Concert Report #819 |
ジャン=クロード・ペヌティエ |
---|
フォーレ音楽の魅力を再発見 ペヌティエの知性と感性に脱帽
ガブリエル・フォーレ(1845〜1924)の夜想曲13曲すべてを休憩なしで聴かせる意欲的なプログラム。第1番は1875年頃、最後の第13番は1921年の作曲。即興曲や舟歌よりも長いスパンで、生涯にわたって書きつがれたジャンルだ。フォーレにとっては、ベートーヴェンにとってのピアノ・ソナタと同じように、最も身近で、最も心情を吐露しやすいジャンルだったのかもしれない。
作曲年代順に聴いてフォーレの変化を追っていくのかと思いきや、ペヌティエは上記のような曲順を組んだ。フォーレのこととて、調性は一つの曲の中でも自在に移ろってゆくから、曲間の対比や類似を調で示すことは不可能だし意味がない。ではどんな意図が?と思いつつ聴いたが…… おそらく、曲の長短、緩急、ダイナミクスの振幅の大きさ、などなど、ペヌティエの直感がとらえる何らかの必然性があり、慎重に配慮されての曲順であることは、伝わってきた。
曲間の間合いも、長めに取ったり、アッタッカのようにすぐ次の曲に移ったりと、まことに自在。印象的だったのが、間合いを長めに取るときにも、手を膝におろさずに、鍵盤にすぐ下ろせる構えで保持する場面が多々あったこと。まるでそよ風のように、さざ波のように、ふわりと音が風景のなかに入り込んでくる…… その瞬間は、自分が決めるのではなく、外からやってくる。それを捉えようと、しかし行き詰まるような緊張ではなく、自然な呼吸で待つペヌティエ。
結果的に、13の曲がすべて、ひとつながりの大きな1曲として聞こえてきた。なんと豊かで深い音楽だったことか。これは確かに「夜想曲」、夜の音楽だ――そのことを、これほどはっきりと知らされた演奏はない。
夜の濃密な気配――かすかだがはっきりと、静かだがうるさいくらいに聞こえてくる、風、葉擦れの音、動物の声、ひそやかな足音。匂い、湿気、雲間から時折まぶしいほどに大地を照らす月光、それもすぐに闇に沈んで……
外の世界と響きあうように、心も妖しいほどに騒ぐ。高ぶり、沈み込み、哄笑し、諦観する。それがすべて音楽となって、抑えようもないほど豊かに溢れ出てくる。
フォーレといえばフランスのエスプリの極致、あくまでも柔らかく、軽やかで、洗練された物言いが特徴だが、違う、それだけではない。この人は相当に激情のひとだ、と改めて思う。
ペヌティエの音色は、実に柔らかく表現力豊か、でも決して「美しい」とは言えない。「ふくよか」でもない。でもその「平たい」直接的な音が、フォーレの激情をこれ以上ないくらいふさわしく、聴き手の心に伝えてくる。
聴衆の熱い拍手に、何度も舞台に呼び戻されるペヌティエ。アンコールといっても、このあといったい何を弾くのだろう…… ペヌティエはそんな心理も充分に承知していて、「人間の情感がすべて含まれている」この音楽のあとでは、アンコールは難しいけれども……と前置きしたうえで弾かれたのは、《レクイエム》の<ピエ・イエズス>。心憎い選曲だった。
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
:
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
:
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.