Concert Report #816

PROJECT IX PLEIADES

2015年5月1日 神奈川県立相模湖交流センター
Reported & Photos by 藤原聡(Satoshi Fujiwara)

<演奏>
加藤訓子(パーカッション)

<曲目>
クセナキス:プレイアデス(1978)
同:ルボンa.b.(1987-89)

知人に車を出してもらって京王多摩センターから中央自動車道で約50分(意外に近い)。相模湖の文字通り「ほとり」にある相模湖交流センターにてパーカッショニスト加藤訓子がクセナキスの『プレイアデス』と『ルボンa.b.』をやるというのでやって参りました。
会場のある相模湖交流センターは、外見は何の変哲もないこじんまりとした町役場、といった風情。開演よりかなり前に到着、あらかじめ電話にて予約しておいたチケットを窓口で受け取って左手に進むと、ギャラリーもしくはミーティングルーム的な部屋があり、そこにはマリンバ、シロフォン、ヴィブラフォン、さらにはクセナキスが『プレイアデス』のために考案した楽器「ジクセン」もある(最初はここで演奏するのか? と訝った)。壁やテーブルにはかなりレアと思われるクセナキスの様々なLPレコードやCDも展示されている(筆者も所有しているアイテムがかなりありました)。最も奥にはLINNのオーディオ装置もセッティング(音は聴いていません)。この部屋には加藤訓子ご本人もいらして関係者の方と談笑されている。しばらく見て回った後に一旦センターを離れる。外で食事と散歩の後開場時刻に舞い戻ってみると、演奏会場は同じ建物の別の場所であった(一安心)。こちらがホールである。相当に暗い会場の中、中央天井からスクリーンが張られ、そこには<PROJECT IX XENAKIS>の文字が投影されているが、これは背後の壁面にも透かされて写っており、つまり二重になっている。会場中央には縦に細長いスピーカーが6本セッティングされており、それが取り囲むように様々なパーカッションが設置されている。事前のチラシや案内には、6人のパーカッション奏者が必要な『プレイアデス』をどういった形態で聴かせるのかの記載が全くない。加藤がどれかのパートを演奏し、残りは同じ会場でレコーディングされてLINNレーベルより発売されている同曲のマスター音源を会場に流すのだろうか、などと考えている中に加藤が登場。少し「前説」を行なった後に一旦退場されたのだが、改めて出て来るのだろうかと思っていると前述のスピーカーから凄まじく高音質の『プレイアデス』が流れ出す。つまりは、加藤が演奏した録音をそれぞれ6本のスピーカーから再生し、そこにサウンドインスタレーションと称してアブストラクトなデザインの模様、または合成された6人の加藤の映像が流されるという趣向だった訳だ。その度肝を抜かれるような、体ごと音圧で吹っ飛ばされそうになるような凄まじい音響は、もはや聴くものではなくてその場で「体感」するものとしか言いようがない。微妙に音程や音色の違った楽器が組み合わされることにより、単体としてはそれなりに耳馴染みがあると思っていたそれぞれの楽器が何とも形容し難い不可思議な音響世界を現出させる。このような音は聴いたためしがない。かてて加えてリズムの嵐。最初こそは「プレイアデスでは加藤さん出ないの?」などと考えていた筆者は曲が進むにつれてそんな考えは木っ端微塵に粉砕させられていた。思えばこのような最高の音響条件で『プレイアデス』を再生することなんぞ出来はしまい。その意味からもこれは唯一無二の体験であった。
しかし、真の驚きはその後の「ナマ加藤」にあった。『ルボンa.b.』の実演。あれだけ凄まじい音響だと思われた『プレイアデス』も、加藤のナマ演奏の迫力には及ばない。音の深みと空気を切り裂くような、五臓六腑に染み渡るような実在感は圧倒的の一語。その正確さにも唖然(曲を知っている・知らないの話ではない。真剣に聴けば誰でもこの恐るべき正確さは理解できてしまう)。勿論高尚な音楽理論や複雑極まりないリズムの変化を駆使して記載されているスコアではあるだろう。非・専門家である筆者などには詳しいことは分らない。しかし、クセナキスの音楽には原初的な興奮がある。これは、例えばあの『ノモス・ガンマ』(先日井上道義&新日本フィルで接した実演!)や『ヘルマ』、『シナファイ』などにも通じる独特の呪術的な何物かだ。それは録音でも知ることはできるが、知るのではなくて「体感」しなくてはならない。それにしても、パーカッションのみで何という豊饒な世界を構築し得たのだろうか、作ったクセナキスも、そして人間業とは思えない正確さ、力強さ、それと矛盾するようだがまるで力みがなくしなやかとすら形容できる演奏を披露した加藤訓子も。筆者は加藤さんの実演は今回が初でしたが、皆さんも是非実演で加藤の演奏に接してみて下さい。

藤原聡 Satoshi Fujiwara
代官山蔦屋書店の音楽フロアにて主にクラシックCDの仕入れ、販促を担当。クラシック以外ではジャズとボサノヴァを好む。音楽以外では映画、読書、アート全般が好物。休日は可能な限りコンサート、ライヴ、映画館や美術館通いにいそしむ日々。

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