Live Report #834

アート・リンゼイ with ジム・オルーク ブルーノート東京 / アート・リンゼイ vs 大友良英 京都METRO

2015.6.10 (水) 21:30 ブルーノート東京
2015.6.11 (木) 19:20 京都METRO
Reported by Hideo Kanno 神野秀雄
Photo: Suguru Tatewaki(東京)and Yoshikazu Inoue 井上嘉和(京都)

6/10 21:30 Blue Note Tokyo
2015.6.10 (水) 21:30 ブルーノート東京
アート・リンゼイズ・レストレス・サンバ with ジム・オルーク
Arto Lindsay’s Restless Sambas with Jim O'Rourke at Blue Note Tokyo
Arto Lindsay (vo,g) Luís Filipe de Lima (g) Marivaldo Paim (perc) Yumiko Ohno 大野由美子 (b) Guest: Jim O'Rourke (g)

2015.6.11 (木) 19:20 京都METRO
Thanks for METRO 25th Anniversary -day2- アート・リンゼイ vs 大友良英
Arto Lindsay vs Yoshihide Otomo at Kyoto METRO
Arto Lindsay (vo,g) Luis Filipe de Lima (g) Yoshihide Otomo 大友良英 (g)

1. Maneiras
2. Alegria
3. Imitacao
4. Este Seu Olhar
5. Estacao Derradeira
6. Para Nao Contrariar
7. Invoke
8. Um Por Um
9. Simply Are
10. Prize
11. Simply Beautiful
12. Iluminated
EC. Beija-me

※ 開演前に作成されたセットリストに基づいており、実際と異なる可能性があることをご了承いただきたい。6月11日、京都METROにおけるセットリストは確認できなかった。

6/10 Blue Note Tokyo: Photo by Suguru Tatewaki

6/11 Kyoto METRO: Photo by Yoshikazu Inoue 井上嘉和

アート・リンゼイが2014年に続いて来日。ブルーノート東京で9日に小山田圭吾、10日にジム・オルークをスペシャルゲストに迎え、11日には京都METRO 25周年企画の2日目で大友良英との共演が行われた。アートは1953年にバージニア州リッチモンド生まれの62歳。1977年にニューヨークで結成されたDNAをはじめ、ラウンジ・リザーズへの参加、アンビシャス・ラヴァーズなどニューヨーク・アンダーグラウンドのイメージがあるが、3歳から17歳まで宣教師の父とともにブラジルで育ったため、時期的にトロピカリア・ムーヴメントにも重なり、カエターノ・ヴェローゾ、ガル・コスタ、ジルベルト・ジルをはじめブラジル音楽の影響を強く受けている。そしてカエターノをはじめブラジルのミュージシャンからプロデュースを任されるまでになる。

今回の来日では特にブラジルにフォーカスし、「Restless Sambas」つまり「落ち着きのないサンバ」というタイトルが付けられている。メンバーには、まず、東京と京都の両方に出演し、今回初来日となるギターのルイス・フィリッピ・ヂ・リマ。彼は伝統的なサンバとショーロをバックグラウンドに持つ。ブルーノート東京では、昨年の来日にも同行したバイーア出身のパーカッショニスト、マリヴァウド・パイム、日本からベースの大野由美子、これに9日に小山田圭吾、10日にはジム・オルークが加わる最大5人のバンドだ。

ブルーノート東京での演奏は、まずアートの穏やかで暖かい歌声がクローズアップされ、アヴァンギャルドを前面に出した演奏を期待していくと、最初拍子抜けするところもあり、ルイスとマリヴァルドの最高のサポートも得てそれ自体、第一級のブラジル音楽であり、かつ粋でかっこいいセンスに溢れた歌を聴かせる。しかし、ゆったりした自身の歌にアートのオンリーワンのノイズギターが激しく切り込んでいき、それがどこまでも斬新にかつ必然性をもって絡み、ときに叫び、不思議な世界観を作る。後半、大野由美子とジム・オルークが参加する。ジムは1969年アメリカ出身、東京在住で、日本で幅広いミュージシャンと共演し、J-Popにも影響を与えてきた。アートのノイズギターとは対照的に透明感のあるギタープレイを聴かせ、アート、ルイス、ジムのトリプルギターで立体的なサウンドを創り出した。アートのちょっと奇妙な心地よい違和感を満載した音楽は、ブルーノート東京というハコにあっても居心地のよい時間を創り出した。

1990年に開店し京都のクラブシーンを象徴する存在のひとつである京都METROは、京阪電車が地下を走る神宮丸太町駅の2番出口階段を地上に上がる途中という変わった場所にある。場所的には鴨川の右岸、平安神宮や京都大学を近隣に控える。その25周年を記念して開催された、アート・リンゼイと大友良英の公演。東京から急いで駆けつけ、2番出口階段を駆け上ると、第一部(19:20-20:00)、大友ソロのエンディング、ノイズギターが会場を興奮の渦に巻き込みクライマックスを迎えるところだった。聞くところによると前半では大友は歌でも観客を魅了していたという。

20時からアートとルイスのデュオ。コンパクトな編成の中でトラディショナルなアコースティックギターと、最初から炸裂しまくるアートのノイズギター、穏やかな声と絶叫が交錯する。オール・スタンディングで超満席、ざっと250人ぐらいがアートの一挙一動に集中する...と言いたいが実際のところ後方でよく見えない人も多かったと思うが、京都METROという特別なハコがステージと客席を一体にしてこの一瞬を作り出している。

20:40すぎからアートと大友がステージに登場し、それだけで会場は興奮の渦になる。ふたりによるインプロヴィゼーションで自由に音響とリズムが交わされる。途中、大友が『あまちゃん』の<地味で変で微妙>にみられるジミ・ヘンのパターンを提示し、アートが変幻自在に多彩なリズムを繰り出す。次いで、ルイスも加わりブラジル色の強いアートの歌に進む。後でアートに聞くと、ここでは<Dora>、<Folhas Secas>などが歌われた。250人の観客の興奮が3人にフィードバックしすばらしい音楽と空気を作り出した。

さまざまなギターとの対比の中で、アートのノイズギターのチューニングもあまりせず、コードや楽譜もあまり理解しないと言われていて、しかしそのとてつもない存在感と他のミュージシャンからの信頼と尊敬を考えると、ブラジルやアフリカの音程が変動するパーカッションにも通じる表現もあり、確かなグルーヴとヴァイブを生み出し、フレーズ、ハーモニーとしての創り方よりも、究極のリズムギターなのではないかと思い当たった。

中原仁のブログから引用させていただくと、アートは京都METROを「世界中で最も良いヴァイブスがあるハコのひとつ」と絶賛し続けてきたという。大友はKBS京都ラジオに番組「大友良英のJam Jamラジオ」を持つことをはじめ京都には深い縁がある。京都METROの林薫も「この25年の歩みの中でも最も大きな出会いであり、その衝撃と感動からメトロの本当の歴史が始まったと思えるほど大きな影響を受けたアーティスト アート・リンゼイ、そしてずっと指針とさせて頂いている大友良英、メトロ最高名誉顧問のお二人に対決して頂く」と語っていた。実際、京都という街とMETRO、ミュージシャンと観客が確かに生み出した最高の音楽のひとときだった。

終演直後にオーネット・コールマンの訃報が入る。その日にアート、大友、スタッフの方々などとそこに居合わせたことで、両方の意味で、2015年6月11日は忘れられない日となった。

【関連リンク】
Arto Lindsay Official Website
http://artolindsay.com
Jim O’Rourke アーチスト情報
http://p-vine.jp/artists/jim-orourke
大友良英 公式ウェブサイト
http://otomoyoshihide.com
ブルーノート東京公演 Arto Lindsay’s Restless Sambas
http://www.bluenote.co.jp/jp/artists/arto-lindsay/
Thanks for METRO 25th Anniversary -day2- ARTO LINDSAY vs 大友良英
http://www.metro.ne.jp/schedule/2015/06/11/

【JT関連リンク】
大友良英 with あまちゃんスペシャルビッグバンド アサヒビールロビーコンサート
http://www.jazztokyo.com/live_report/report542.html
大友良英&あまちゃんスペシャル・ビッグバンド NHKホール
http://www.jazztokyo.com/live_report/report623.html
大友良英「あまちゃん」オリジナル・サウンドトラック1〜3 他
http://www.jazztokyo.com/best_cd_2013a/best_cd_2013_local_03.html

神野秀雄 Hideo Kanno
福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。東京JAZZ 2014で、マイク・スターン、ランディ・ブレッカーとの”共演”を果たしたらしい。

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