Live Report #833

マイク・スターン・バンド featuring ヴィクター・ウッテン、ボブ・フランセスチーニ&ウィル・カルホーン
Mike Stern Band featuring Victor Wooten, Bob Franceschini and Will Calhoun

2015.6.6 コットンクラブ Cotton Club
2015.6.7 ブルーノート東京 Blue Note Tokyo
Text by Hideo Kanno 神野秀雄

Mike Stern(g) Victor Wooten(b) Bob Franceschini(sax) Will Calhoun(ds)

Cotton Club:Photo by Y.Yoneda 米田泰久(Photo courtesy of Cotton Club)

Blue Note Tokyo:Photo by Yuka Yamaji 山路ゆか

Cotton Club
6/6 17:00
1. Out of the Blues
2. Avenue B
3. Wishing Well
4. What Might Have Been?
5. Bass solo
5. Tipatina’s
6. Red House

6/6 20:00
1. Coupe Le Ville
2. KT
3. That’s All It Is
4. Jam Session
5. Chatter
6. Red House

Blue Note Tokyo
6/7 17:00
1. Out of the Blues
2. Avenue B
3. Wishing Well
4. What Might Have Been?
5. Tipatina’s
6. Red House

6/7 20:00
1. Coupe Le Ville
2. KT
3. That’s All It Is
4. Wing and a Prayer
5. Chatter
6. Red House

音楽的自由に溢れたインタープレイを魅せた究極のセッション

「何だ?この人たちは!?」その凄さに鳥肌が立つどころか、もうただ笑っちゃうような凄まじいセッションが繰り広げられた。
マイク・スターンはバンドのコンセプトや選曲を大きく変えたりしない割に、メンバー構成を少しずつ変える中で違ったサウンドを生み出してきた。特にベーシストによるサウンドの違いは大きい。リチャード・ボナ、クリス・ミン=ドーキー、トム・ケネディ、そして、今回のヴィクター・ウッテン。また、このところ、ホーンなし、または、ランディ・ブレッカーとの来日が続いていた。2014年は、デイヴ・ウェックル(ds)、トム・ケネディ(b)、ランディ・ブレッカー(tp)で来日。東京JAZZ限定で小曽根真(p, Hammond)が参加した。(「高崎音楽祭2014 ランディ・ブレッカー&マイク・スターン・バンド with 群馬交響楽団」公演も素晴らしかった。)

今回は久しぶりにテナーサックスを加えて、ボブ・フランセスチーニが参加している。ギター&ヴォーカル、べース、ドラムス、テナーサックスというフォーマットはマイク・スターンが最も自由になれ、サウンド的に最も相性のよい編成だと思う。また2014年ぐらいからマイクも積極的にヴォイスを入れるようになっていて、楽器とブレンドしながら“うた”を上手く表現している。
ベースの革命児とも呼ばれるヴィクター・ウッテン、ブラック・ロック・バンド“リヴィング・カラー”の一員でもある超絶ドラマーのウィル・カルホーンの存在は大きく今回のサウンドを強く特徴付けていた。デイヴ&トムの場合の正確さと緻密さに裏付けされながら自由に動くグルーヴに対して、ヴィクター&ウィルの場合は、感覚的で揺らぎを伴うグルーヴが対照的だった。ヴィクターとウィルは知的さを感じさせないという意味ではなく、二人ともソロで何声も重ねる構成力とそれを可能にする音楽への理解の深さが凄い。ヴィクターは童顔のため若手のイメージを持っていたが実は50歳。これまでヴィクターのベースはピンと来てなかったが、今回は”innovative”な奏法の探求と、奇をてらうことなく音楽的必然性の中であくまで自然に使いこなすところに驚かされ感動した。楽器はフォデラの「陰陽ベース」を使っていた。ヴィクターの音楽的自由さと独創性については、TEDで行ったレクチャー「Music as a Language」https://youtu.be/2wW1Nu3jN14 が参考になる。日本語字幕がつけられているのでぜひご覧いただきたい。
マイクがテナーと演奏する機会が減っているのは、盟友のマイケル・ブレッカー、ボブ・バーグを失いながら、マイクを心の底からインスパイアするテナー・サックス・プレーヤーが少ないということではないかと思う。その中でボブ・フランセスチーニはその大役を果たしていた。目を引いたのはエフェクターのかけ方の妙だった。ボブのSmart Harmonizerとワウの使い方は、管楽器にエフェクターをかけるミュージシャンになら絶対参考になると思う。エフェクター特有の嫌らしさがなく、生音との間をナチュラルに行き来する。なお、使用楽器は、Selmar Super Balanced Action Silver Plate (1950)に、マウスピースは Navarro Be Bop Special Star 7 、リードは Rico Royal 5、マイクはAMTを使っていると語っていた。
こうして最高のメンツを得て、それぞれの曲はいつも以上に高められていき、その先のセッションはインタープレイの極致へと突き進んでいく、自由過ぎるどこまで行くか分からないやり取り。果ては、マイクは「あとはみんなで適当にやっておいて」とでもいうように座り込んでしまい、嬉しそうに眺めているが、ここからのインタープレイがさらに凄い。思えば、2013年の来日でも、このシチュエーションからとんでもないケミストリーが生まれ、デイヴ・ウェックル、トム・ケネディ、小曽根真に、サックスのゲイリー・ミークを加えたザ・デイヴ・ウェックル・アコースティック・バンドがスピンオフし、2015年4〜5月にヨーロッパツアーを敢行し、9月に来日を予定している。マイクのバンドだからこそ起こる、マイクがいない瞬間の最高のケミストリー。塩谷哲がよく冗談めかして「あまりに素晴らしいので、僕は弾かなくていいんです。」などと言うが、確かに優れたバンマスの下では不思議と新しい音楽が自然に旅立っていく。
ライブを締め括るのは、ジミ・ヘンドリックスの<Red House>。最新作の『Mike Stern and Eric Johnson / Eclectic』(Heads Up)に収められた一曲。マイクが弾き語りで歌う。マイクにとってもジミは大切な原点なのだろう。ここに至るライブの流れを損なうことなく自然にステージと会場が一体になりながら昂揚していき、最高のエンディングとなった。

Mike Stern and Eric Johnson / Eclectic
(Heads Up / ユニバーサル ミュージック)
Mike Stern / All Over The Place
(Heads Up / ユニバーサル ミュージック)
Victor Wooten / Sword and Stone
(Compass Records)
Will Calhoun / Life in This World
(Compass Records)
The Dave Weckl Acoustic Band / Of the Same Mind
(Dave Weckl Music)

【関連リンク】
Mike Stern Official Website
http://www.mikestern.org
Victor Wooten Official Website
http://www.victorwooten.com
William Calhoun Official Website
http://www.willcalhoun.com
Music as a Language: Victor Wooten at TED x Gabriola Island
https://youtu.be/2wW1Nu3jN14
コットンクラブ公演
http://www.cottonclubjapan.co.jp/jp/sp/artists/mike-stern/
ブルーノート東京公演
http://www.bluenote.co.jp/jp/artists/mike-stern/

【JT関連リンク】
マイク・スターン・バンド feat. 小曽根真、デイヴ・ウェックル、トム・ケネディ 2013年8月27日 ブルーノート東京
http://www.jazztokyo.com/live_report/report572.html
東京ジャズ2014
http://www.jazztokyo.com/live_report/report739.html

神野秀雄 Hideo Kanno
福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。東京JAZZ 2014で、マイク・スターン、ランディ・ブレッカーとの”共演”を果たしたらしい。

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FIVE by FIVE 注目の新譜


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#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
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#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
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第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


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#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

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