッタ》より
サリエリ:室内小協奏曲 ト長調 より第3楽章 & 第4楽章
モーツァルト(フンメル編):交響曲 第40番 ト短調 K.550

【第W部】ルードヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン (17:00〜)
<出演>
ヴァイオリン:松山冴花、森岡 聡
チェロ:中木健二
フルート:甲斐雅之、神田寛明
ピアノ:津田裕也、永田美穂
<曲目>
ベートーヴェン:「ルール・フリタニア」による5つの変奏曲 二長調 WoO.79
 フルート二重奏曲(アレグロとメヌエット) ト長調 WoO.26
ザロモン:ロマンス ニ長調
ベートーヴェン:ロマンス 第2番 ヘ長調 op.50
リース:三重奏曲 変ロ長調 op.28 より第1楽章 & 第2楽章
ベートーヴェン:《ウェリントンの勝利》 op.91 より「勝利の交響曲」(ピアノ三重奏版)

18世紀後半、市民たちの音楽生活を生き生きと再現

 「東京・春・音楽祭」の催し物の中でも異色と言えるかもしれない。文字通り朝から晩まで、文化会館小ホールを舞台に1時間の小コンサートが計5回。今年は音楽興行師の先駆けであるヨハン・ペーター・ザロモン(1745〜1815)の没後200年を記念して、彼の生きた時代のウィーン(とベルリン、ロンドン)の音楽シーンを再現しようという試み。プログラミングと解説は小宮正安氏。知られざる音楽史を軽妙な語り口でひもときながら、今に伝わる名曲の数々を若い音楽家たちの熱演で紹介する、興味深いコンサート・シリーズだった。
 小宮氏は文字通り出ずっぱりの活躍で、幕間にはホワイエの特設コーナーに出てきて(そのたびに衣裳をほんの少しずつ変えて楽しませてくれた)、次の回のコンサートの見どころを対談形式で解説。それも含めて、すべての演奏会がストリーミング放送で生中継されていたのもこの日の目玉。新鮮なアイデアを尊ぶこの音楽祭ならではの企画と言えよう。
 筆者はこうした音楽受容史(興業や出版など、音楽の聴き手/受け手の側の歴史)が専門であったので、そもそもこうした企画が音楽祭の一環として実現していることに、感動した。現代の聴衆には想像しにくいだろうが、録音再生機器のないこの時代、市民たちは流行の音楽を家庭で楽しむときには、室内楽への編曲版楽譜でみずから演奏していたのである。そうした編曲版がたくさんプログラムに盛り込まれていて、企画の小宮氏の見識と豊富な知識に唸らされるとともに、実現に向けてはおそらくひとかたならぬ苦労があっただろうことを思った。

 すべての演奏会を聴きたいところだったが、やむを得ない事情で午後の3回、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンのみ。各回、ひとことだけ感想を。
 U:ハイドンの回では、ザロモンが編曲したハイドン交響曲(第96番《奇跡》)をピアノ・トリオで聴けたのが面白かった。vn:松山冴花、vc:門脇大樹、pf:津田裕也のトリオの熱演。ピアノの津田は美しい響きの持ち主だが、少々控えめすぎでは。「伴奏」ではなく他の2楽器との対話である。出るところは出て引っ込むところは引っ込む、というメリハリ、アグレッシヴさがあれば、もっと面白くなる。
 V:モーツァルトでは、クレメンティのなんでもない《ソナチネ》op.36-3 を生き生きと創意溢れる演奏で聴かせた佐藤卓史が出色。
 W:ベートーヴェンの回では、リースの三重奏曲(vn:森岡聡、vc:中木健二、pf:永田美穂)が興趣に富んで面白かった。

Haydn Haydn
Mozart Mozart
Beethoven Beethoven

佐伯ふみ Fumi Saeki
1965年(昭和40年)生まれ。大学では音楽学を専攻、18〜19世紀のドイツの音楽ジャーナリズム、音楽出版、コンサート活動の諸相に興味をもつ。出版社勤務。筆名「佐伯ふみ」で、2010年5 月より、コンサート、オペラのライヴ・レポートを執筆している。

WEB shoppingJT jungle tomato

FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.