Concert Report #815

PROJECT IX PLEIADES

2015年5月2日 神奈川県立相模湖交流センター(神奈川県相模原市 )
Reported by 多田雅範 (Masanori Tada)

- PROGRAM -

ヤニス・クセナキス:プレイアデス〜6人の打楽器アンサンブルのための〜
(映像+サウンドインスタレーション)
※6人の加藤訓子が等身大で巨大スクリーンに映し出され、192k24bitオーディオで収録されたスタジオマスターのハイレゾ音源は、あたかもそこに6人の奏者がライブ演奏しているかの如く臨場感溢れる音場を創り出す。

ヤニス・クセナキス:ルボン〜打楽器ソロのための〜
(加藤訓子によるライブパフォーマンス)

21世紀を拓くパーカッション体験。

ついに加藤訓子を体験した。2011年だった、たしか吉祥寺のサウンドカフェ・ズミでECMイベントを終えてのアフターアワーズで、信頼する耳の友人が「ちょっと、これを観てください」とプロジェクタに映したのがプレイズ・スティーブ・ライヒのライブ映像だった。これはCDではなくライブのほうだなと直感、それから春日部の公演チケットを予約しては行けなかったり、すっぽかしているうちに現代ジャズシーンのほうに耳が集中したりと。4年経ってた。

相模湖でクセナキスを演るという。クセナキスを?

会場に入ると、左手にリン・スピーカーの視聴スペースになっていて、クセナキスの作品が流れている。やっぱり、いい音だ、リンのスピーカー。壁の両側には、クセナキスの作品を収録したLPレコードが30枚くらい並んでいる。おれが持っているクセナキスのレコードは3枚あった、懐かしい。うわあ、70年代の時代精神が溢れている。前衛がとっても輝いていたあの頃。いや、60年代のことかな、50年代のことかな、科学と未来が輝いていた時代にしか鳴らない音楽。

LPレコードを聴きながら、もう、これと同質な演奏は再現することはできないのだな、と、感じた。今のひとが演奏すると今の身体のひとの音楽になってしまうだろう。

クセナキスのLPはリン・ジャパンの古川雅紀さんのものかな。LPレコードを聴いて、反対側のコンサートホールに向かう。

入ると、フラットな板張りに打楽器セットが置かれ、6つのスピーカーに囲まれている。

上方に幅1.5mほどの白い横断幕。タイトルが映し出されている。半透明なので後方の暗がりにも映像が透けて、二重の視覚になる。

クールだ。なぜにか、フロアに裸足になって鑑賞体勢になっている自分がいる。

加藤訓子が登場し、作品の紹介。コンサートが始まると、加藤訓子は引っ込んで映像が続く。

6人のパーカッショニストで演る楽章を、全部加藤訓子が演奏して重ね録音している。映像も、合成されて6人の加藤訓子が躍動している。

ううう。楽しい!クセナキスって、こんなにポップだっけ?ディズニーランドのアトラクションのひとつにこのまま出てきてもおかしくないくらいだ。映像だけでも大満足なくらいだけど、最後の楽章は、本人が出てきてライブ演奏。

ジスイズポップ!この躍動。

ゲンダイオンガクから開放された21世紀の表現になっている。やがてプロジェクトXにもなって、プロフェッショナル仕事の流儀にもなって、ようこそ先輩にもなって、ファミリーヒストリーにもなるはずだ。

昔、クセナキスの作品に感じた、サウンドの向こう側にジャンプするための、数学を応用しているという手がかりや、出てきたサウンドはクセナキスの意図の範囲内にあるだろうかという手探り、それら壮大な手の届かないところに意識を集中させることで襲われることとなるデモーニッシュな体験、は、あれは、時代のものだったのだ。

(もしかしたら、今もデモーニッシュなゲンダイオンガクはどこかに生きているかもしれない。生きていてほしいとは思っている)

加藤訓子はライヒ、ペルト、クセナキスと取り組んできている。ライヒもペルトも、ECMアイヒャーによって見出され、それぞれにゲンダイオンガクの風景を一変させた作曲家だ。一変させたくらいだから、クセナキスは古いほうのゲンダイオンガクのアイコンだ。ライヒも、ペルトも、クセナキスも、同じ躍動に濾過されている。ECMのコリア=バートンを聴いたのだろうか、ジャズのヴィブラフォン奏者浜田均に師事したことがあるという。加藤訓子の躍動するマレットさばきと、地続きの感覚だ、とても納得できる。

新しい体験を滋養にして育った奏者が、70年代の演奏をできる道理も必然もない。必ず、新しい表現になる。

加藤訓子の演奏身体には、ヨーロッパ人が演っている感触は無い。音楽大学でクラシックの鍛錬をした痕跡が消えている。鍛錬を突き抜けた場所、群を抜いている、いろいろパーカッショニストを捜索してみるが、ううむ、ゲイリー・バートンのマレットさばきと大相撲夏場所の寄せ太鼓・一番太鼓を足した方角を指さすとも、言えるか。

この表現はクセナキスではない、加藤訓子だ。と、口をついて出たけれど、クセナキスでないとは言えないだろ、これもまたクセナキスなのだろ、と自分に反論している。これは加藤訓子だけが可能な身体表現だ。20世紀の判断基準が効かなくて、強くて新しい。欧米のクリティークで、より絶賛度が高いことだろう。

加藤訓子とリン・ジャパン古川雅紀のタッグが、塗り替えたのだ。

(多田雅範)

多田雅範 Masanori Tada / Niseko-Rossy Pi-Pikoe。
1961年、北海道の炭鉱の町に生まれる。東京学芸大学数学科卒。元ECMファンクラブ会長。音楽誌『Out There』の編集に携わる。音楽サイトmusicircusを堀内宏公と主宰。音楽日記Niseko-Rossy Pi-Pikoe Review。

WEB shoppingJT jungle tomato

FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.