Live Report #848

ランドフェス仙川

2015年9月19日(土)〜20日(日) 調布市仙川駅周辺

ディレクター:松岡大
Reported by Makoto Ando安藤 誠
Photo by 木村雅章

プログラム

9月19日(土)
ランドフェス daytime 12:00〜13:15
金野泰史(dance)×纐纈雅代(as)
レオナ(tap dance)×南雲麻衣(dance)×マルコス・フェルナンデス(perc)
岩下徹(dance)×森重靖宗(cello)

Jenny's Kitchen Live 15:15〜16:15
奥野美和(dance)×松岡大(dance)×あうん

ランドフェス evening 18:05〜19:20
政岡由衣子(dance)×荒井康太(ds)×蜂谷真紀(voice,perc)
大島菜央(dance)×高岡大祐(tuba)
田仲ハル(舞踏)×坂本弘道(cello)

9月20日(日)
ランドフェス daytime 12:00〜13:15
トマツタカヒロ(肉態表現)×高岡大祐(tuba)
岩下徹(dance)×巻上公一(voice)
奥野美和(dance)×モーガン・フィッシャー(pf)

Jenny's Kitchen Live 15:15〜16:15
SUNDRUM

ランドフェス evening 18:05〜19:20
藤由智子(dance)×荒井康太(ds)
長谷川宝子&松原東洋(舞踏)×直江実樹(shortwave radio)
松岡大(dance)×森重靖宗(cello)×マルコス・フェルナンデス(perc)

ランドフェスは、街を巡りながらダンサーとミュージシャンによるライヴを体験する、ウォーキング形式のパフォーマンスイベント。これまでに吉祥寺、西小山、高円寺、中延で開催されており、昨年9月には「JAZZ ART せんがわ」の付帯イベントとして仙川の街を舞台に行われた。そのランドフェスが今年もJAZZ ARTせんがわと同時日程で開催。先鋭的なパフォーマーが集結し、ジャンルレスでボーダーレスなセッションを繰り広げた2日間の模様を紹介する。

仙川駅は新宿から京王線で約20分。2008年に安藤忠雄設計によるせんがわ劇場がオープンしたのを機に、多くの舞台芸術が行われる街として知られるようになった。今年で第8回を迎えたJAZZ ARTせんがわはその代表的なイベント。ヒカシューの巻上公一を総合プロデューサーに、坂本弘道cello、藤原清登bという即興/ジャズシーンの重鎮がプロデューサーを務め、一筋縄ではいかないアーティストたちが集う特異なフェスティバルだ。移動式極小ライヴスペース「CLUB JAZZ屏風」やクイーンズ伊勢丹前公園での無料ライヴも同時開催されており、2日間は街中が即興音楽であふれる。ランドフェスでは、せんがわ劇場をスタート地点に、ダンサーとミュージシャンが仙川の街の日常へと飛び込み、意外性に満ちたセッションを繰り広げる。なお各セッションとも、アーティストとその組み合わせのみが事前にアナウンスされ、会場や出演順は参加してのお楽しみ。通常では考えられない意外な場所が選ばれることも多く、ミステリー・ツアー的な趣向が味わえるのもこのフェスならではの魅力だ。


●9月19日(土)



daytime session #1 金野泰史(dance)×纐纈雅代(as)
1日目昼の部のファーストセッションは、せんがわ劇場近くにあるプラザ・ギャラリー内のオープンスペースを舞台に、金野泰史dance、纐纈雅代asという刺激的な組み合わせでスタート。纐纈はこの日、N/Y(新垣隆pf・吉田隆一bs)+ヒカシューとの共演ライヴもせんがわ劇場で組まれており、両方を楽しみに訪れたファンも多かったようだ。正午を回ったばかりの仙川の街は、好天に恵まれ初秋とはいえ汗ばむほどの暑さ。大きな街路樹の下に陣取った纐纈が高速フレージングを矢継ぎ早に繰り出すと、金野もキレのある動きで応答する。初手から丁々発止のやり取りが繰り広げられ、観る者を一瞬たりとも飽きさせない。終演後金野は「空間が開け過ぎていて、多少やりにくい面もあった」と語っていたが、広いスペースをあえてコンパクトに使いながら、自由自在に立ち回る展開力に引きこまれたオーディエンスも多かったのではないか。ここから次の会場までの道のりは、演者と聴衆が談笑しながらのウォーク。ランドフェスではダンサーやミュージシャンが次の会場までパフォーマンスを行いながら先導する形が多いが、今回のような長閑な休日の散歩のような移動もまた楽しい。



daytime session #2 レオナ(tap dance)×南雲麻衣(dance)×マルコス・フェルナンデス(perc)
桐朋学園大学の敷地外側をぐるりと回り、校舎の裏手にあるカフェ&ギャラリー、ニワコヤへ。この店のオーナー笠原氏は、不破大輔bをはじめ渋さ知らズの面々が長年音楽を担当している劇団「風煉ダンス」の演出家でもあり、JAZZ ARTせんがわとの関わりも深い。そんなお店の前で一行を待ち受けていたのは、タップダンサーのレオナ。たまたま店の近くに廃材として打ち捨てられていたシンクを使った即興のタップは、まるでメタルパーカッションを使った爆音インプロのよう。そこへもう一人のダンサー南雲麻衣がそっと加わり、2人は店内へと移動してマルコス・フェルナンデスpercとのセッションがスタート。植野隆司g、沢田穣治bと組むMELTをはじめ、バンドでの演奏時にはアグレッシヴなドラミングを見せるマルコスだが、ダンサーとの共演では必要最小限のサウンド供給に徹する姿がかえって印象的だ。聾ダンサー南雲のしなやかな動きがまぶしい。昨年のランドフェス中延では、ビル屋上で行われた池澤龍作dsとのパフォーマンスでオーディエンスを魅了。彼女ならではのフェミニンなダンスに秘めた力感表現は今回も健在だった。最後は終始この場を牽引していたレオナが再び路上へ飛び出し、次の舞台へと向かう。



daytime session #3 岩下徹(dance)×森重靖宗(cello)
賑やかな駅前からほんの10数分歩くだけで、背の高い木々と深い緑が姿をあらわす。国分寺崖線と呼ばれる段丘の雑木林に佇むオープンガーデン「森のテラス」は、造園家が私邸の一部を提供して運営するリラクシングな空間。樹木に囲まれた大きなテラスには陽光が差し込み、メインルームにはグランドピアノ。さらにその隣にはキッチンもあるという贅沢な環境だ(ちなみにランドフェス開催中はこの場所にカフェも併設され、アトラクションとしてCLUB JAZZ屏風に出演するアーティストの投げ銭ライヴも行われた)。さて、この場所で昼の部の最後を締めくくるのは、長年山海塾の舞踏手として活躍する岩下徹danceと、灰野敬二率いる「不失者」のベース奏者でもある森重靖宗cello。水面に浮かんだまま移動しているかのような岩下の足さばきが美しい。ある人は「古武術のよう」と云い、別の人は「バレエみたいだった」と感想を漏らしていたが、観る人の想像力と感受性を刺激する抽象度の高いダンスはまさに岩下独自の世界だ。森重のチェロは時にダンスに寄り添い、時に煽り立て…と、緩急自在に音符を紡ぎ出していく。生音の響きの美しさと歌心、最後のノートに至るまで続く緊張感に瞠目させられた。1日目昼の部はここで終了。

Jenny's Kitchen live 奥野美和(dance)×松岡大(dance)×あうん
仙川商店街から少し離れた場所に位置するJenny's Kitchenは、これまでもJAZZ ARTせんがわ開催時には多くの企画が行われてきたが、今回はランドフェスのキュレーションによるスペシャルライヴが2回にわたって実施された。1日目は、奥野美和・松岡大のダンサー2名に、ポストノイズユニットあうんという興味深い組み合わせ。奥野は2013年に「若手振付家のための在日フランス大使館賞」「MASDANZA賞」をW受賞、同年半年のフランス滞在を経て、現在は東京藝大大学院美術研究科に籍を置きながら活動する気鋭のダンサー。ランドフェスディレクターであり、毎回パフォーマーとしても出演する松岡とは初の共演となる。会場で目を引かれるのは、あうんのサウンドを司るTommyTommyが自作した巨大なエフェクターボード。総重量90キロにもなるというこの装置とギターを駆使して、PCには一切頼らず多種多様なドローンやノイズ、電子音を生成し、それらをループ&レイヤーしていくのが彼独自のスタイルだ。そこに日ル女のシャーマニックかつオペラ調のヴォイスが被さり、音の万華鏡を紡ぎだしていく。My Bloody Valentineを安易に引き合いに出すのは危険かもしれないが、シューゲイザー的な音作りを表層的になぞるだけの手合いが目立つ中、真にその現代的解釈ともいえるサウンドスケープを作り上げている希少な存在といえるだろう。注目のライヴは、肉体性を強く押し出した2人のダンスに、日ル女の幻想感たっぷりのヴォーカルが絡んでいく展開が愁眉。個性的な4人の演者、それぞれのぶつかり合いから様々な世界観が立ち現われてはフェイドアウトし、エロスとタナトスが交錯する。刻々と移り変わる天象を目の当たりにするかのような、神話的イメージすら感じさせる60分だった。



evening session #1 政岡由衣子(dance)×荒井康太(ds)×蜂谷真紀(voice,perc)
1日目夜の部のファーストステージは、商店街の中にある古書店、石本書店。政岡由衣子dance、荒井康太ds、蜂谷真紀voiceの3人が色とりどりの装いで店内になだれ込む。ちなみにお店は通常営業中。立ち読みに耽っていた来店客はさぞかし驚いたことだろう(奥の18禁コーナーを物色中だったおじさんは大層お怒りだったとのこと)。荒井は店奥にドラムキットをセットしているものの、3人とも縦横無尽に動きに動く。店内は当然のことながら書棚で仕切られており、観る人からは全員の動きは掴めず音も分散するわけだが、それもまたランドフェスならではの面白さのひとつ。オーディエンスはそれぞれ、常にベストポジションを探しながら自ら移動する(あるいはそれを放棄して視点を固定する)ことを自然に求められる。このような通常ライヴには不向きとされる会場(個人店など)では、あえて不可視(聴)領域をそのまま残すことで、即興演奏においては演者だけではなく、そこにいる者すべてが参加者なのだという事実を顕在化しようとする意図が感じられた。空間を拡張するかのような政岡の伸びやかな踊り、蜂谷の変幻自在なヴォイスとシアトリカルな雰囲気、荒井の効果的なパーカッションが相まって、日常と非日常とが入り交ざった不可思議なムードを醸し出していた。



evening session #2 大島菜央(dance)×高岡大祐(tuba)
3人の先導で商店街を北に直進し、歩道橋を渡って甲州街道を越えた場所にある阿部青果店へと移動。気っ風の良い姉妹が、それぞれ八百屋と花屋さんを切り盛りするお店だ。パフォーマーは大島菜央danceと高岡大祐tubaの組み合わせ。大島は、前セッションに登場した荒井康太と同じく、20日のライヴで演奏するSUNDRUMのメンバーでもある。自身のトリオ歌女での出演も含め、今回のJAZZ ARTせんがわとランドフェスの両イベントで連日、八面六臂の活躍を見せた高岡とは初共演ということで、この狭小空間でどんなパフォーマンスが披露されるのか期待が膨らむ。「店で待っている間に、店主のお二人とすっかり仲良くなった」という高岡は、初っ端から快調。大勢のオーディエンスに取り囲まれるような形での演奏という悪条件(本人はそうは考えていないだろうが)をものともせず飛ばしに飛ばす。その強力無比な吹奏を乗り物に、周囲をぐんぐん引き込んでいく大島の踊り。ダンスの根源を探るべく渡ったというアフリカで培った躍動感は、まさに太陽の申し子のような輝きを放つ。店内で観ていた子どもたちも大喜び、笑いあり驚きありのあたたかい空気感に包まれたセッションだった。



evening session #3 田仲ハル(舞踏)×坂本弘道(cello)
続いて向かった先は、駅近くのキャバクラSPEED。早い時間帯でもありキャバ嬢の姿は見当たらなかったものの、真っ赤なソファーにピンクのネオン、極彩色の看板と、店内は紛うことなき風俗店の世界。この悦楽空間をしばしの間支配するのは、「最北の舞踏家」田仲ハルと坂本弘道celloという超個性派の2人だ。10代で北方舞踏派に加わり、現在は小樽で活動する田仲は、気の触れたキリストとも、ホドロフスキー映画の登場人物とも形容したくなるような異様な風体で、否が応でも観る者の視線を集める。「地面へのこだわりや低い姿勢が舞踏の特徴」と語る通り、床や壁に接触する動きを中心に、演劇的な要素も盛り込みながら独自の世界を展開していく田仲。坂本のチェロが生み出す甘美でメランコリックな旋律は、場所の効果もあってかいつもよりも官能的に響く。もちろん、生粋のインプロヴァイザーたる彼の演奏がそれに終わるはずもなく、打撃や摩擦、切断といったあらゆる手法を用いての爆音ノイズが次々と飛び出す。おなじみのグラインダーからの火花(いつもより控えではあったが)に加え、そのグラインダーを田仲に向けて挑発(?)するといった場面もあるなど、貫禄たっぷりのパフォーマンスだった。第1日は、このセッションをもって終了。


●9月20日(日)



daytime session #1 トマツタカヒロ(肉態表現)×高岡大祐(tuba)
前日に続き好天に恵まれた2日目昼の部は、奥野美和danceとモーガン・フィッシャーpfの先導でせんがわ劇場をスタート。仙川駅改札前でオーディエンスを待ち受けるのは、独自の「肉態表現」を掲げるタマツタカヒロと、前日に続いての登場となる高岡大祐tuba。CLUB JAZZ屏風やクイーンズ伊勢丹前公園での演奏を含め、この2日間仙川周辺で11(!)のステージをこなしたという高岡だが、舞台や共演者がどのように変わろうとも瞬時にその場の指向性を察知し、すぐさま音を重ねていくのはさすが。昨年のランドフェス仙川にも出演したトマツ、前回は自身の長髪を絵筆に見立て、その場で墨絵を描くという妙技を演じたが、今回は「肉態」そのものの存在感を軸に据えたパフォーマンスを披露。「始まる前に改札の前で目隠しをしながら正座していて、『駅』という場の得体の知れないエネルギーに恐れを感じた」というトマツ、常に鬼気迫るその振る舞いを司るのは、彼なりの回路を通じて変換された「場」の波動と言えるのかもしれない。このセッションでは、齋藤徹bとの共演でも知られるダンサー矢萩竜太郎が飛び入り参加する場面も。「突然で緊張した」という矢萩だが、ユーモラスな動きでトマツと対峙したひとときは、一連の流れの中で程よいアクセントになっていた。



daytime session #2 岩下徹(dance)×巻上公一(voice)
駅前の喧騒を離れ、舞台は再び武蔵野の原風景を色濃く残す国分寺崖線へ。ヨーロッパ調の瀟洒な洋菓子店&カフェ「ジャリーヴ」で待ち受けるのは、第1回以来8年間にわたりJAZZ ARTせんがわの総合プロデューサーを務める巻上公一voiceと、前日に続いてのアクトとなる岩下徹。斜面にある建物の高低差を活かし、巻上はカフェのテラス、岩下は下の駐車スペースと路上に陣取るという立体的な構成のパフォーマンスとなった。巻上が奏でるヴォイスとサウンドは、時に上空から舞い降り、時に風とともに運ばれ…と、オーディエンスの予測を心地よく裏切りながら軽やかに響く。岩下もそれに応え、前日とはまた趣の異なる、伸びやかで自由度の高い動きを見せる。そのムーブメントは、重力の軛から解き放たれたかのよう。それにしても…本イベントの直前までカムチャッカ半島での公演をこなし、仙川では劇場ライヴから街中での即興まで出ずっぱり、さらに終了後は翌日から間髪入れずTime Is A Blind Guideとの全国ツアーが始まるという巻上公一。ヒカシューとしてのデビューから37年、その尽きせぬ表現欲求は一体どこから湧き上がってくるのだろうか。



daytime session #3 奥野美和(dance)×モーガン・フィッシャー(pf)
次の舞台となる森のテラスは、ジャリーヴから目と鼻の先。会場に向かう途中から既にモーガン・フィッシャーpfのピアノが聞こえてくる。英国グラムロック期を彩ったバンド、モット・ザ・フープルの元メンバーであり、90年代からは日本を拠点にTHE BOOMやヒートウェイヴといった硬派なグループと共に活動するなどロック寄りのイメージが強いモーガンだが、独自の技法を駆使した写真制作やダンサーとのコラボレーション、環境音楽まで活動領域は幅広い。ダンサー奥野美和とは、今年1月の明大前キッド・アイラック・アート・ホールでのデュオ以来となる共演。キッドでの公演は、奥野の裸体にサイケデリックなライティングとエレクトロニクスが被さる挑戦的な内容だったが、この日はそれとは対照的なオーガニック&アコースティックな展開。モーガンは時折オムニコードによる電子音を挟み込むものの、基本的には終始オーソドックスなプレイに徹し、木漏れ日の中をたゆたう奥野の動きを支える。その場に居た者すべてを魅了する、静謐かつ濃密な20分。心地よく酔いが回るような感触が頭に残った。

Jenny's Kitchen live SUNDRUM
Jenny's Kitchen2日目のスペシャルライヴは坪内敦perc、ハブヒロシperc、荒井康太ds&太鼓、善戝和也vo、ArisAvo、ツダユキコvo、亀田欣昌dance、大島菜央dance、石本華江danceの9人からなるSUNDRUM。今回のランドフェスで唯一コラボなしの単独公演だが、ディレクターの松岡大によれば「SUNDRUM自体がダンスと歌、打楽器を融合したユニークなスタイルなので、そこを観てもらいたいと思った」とのこと。普段はなかなか揃わないというフルメンバーでのライヴとあって、メンバーも初っ端から気合十分の演奏を繰り広げる。アフリカ由来のポリリズムをベースに、日本の古謡やわらべうたを織り交ぜつつ、野太いグルーヴに満ちた祝祭空間を作り上げていく。この日はやや小さめのハコということもあってか、彼らのもう一つの側面でもあるディスコやソウル的なノリも随所で顔を覗かせる展開となった。全編にわたって3人だけとはにわかに信じがたい分厚いサウンドを供給するパーカッション陣はこの日も快調。オーディエンスも大半が入り乱れ、大人から子供まで踊りまくりの60分だった。終盤には会場を飛び出し、獅子舞のような被り物(「ナツコちゃん」という)を観客とともに操りながら街を練り歩き、駅前で行われていたJAZZ ARTせんがわ名物のCLUB JAZZ屏風と合流。ちょうど演奏中だった太田恵資vlnらのミュージシャンに野次馬も加わり、日曜の駅前は一気に多幸感に満ちたカオス状態へ。間違いなく今回のハイライトに挙げられるだろう圧巻のパフォーマンスだった。



evening session #1 藤由智子(dance)×荒井康太(ds)
夜の部のオープニングは藤由智子danceと荒井康太dsのセッション。黄昏れ時のせんがわ劇場を出発し、藤由のダンスに導かれて夜カフェもできるバー、グッドスマイルキッチンへと向かう。飲食店が多くカフェ激戦区としても知られる仙川だが、このようなオシャレ系のお店は意外と希少。絵になる場所だけに、この設定をどのように解釈して再構築するのか興味が湧くところだが、両者ともにあえてギミックに走らず、身体性を重視したストレートなパフォーマンスを披露した。あざやかな水色のドレスを身に纏った藤由のダンスは、量感と軽やかさという相矛盾する要素を同時に感じさせる独自のもの。パーカッションとの絡みもあってか、一瞬フラメンコ的なニュアンスが垣間見えるのも面白い。荒井は前日同様、ダンサーと絶妙の間合いを取りながら攻める。つい数時間前に聴衆を圧倒したSUNDRUMでのトライバルかつトランシーなプレイとは全く異なる、抑制の効いた細やかなドラミングに、ドラマー/パーカッショニストとしての引き出しの多さを実感させられた。ここから再び2人のリードで商店街へと入り、次の会場へ。



evening session #2 長谷川宝子&松原東洋(舞踏)×直江実樹(shortwave radio)
2つ目の舞台は額縁店モッテ。店頭に掲げられた「独創的発想で勝負!!」のキャッチコピーと、店主が職人芸で制作するオリジナルフレームで地元ではよく知られた店だ。ここで待ち受けるのは、渋さ知らズでの活動でおなじみの舞踏家、長谷川宝子&松原東洋。オーディエンスの到着と同時に、その異様な姿が暗闇の中ショーウインドウに浮かび上がる。のっけから非現実感たっぷりの立ち上がり。そこにすかさず切れ込んでくるのは、直江実樹radioの電波音。時に主役、時に名バイプレイヤーとして、即興シーンにおいて独特の存在感を放つ直江だが、この日のキレっぷりは凄いの一言。SONY CF-5950が発するモノローグや音楽の断片、ホワイトノイズが交錯し、音の放射となってその場の磁力を捻じ曲げる。オープンエアという環境もあって、響きもよりサラウンド的。異世界へのチューンインを司る祭祀の如き存在感を放っていた。いつのまにか即席のステージと化した店舗前の路上は、みる間に黒山の人だかりに。通行人の反応が面白い。宝子&東洋のそばを足早に通り過ぎる人、足を止めて覗きこむ人、子供に見ちゃダメとささやく母親、たまたま2人がまろび出る場面に出くわし声を上げてのけぞる人…。その場全体がひとつのパフォーマンスのようだ。2人は「証城寺の狸囃子」を歌いながら商店街を練り歩き、最後の場所へ向かう。



evening session #3 松岡大(dance)×森重靖宗(cello)×マルコス・フェルナンデス(perc)
前日と同じキャバクラSPEEDに向かう階段を降り、再びそちらに向かうのかと思いきや、オーディエンスが案内されたのは隣のガールズバーprettys。ラストを締めるのは、ダンサー松岡大とマルコス・フェルナンデスperc、そして森重靖宗celloのトリオだ。バーカウンターが長く伸びる横長の店内の両脇にミュージシャンを配し、松岡は真ん中の位置からスタート。カウンターの向こう側に居るため、最初のうちは上半身しか見えないのだが、背中と腕の動きを中心に、その場に居る人々の視線を集中させていく。途中からはカウンター上に登り、体全体を使ったより大きなモーションへと徐々に変化。少ない可動範囲で大きなうねりを生み出していく術は、長くランドフェスを主宰する中で培ったものでもあるのだろうか。森重、マルコスによる演奏は、静かなる応酬とでも呼びたくなるスリリングな瞬間が続く。重心の低いパルスを送りつつ、ガムラン的なメタリック音を織り交ぜ不穏なムードを演出するマルコス。そして森重のチェロは、完全アコースティックでありながら時折ディストーションがかかったかのような響きを発し、場の調和を引き裂く。同じく前日のラストを飾った坂本弘道と好対照を成すチェロの即興演奏を楽しむことができた。



Jenny's Kitchenでのライヴを含め、合計14のセッションが行われた今回のランドフェス。ダンスと音楽、プレイヤーと聴衆、時間と空間、日常と非日常……パフォーマンスの現場におけるさまざまな関係性を問い直しながら、見慣れた街を周遊する中で即興の新たな可能性を見出していく。そんな同フェスならではの冒険的なアプローチを思う存分味わうことができた2日間だった。

安藤 誠(あんどう・まこと)
ライター。広告制作事務所代表。音楽関連イベントや障害児のためのワークショップの企画・運営も手がける。

* 関連リンク
Jazz & Art せんがわ2014 レポート
http://www.jazztokyo.com/live_report/report719.html
http://www.jazztokyo.com/live_report/report720.html
http://www.jazztokyo.com/live_report/report721.html

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追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


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