Concert Report #846

第14回 東京ジャズ・フェスティバル 2015
14th Tokyo Jazz Festival 2015

2015.9.5 - 9.6 The HALL 東京国際フォーラム ホールA
Text by Hideo Kanno 神野秀雄
Photo:Ⓒ14th TOKYO JAZZ FESTIVAL by ⒸHideo Nakajima中嶌英雄, ⒸRieko Oka 岡 利恵子, ⒸYoshihiro Kamewada 亀和田良弘 and ⒸTomoko Hidaki ヒダキトモコ

東京JAZZは2002年に開始、東京国際フォーラムでの開催は2006年からで10年目を迎える。11周年のラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン(LFJ)とともに、東京・丸ノ内の季節イベントとして定着し、幅広いファンから通りがかりの人まで思い思いに音楽を楽しめる場を提供している。特に今年は地上広場の無料コンサートに鮮度のよいグループが多数登場し、その盛り上がりが目立った気がする。といいながら、コアとなるホール公演をご紹介する。

9/5 12:30- MY MUSIC, YOUR MUSIC

12:30-13:19
ホフ・シェームス & 東京フィルハーモニー交響楽団
Bob James & Tokyo Philharmonic Orchestra
“WORLD PREMIERE OF THE PIANO CONCERTO BY BOB JAMES”
Conductor: Kevin Rhodes
featuring Steve Gadd (ds) Carlitos del Puerto (b)
special guest Kazumi Watanabe 渡辺香津美 (g)

Concerto for Piano & Orchestra
1 Ofunato
2 Aftermath
3 A New Dawn
One Afternoon
Night On Bald Mountain 禿げ山の一夜

ⒸRieko Oka ⒸRieko Oka ⒸHideo Nakajima

ホール公演の最初を飾るのは、ボブ・ジェームスのオーケストラ作品。3・11後に宮城県大船渡を訪れた際の衝撃と想い、再生への希望をこめて、75歳にして初めて書いた3楽章構成のピアノ協奏曲が演奏された。ケヴィン・ローズが指揮し、ボブ自らピアノを弾き、ドラムスにスティーヴ・ガッドと、ベースのカリスト・デル・プエルトが参加。3楽章を終えてこの4人がやり遂げた感の溢れた笑顔を交わしていたのが印象的だった。続いて同じく書き下ろした<One Afternoon>。ただ、クラシック的に作曲されたオーケストラ作品の初演を(つまり前知識なしで)ジャズ・フェスで聴くことには、うまく入り込めなかったと感じる向きが少なからずいたであろうことも事実で、そこを救う工夫は今後必要かもしれない。最後に渡辺香津美がゲストで参加して、1974年に発表されたムソルグスキー原曲の<禿げ山の一夜>が演奏された。


13:42-14:26
ニュー・センチュリー・シャス・クインテット
New Century Jazz Quintet
Ulysses Owens Jr.(ds) 大林武司 Takeshi Obayashi(p)
中村恭士 Yasushi Nakamura(b), Benny Benack(tp), Tim Green(as)

New Century
Revolution
Burden Hand
The Light that Grew Among Us
Eleventh Hour
EC One by One

ⒸHideo Nakajima ⒸHideo Nakajima
ⒸHideo Nakajima ⒸHideo Nakajima ⒸHideo Nakajima

ドラマーのユリシス・オーウェンズ Jrとピアニストの大林武司が出会って、ニューヨークで結成された日米混成のアコースティック・ジャズ・ユニット。とにかくスムースで巧過ぎる演奏に圧倒される。ただ、21世紀に「ニューセンチュリー」と名付けて、1960年代をベースにした音楽を敢えてするだけの斬新さを提示し、強烈な個性を印象づけ、魂を伝えるオンリーワンの存在となるにはもう一つ特別な何かを打ち出す必要があると感じた。それはもしかしたら、ちょっとかっこ悪い、変な何かかも知れない。今後の展開に期待したい。


14:47-15:39
アンナ・マリア・ヨヘック・カルテット feat. ミノ・シネル
Anna Maria Jopek Quartet featuring Mino Cinelu
Anna Maria Jopek(vo,keyb) Piotr Nazaruk(vo,fl,zitharr,polish folk instruments)
Krzysztof Herdzin(p,cajon,fl,vo) Robert Kubiszyn(b,vo) Mino Cinelu(perc, vo)

ZMROK
TRUDNO
MOUN MADININA
FILON
WACLAW
TO I HOLA
CZULE MIEJSCE
RDZAWE
KILAR
UCISZ
CYRANECZKA

ⒸRieko Oka ⒸHideo Nakajima
ⒸRieko Oka ⒸHideo Nakajima ⒸYoshihiro Kamewada

アンナ・マリア・ヨペックを知ったのは、2002年、パット・メセニーとポーランドのミュージシャンとの共演で作られた『Upojenie』。パットの名曲も取り上げながら、ときにオーガニックな声でゆったりと、ときに力強く、そのヴォーカルの幅広い表現力で、パットの世界観を超える強烈な空気感と存在感を見せつけられた。その後、自身のグループで、また小曽根真とのプロジェクトで何度か来日している。今回は、ポーランドの自身のカルテットに、マイルス・デイヴィス、ウェザー・リポート、スティング、矢野顕子などとの共演で知られるパーカッショニストのミノ・シネルが参加。
シンセサイザーを効果的に使い、金属製の縦笛から、果てはヤマハのエレキ大正琴まで、なんでもありの楽器を駆使して、新しくて懐かしいサウンドを生み出し、その空間にアンナの美しい声が浮遊し、ミノのパーカッションがそれをさらに立体的にし、その世界観に引き込まれる素晴らしい演奏だった。
なお、この後、地上広場の「小曽根真 presents Jazz Festival at Conservatory All Star Band」の中で、アンナとミノがゲスト参加し、<Cyraneczka>を演奏した。


9/5 17:30- KALEIDOSCOPE

17:32-18:25
KYOTO JAZZ SEXTET Special Guests 菊地成孔、リチャード・スペイヴン
KYOTO JAZZ SEXTET Special Guests Naruyoshi Kikuchi and Richard Spaven
沖野修也 Shuya Okino(SE/MC) 平戸祐介 Yusuke Hirado(p) 類家心平 Shinpei Ruike(tp)
栗原健 Ken Kurihara(ts) 小泉P克人 Yoshihito Koizumi(b) 石若 駿 Shun Ishiwaka(ds)
菊地成孔(ts) Richard Spaven(ds)
Cypher Delight
Sucottash
Footprint / Speak No Evil
Drums Battle - Jinrikisha

ⒸRieko Oka ⒸHideo Nakajima
ⒸRieko Oka ⒸHideo Nakajima

沖野修也は、DJとして25年の経験を持ち、渋谷のクラブ「The Room」をプロデュースし、Tokyo Crossover/Jazz Festivalの発起人でもあり、数多くのミュージシャンのプロデュースをしてきた。沖野のプロデュースするKyoto Jazz Massive(KJM)は海外の多くの大規模フェスにも招聘されている。その沖野が、これまでストレートアヘッドのジャズに向き合ってこなかったことに気づき、最新型のジャズを提示すべく、国内屈指の若手ジャズ・ミュージシャンを集めて作ったプロジェクトがKyoto Jazz Sextet。ブルーノート・レーベルの名曲を素材に『Mission』をリリースしている。沖野がどうジャズを料理するのかと気負って聴くと、そのまんまウェイン・ショーターなどの新主流派スタイルの演奏であることに驚く。もっとエレクトリックに、もっとサンプリングを駆使するなど想像していた。沖野によれば、生演奏とアナログにこだわった結果だと言う。そう言われればこのオーガニックな音に納得する。今回のライブでも、単なる音源ではなく、伝えるべき魂を持った気鋭のジャズ・ミュージシャンを集めたグループの凄さを実感する。
そして、ゲストに菊地成孔、リチャード・スペイヴンが登場。リチャードは、ホセ・ジェームス、フライング・ロータスが指名する注目のドラマー。とにかく凄いグルーヴと表現力。そして石若 駿とのツインドラムも熱かった。1曲のためだけにとにかく呼んだという沖野の思いが分かる演奏だった。


18:43-19:42
Esperanza Spalding Presents Emily's D+Evolution
Esperanza Spalding(vo,b) Matt Stevens(g) Justin Tyson(ds)
Corey King(vo,horns) Emily Elbert(vo)

Good Lava
The One
Ebony and Ivy
Noble Nobles
Farewell Dolly
Funk The Fear
Earth To Heaven
Judas
Unconditional Love

ⒸRieko Oka ⒸRieko Oka ⒸHideo Nakajima
ⒸRieko Oka ⒸHideo Nakajima

今年、最も注目したのがエスペランサ・スポルディングの最新プロジェクト「Emily's D+Evolution」。ニューヨークではソールドアウトで見ることができなかったが、こんなに早く日本で見られることに感謝したい。2011年グラミー賞でジャスティン・ビーバーを抑えて新人賞を授与されたのは、アメリカ音楽の発展に及ぼす大きな影響力に期待されてのことだと思うが、次々と新しいサウンドを切り拓いていく。卓越したリズム感とサウンド・デザイン、何せベースの低音からヴォーカルの美しい高音までを連続してカヴァーする表現力があるからずるい。最小限の編成の中で、ミュージカル的、総合パフォーマンス的な表現を見せる。「エミリー」はエスペランサのミドルネームで自ら主人公となり、夢見る少女の成長を描く。他にヴォーカルを担当する男女各1人とともにストーリーを表現する。ただ、台詞と歌詞が重要であるだけに日本人には字幕や解説なしで完全に理解するのは難しい点はあり、せっかく巨大なヴィジョンがあるのだから、最低限の字幕を入れる手はあったかも知れない。また会場で聴くとPAから重低音がずっしり響き、濁って聴きにくかった。他方、生放送のFMではベースラインがクリアに出て、サウンドの輪郭をしっかり“見る”ことができ楽しむことができた。エスペランサが切り拓く新しいパフォーマンスにはこれからも目が離せない。


20:07-21:28
ジャック・ディジョネット・トリオ featuring ラヴィ・コルトレーン&マシュー・ギャリソン
JACK DEJOHNETTE TRIO FEATURING RAVI COLTRANE AND MATTHEW GARRISON
Jack DeJohnette(ds,p) Ravi Coltrane(ts) Matthew Garrison(b)

Atmosphere
7th D / Serpentine Fire
Lydia
Segment
Blue in Green
Like Sonny
Wise One

ⒸRieko Oka ⒸHideo Nakajima
ⒸHideo Nakajima ⒸHideo Nakajima

ジョン・コルトレーンを敬愛するジャック・ディジョネットに、ジョンの息子のラヴィ・コルトレーン、ジョンのグループでベースを弾いていたジミー・ギャリソンの息子のマシュー・ギャリソンという顔合わせ。2014年5月にもブルーノート東京で演奏している。マシューは5弦ベースから自在にハーモニーとサウンドを提示し、ジャックが繊細で幅広い表現力を魅せ、ラヴィの魂が溢れるサックス、そしてその3者の素晴らしいインタープレイを魅せてくれた。


9/5, 9/6 10:30 朝ジャズワークショップ 地上広場
多田誠司(as, navigator) 大谷 桃(p) 石垣陽菜(b) 木村 紘(ds)他
スペシャルゲスト:日野皓正(tp) 大西順子(p)

両日朝に開催された「朝ジャズワークショップ」にも触れておきたい。多田誠司がナビゲーターを務め、アマチュアが楽器を持って集まり<花は咲く>、<Birdland>が演奏された。<Birdland>はF7一発で「F Blue Note Scaleで誰でもアドリブ・ソロが取れる!」ということでソロをほぼ全員に回す。ジャズ経験者も少なくなかったが、5日は小学生のトランペット3人組の狙わない異常なかっこよさに持って行かれた感があった。6日には、<Birdland>を演奏していた終盤にサプライズで日野皓正と大西順子が参加した。大西のピアノ・ソロの際に、日野が参加者に指揮をする一幕も。2014年のランディー・ブレッカーとマイク・スターンは、最初から参加し<花は咲く>を含め一緒に音楽を創り上げた感があったが、今回は違った存在感を見せる登場だった。LFJの「みんなで○○○」(ボレロなど)もそうだが、聴くだけのイベントより、音を出すイベントがあると、フェスティバル全体への観客の関わりが深まり全く違って来るので歓迎したい。

ⒸTomoko Hidaki ⒸTomoko Hidaki

9/6 12:30 INFINITY

12:37-13:25
エリ・デジブリ・カルテット featuring アヴィシャイ・コーエン with Special Guest 山中千尋
Eli Degibri Quartet featuring Avishai Cohen with Special Guest Chihiro Yamanaka
Eli Degibri(sax) Gadi Lehavi(p) Barak Mori(b) Ofri Nehemya(ds)
Avishai Cohen(tp) Chihiro Yamanaka 山中千尋(p)

The Troll
Cliff Hungin'
Shoohoo
Israeli Song
The Spider

ⒸRieko Oka ⒸHideo Nakajima
ⒸRieko Oka ⒸHideo Nakajima

アヴィシャイ・コーエン(b)、シャイ・マエストロ(p)をはじめ、現代ジャズに影響力を持つ若い人材を輩出するイスラエルを代表して、ホール公演に登場したのが、1978年イスラエル生まれのサックスプレイヤー、エリ・デジブリ。1997年にバークリー音楽大学に留学し、1999年ハービー・ハンコック「Sextet」の録音とワールドツアーに参加して注目を浴び、アル・フォスターにも重用され、「Red Sea Jazz Festival」の芸術監督に選任されている。 今どきのニューヨークのジャズシーンと直結し、緻密なドラムスとそれに呼応するベースラインに支えられながら、ゆったりとしたホーンとピアノの響きが、テンションとリラックスを行き来する心地よい音楽を生み出す。また、今回、自身のバンドTRIVENIは地上広場公演となったが、バークリー音楽大学以来の盟友アヴィシャイ・コーエン(tp)、イスラエル・ミュージシャンと親交の厚い山中千尋がゲスト参加し、素晴らしい演奏を聴かせた。


13:43 - 14:36
日野皓正 & ラリー・カールトン SUPER BAND featuring 大西順子、ジョン・パティトゥッチ、カリーム・リギンズ
Larry Carlton & Terumasa Hino SUPER BAND featuring Junko Onishi, John Patitucci, Karriem Riggins
Larry Carlton(g) Terumasa Hino(ts) Junko Onishi(p,Fender Rhodes,keyb) John Patitucci(b) Karriem Riggins (ds)

Last Nite
Still Be-Bop
Smiles and Smiles To Go
Never Forget 311
Some Other Blues

ⒸHideo Nakajima ⒸRieko Oka
ⒸHideo Nakajima ⒸHideo Nakajima
ⒸHideo Nakajima ⒸHideo Nakajima

日野皓正とラリー・カールトンの初共演。大西順子の“引退宣言”はあまり信用していないのだが、2012年引退表明後、2013年、小澤征爾指揮サイトウ・キネン・オーケストラとの<Rhapsody in Blue>演奏を経て、今回復帰公演となる。大西は日本人として初めてヴィレッジ・ヴァンガードにリーダーで1週間出演したように、世界に通用する特別なものを持つ。という3人の話題性に隠れてサイドミュージシャンに見えてしまうけれど、J・ディラやハービー・ハンコック、ポール・マッカートニーなどと共演し、ヒップホップを中心にプロデューサーとして活躍するドラマーのカリーム・リギンズ、ジャンルを問わず数えきれないトップ・ミュージシャンと共演し、自身のグループも素晴らしいジョン・パティトゥッチ。今を切り取れば、この二人の参加にもっと注目し活用されてよいと思う。
この顔合わせは、ミュージシャン側の企画よりも、主催者側の企画だったようだ。ウェブマガジン「ARBAN」での共演前のインタビューで、日野はラリーとの共演のきっかけについて、「実は、ほとんどラリー・カールトンのことを知らないんだけど、周囲がこの2人でやったらいいんじゃないかと言ってくれている。」と語っているし(http://arban-mag.com/interview_detail/13)、産経ニュース8/28では、「心の準備はしません。無の境地でやらないと、(ラリーとの)“会話”が成り立たなくなりますから」と語っている(http://www.sankei.com/entertainments/print/150828/ent1508280012-c.html)。
演奏曲は、ラリーから名曲<Room 335>と1980年代の曲から2曲、日野から<Still Be Bop>と、3・11を想い『日野皓正 h FACTOR』に収録された<Never Forget 311>。ブルースのセッション曲として<Some Other Blues>。
カリーム、ジョン、大西から生まれるグルーヴは素晴らしく、その中で日野の魂と存在感が光る。ラリーの生み出すブルージーなフレーズも期待を裏切らず素晴らしい。ただ、肝心の日野とラリーは、ともに最高のミュージシャンであるのだが、それぞれの持ち味は少し方向性が違っていて、楽しい“共演”の先に、持ち味が相性よく噛み合い壮大なケミストリーが生まれたかと言うとそこは残念な感があった。
私の憶測としては、フォープレイ25周年に向けて、ラリー・カールトンとリー・リトナーも東京JAZZ 2015に呼びたいという意向があり、その中で、1980年前後のフュージョン・ブームの中で、リー・リトナーが参加した渡辺貞夫『My Dear Life』『California Shower』がヒットした時代を振り返りながら、1978年にリリースされ大ヒットとなった<Room 335>が収められた『Larry Carlton』(邦題:夜の彷徨)があり、日野皓正の『City Connection』(1978)、名曲<Still Be Bop>が収められた『Daydream』(1980)という時代観の中で、フュージョン期を代表するスターでもあった日野とラリーの共演を事件として、心が動かされる観客層がいるのではと考え、主催者主導で出会いが設定されたのではないか。どんな出会いも素晴らしいが、地方公演を含め約1万人がいて、たとえばコンサートの3分の1であり、「東京Jazz」の影響力を考えると、主催者の仕掛けるコラボレーションには“ジャズの今”と若い世代の視点までを見据えた明確な視点を望みたいと思う。


14:56-15:50
ハービー・ハンコック & ウェイン・ショーター
Herbie Hancock & Wayne Shorter
Herbie Hancock(p,keyb) Wayne Shorter(ts,ss)

Improvisation #1
Improvisation #2
Prologue #3

ⒸHideo Nakajima ⒸHideo Nakajima

初期の東京JAZZは、ハービー・ハンコックがプロデューサーを務めていたが、2014年から再び参加し、ハービーは再び東京Jazzとつながることを喜んでいるようだ。その、ハービーと仲間たちの音楽の中で最も特別なものが、ウェイン・ショーターとのデュオだろう。今回、ビルボードライブ東京での公演もあったが、このホール公演はこのデュオを期待する観客でソールドアウトとなった。必ず指定するFazioliのピアノだけでなく、シンセサイザーも多用しながら、明確な曲というよりも、宇宙的、空間的な広がりを想像させる壮大な音の絵巻を表現する。そしてウェインの透明感のある美しいサックスの音がホールAを満たす。もっとキャッチーな音を想像してか楽しめなかった観客の姿もないではなかったが、誰もが認める巨匠二人でありながら、過去によりかからず、新しい響きを提示するのは素晴らしかった。


9/6 17:30- THE TOKYO JAZZ SPECIAL
17:34-18:22
スティーヴ・ガッド・バンド featuring マイケル・ランドウ、ラリー・ゴールディングス、ジミー・ジョンソン&ウォルト・ファウラー
STEVE GADD BAND featuring MICHAEL LANDAU, LARRY GOLDINGS, JIMMY JOHNSON & WALT FOWLER

Steve Gadd(ds) Michael Landau(g) Larry Goldings(keyb) Jimmy Johnson(b) Walt Fowler(tp,flgh)

The Wind Up
Africa
Green Foam
Duke's Anthem
Way Back Home
Them Changes

ⒸHideo Nakajima ⒸRieko Oka
ⒸHideo Nakajima ⒸHideo Nakajima

70歳を迎え『70 Strong』を発表したスティーヴ・ガッド。そのPVで「今年、私は70歳になるけど。ほら、楽しいときには速く時間が過ぎるよね」と語っていたが、1970年代以降のミュージック・シーンを支えてきたファーストコールの巨匠であるにもかかわらず気負わず、音楽を楽しみ、ファンに感謝しながらそれを届ける。
キース・ジャレット『Belonging』の<The Windup>から始まり、ヨーロピアン・カルテットの曲がホールAを満たす不思議な感覚、オーネット・コールマン的感性の原曲に比べ、ラテンのリズムで客席をリラックスさせる。ジョージ・デュークに捧げたバラード<Duke’s Anthem>も印象的。ガッドギャングから<Way Back Home>も演奏され、アンコールに『Steve Gadd and Friends / Live at Voce』からノリのよい<Them Changes>で締め括られた。
ブルーノート東京でのライブも聴いたが、そちらは若干硬さが見えて、むしろ、ホールAでリラックスしたアットホーム感を見せていたのが印象的だった。最も信頼する仲間たちで結成されたスティーヴ・ガッド・バンドは、もともと、ジェームス・テイラー・バンドの主要メンバーであり、大型の会場を心地よく響かせるところに豊かな経験と力量を見る。これは、福山雅治バンドの主要メンバーによるグループ「井山大今」でも同様だが、スティーヴ・ガッド・バンドのホールでの安定感は、今回の東京JAZZでも特別なものだった。


18:43-19:51
リー・リトナー ゲスト: TOKYO JAZZ HORNS(市原ひかり、小林香織、駒野逸美、浜崎航、宮本大路)
Lee Ritenour Guest: TOKYO JAZZ HORNS (Hikari Ichihara, Kaori Kobayashi, Itsumi Komano, Wataru Hamasaki, Dairo Miyamoto)

Lee Ritenour(g) Jesse Milliner(keyb) Melvin Davis(b) Sonny Emory(ds)
市原ひかり(tp,flgh) 小林香織(as,ts,fl) 駒野逸美(tb) 浜崎航(ts) 宮本大路(bs)

The Village
Wes Bound
Pearl
A Little Bit of This and a Little Bit of That
Ooh Yeah
Wild Rice
Lay It Down
Fatback

ⒸHideo Nakajima ⒸRieko Oka
ⒸHideo Nakajima ⒸHideo Nakajima

リー・リトナーは、最新作『Twist of Rit』で、1970〜80年代のオリジナルのリアレンジし録音していて、それを受けて、1975年のファースト・アルバム『First Course』から3曲演奏されているのが印象的だ。基本になる4人のバンド・アンサンブルの意気が合っていて、テクニックもさりげなく光る。今回の特徴は「東京ホーンズ」と名付けた日本の若手・中堅の管楽器プレーヤー、市原ひかり、小林香織、駒野逸美、浜崎航、宮本大路との共演、思った以上に良い響きを生んでいたし、それぞれのソロも素晴らしかった。あらためて認識するのは、熱帯ジャズ楽団、EMバンド、ブルーノート東京・オールスター・ジャズ・オーケストラなどを支える宮本大路のバリトンサックスだが、宮本の低音でリー・リトナーのサウンドも明らかに引き締まって、日本のホーンの凄さを見せることになった。


20:17-21:35
フォープレイ
Fourplay
Bob James(p,kyeb) Chuck Loeb(g) Nathan East(b) Harvey Mason(ds)

December Dream
Max-Of-Man
Chant
Quicksilver
Horace
Sliver Streak
Sterling
3rd Degree
Silverado

ⒸRieko Oka ⒸRieko Oka ⒸHideo Nakajima
ⒸHideo Nakajima ⒸRieko Oka
ⒸRieko Oka ⒸHideo Nakajima

フォープレイは、1980年の結成から25 周年(Silver anniversary)を迎えて、アメリカで11月予定、日本先行で9月に『Silver』をリリースした。先代のギタリスト、リー・リトナーとラリー・カールトンも1曲ずつ参加している。Silverに因んだ曲が多数作曲されて、ステージでもそれを中心に演奏された。今回、フォープレイのライブを聴いて改めて凄いと思ったのは、どの曲を聴いてもそれとわかるぶれない一貫したサウンドだ。ギタリストを、リー・リトナー、ラリー・カールトン、チャック・ローブとバトンを渡しながら変わらず、古くならない一貫した音がある。名手が揃いながら暖かくメンバーの楽しさが伝わる演奏は、フュージョンからスムースジャズに至るひとつの完成形だと思う。
8曲のステージを終えて、鳴り止まない拍手にすぐには応えず、ステージがセッティング変更に動く。そして何となく想像はしていたがサプライズ!フォープレイを支えた3人のギタリスト、リー・リトナー(1952年生まれ)、ラリー・カールトン(1948年)、チャック・ローブ(1955年)が勢揃いし、客席は興奮に包まれる。3人で演奏したのは<Silverado>。ここで、就任の順番にギタープレイのグレードが下がっていったら洒落にならないわけだが、3人それぞれの持ち味を発揮しながら、現役でいちばん若いチャック・ローブが最も快活でエキサイティングなプレイを披露し、ホストとして先輩をもてなす余裕を見せていたのが嬉しかった。

さて、フォープレイでのギタリスト3人の共演については、日野皓正&ラリー・カールトンの項目で触れたが、25周年のお祝いに3人が揃うことが先に想定されてブッキングに影響したようにも思われる。そうであれば、スタイル的品揃えの多様性に影響が出る一方、結果が共演1曲に留まるのも中途半端感は否めないところではある。地上広場でカート・ローゼンウィンケル、アヴィシャイ・コーエン(tp)らが演奏し、興味深い熱気を帯びた公演が目立つ一方、ホール公演では出演者の世代が高くなってきた。たとえば、最終ホール公演のリーダーの平均年齢は約70歳だ。「ライブ・アンダー・ザ・スカイ」を熱狂させた若手・中堅の世代が、巨匠となって「東京JAZZ」を支えていることになる。プログラム上、ホール公演を有料で見ると地上広場公演を見ることができないのも残念だ。などと言うのは易く、興行的成功と音楽的成功を両立しフェスティバルを成功させるのは並大抵のことではなく、主催者には最大の敬意を表したい。お金を持っているのがシニア層になっているという重い状況がある一方、上原ひろみの公演が10代〜30代を中心に数万人を取り込めているのも事実。横浜で今年から開催されたブルーノート・ジャズ・フェスティバルでもロバート・グラスパー、ハイエイタス・カイヨーテ、スナーキー・パピーなどが熱狂的に迎えられていた。東京ジャズのホール公演が、学生や20代にアピールできていて、今後のリピーターを育てているのか、あるいは、それを有料公演と無料公演の住分けと考えるのか?
また中国、韓国、インドネシアなどでジャズファンが急速に増え、訪日客の取り込みが課題となる中、プログラムの有料冊子、チラシが英語で読めないなど、国際ジャズ・フェスティバルとしてのインフラ整備にも遅れが見える。ヨーロッパ各国やイスラエルのジャズの取り込みに成功する中、そのセッション化、アジアのミュージシャンとの交流も課題かも知れない。一定の地位と成功を築きながら、未知のポテンシャルを秘めた、東京JAZZは大きな転機を迎えている。さらなる充実と飛躍に期待したい。


【関連リンク】
第14回 東京ジャズ・フェスティバル
http://www.tokyo-jazz.com
Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN 2015
http://bluenotejazzfestival.jp
ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 2015
http://www.lfj.jp/lfj_2015/

【JT関連リンク】
Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN 2015
URL TBA
東京JAZZ 2014
http://www.jazztokyo.com/live_report/report739.html
東京JAZZ 2013
http://www.jazztokyo.com/live_report/report581.html
ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 2015 - PASSIONS 恋と祈りといのちの音楽
http://www.jazztokyo.com/live_report/report817.html
インターナショナル・ジャズ・デイ グローバルコンサート 2014 大阪
http://www.jazztokyo.com/live_report/report686.html
スティーヴ・ガッド・バンド ブルーノート東京 2013
http://www.jazztokyo.com/live_report/report594.html
『スティーヴ・ガッド・バンド/70 ストロング』
http://www.jazztokyo.com/five/five1189.html
『スティーヴ・ガッド・バンド/ガッドの流儀』
http://www.jazztokyo.com/five/five1027.html
ボブ・ジェームス&デヴィッド・サンボーン featuring スティーヴ・ガッド&ジェームス・ジーナス
http://www.jazztokyo.com/live_report/report577.html
エスペランサ・スポルディング「ラジオ・ミュージック・ソサイエティ」
http://www.jazztokyo.com/live_report/report514.html

神野秀雄 Hideo Kanno
福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。東京JAZZ 2014で、マイク・スターン、ランディ・ブレッカーとの”共演”を果たしたらしい。

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FIVE by FIVE 注目の新譜


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追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


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