Live Report #838

NYの尖鋭・吉田ののこ/色彩の舞踏・航×Praha

2015年7月4日(土)学芸大学APIA40
Reported & photos by 剛田 武(Takeshi Goda)
Photo: apia flyer

<出演>
1st 吉田ののこ(as)Solo
2nd 航(pf)×Praha(bellydance)

NYで活動するサックス奏者吉田野乃子の短期来日ツアーの東京公演が学芸大学APIA40で開催された。APIAは2000年代半ばまで渋谷にあったライヴハウスで、灰野敬二を観に何度か行ったことがある。エキゾチックな内装が渋谷と云うより中央線っぽく、落ち着いた雰囲気の椅子席で気に入っていたのだが、いつしか足が遠のき、都市開発で移転したと噂に聞いた。学芸大学駅から徒歩10分の住宅街にあるAPIA40は、かつての秘境的な雰囲気は薄れ、学生街のお洒落な小劇場といった趣き。入場時に配布されたフライヤーには遠藤ミチロウ、三上寛、友川カズキといった渋谷APIA時代からお馴染みのシンガーソングライターの名がある。今公演は出演者が全員女子であるためか、客席には女性客が多い。


●吉田ののこ

昨年の「Jazz Artせんがわ」でペットボトル人間を初めて観て以来、吉田の演奏を観るのは2回目。せんがわ劇場ではステージを後列から遠目に観るだけだったが、被り付きで観る吉田の姿は、小柄で真面目そうで、ジョン・ゾーン直伝の変態プレイとのギャップがある。彼女が1年前から取り組んでいるソロ演奏は、ループマシンを使って、ステージ上で自らの音を幾重にも重ねて、重厚なアンサンブルを創出するスタイル。フランク・ザッパ言うところのロウ・バジェット・オーケストラ(低予算管弦楽団)風の協奏曲の中で突然キュリキュリギョギョギョというフラジオが炸裂するのだから気持ちいい。NYの地下鉄線に因んだ「Take The F Train」、生まれ故郷の北海道弁から名付けた「Urukasu」、今回の来日の目的である妹の結婚を祝う「TAKA 14」など、日々の生活に根付いた楽曲テーマを解説するMCも楽しい。極端音楽でありながら、人懐っこい作風は、吉田のほのぼのした人間性の現れに違いない。
(注:吉田野乃子さんのアーティスト表記は、ライヴ告知に合わせて「吉田ののこ」としました。)



●航×Praha

航 KOHこと大寺航の名前は知っていたが、演奏を聴くのは初めて。名前のイメージで何となく端正なジャズ・ピアノを想像していたら、ポエティックな弾語りが始まったので軽く驚く。包容力のあるやわらかいタッチのピアノと、ユーモラスな歌詞の表情豊かなヴォーカル。“まぜこぜ・チャンプルー音楽 ピアノ弾き語り”と称する航 KOHは最新アルバム『Seneca』をニューヨークで録音し、その時に吉田野乃子と知り合ったという。
一方ダンサーのPrahaの名にも聞き覚えがあるな、と思っていた。航が一曲歌った後に呼び込み、流麗なジャズ・ピアノに合わせて、セクシーな衣装で大胆に踊る姿を見て思い出した。2013年のJazz Artせんがわで、KILLER-OMA(鈴木勲×KILLER-BONG)のステージに飛入りして踊っていたのが彼女だった。調べてみると渋さ知らズやヒカシューなどとも共演している。世の中は狭いものだ、と感慨にふける暇も無く、躍動的なピアノに乗せた奔放なベリーダンスに圧倒される。音楽による聴覚の快感が、魅惑的なダンスの視覚刺激で別次元へ拡張される。タイトル通り色彩に溢れたステージだった。



本編のラスト・ナンバーとアンコールは三者の共演。「音楽vs舞踏」が、「音楽vs音楽vs舞踏」の三極化することで、刺激の組み合わせが九倍に増大し、どの角度・どの次元から観ても歓びしかない至福空間が創出された。音だけ聴けば吉田と航はキレキレのアヴァンプレイを繰り広げるが、Prahaが艶やかな舞で客席に降臨した時には、情熱的なロマンティシズムを醸し出す効果を発揮した。終演後の笑顔に真昼の交歓の満足感が溢れていた。




*リンク
よしだののこのNY日誌
http://www.jazztokyo.com/column/jazzrightnow/005.html#03

剛田 武 Takeshi Goda
1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。レコード会社勤務。
ブログ「A Challenge To Fate」 http://blog.goo.ne.jp/googoogoo2005_01

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