Live Report #858

エンリコ・ピエラヌンツィ ピアノソロ 
Enrico Pieranunzi Piano Solo at Cotton Club

2015.9.23 20:00- コットンクラブ東京
Text by Hideo Kanno 神野秀雄
Photo by Yasuhisa Yoneda 米田泰久/写真提供:Cotton Club

Domenico Scarlatti's Sonata K. 9 with Improvisation (Domenico Scarlatti / Enrico Pieranunzi)
Nuevo Cinema Paradiso (Ennio Moriccone)
Castle of Solitude (Enrico Pieranunzi)

 

スカルラッティのソナタと<ニュー・シネマ・パラダイス>に酔う

驚いたのは、エンリコ・ピエラヌンツィがステージに登場すると、椅子に座る動きの連続で、両手が鍵盤上に振り下ろされて演奏が始まったこと。それだけ音楽を生む動きに無駄がなく、すぐに弾き出したいほど集中しているのか。
前半はドメニコ・スカルラッティの<ソナタK.9>とそれに基づくインプロヴィゼーション。スカルラッティ(1685-1757)はJ.S.バッハと同年にイタリアで生まれた作曲家で、500曲以上のソナタを残しピアノ曲として演奏されるが、本来はチェンバロのために書かれたもの。特にK.1〜K.30は、<Essercizi per Gravicembalo>として出版、<チェンバロのための練習曲集>と訳されたりして、ポルトガル王女マリア・バルバラ(後のスペイン王妃)のための練習曲として作曲された。エンリコは『Enrico Pieranunzi Plays Domenico Scarlatti: Sonatas and Improvisations』(CamJazz)を2007年に録音している。最終セットで演奏されたのは<ソナタ K.9>(L.213 二短調)、「パストラル」とも呼ばれるらしい。スカルラッティの原曲に近い演奏に続き、エンリコのインプロヴィゼーションが紡ぎ出される。スカルラッティのオリジナルの美しさとエンリコの美しさが両立する巧みな演奏で、魂から湧き出してくるようなフレーズを自然に聴かせてくれた。

アンコールでは、会場から「Cinema Paradiso」と声を上げた人がいて、決して嫌そうでなく「そう?やってみよう。」 まさかの生<Nuevo Cinema Paradiso>、邦題で言うと<ニュー・シネマ・パラダイス 愛のテーマ>を弾き始める。ピアノ・コンチェルト的な映画版をもとにした構成ではなく、マーク・ジョンソン&ジョーイ・バロンでのトリオ・バージョンに準じて、より快活な印象だが、心に沁みて溶けていくようだった。「映画では私が弾いていました。1970〜80年代に私はスタジオマンをしていて、エンニオ・モリコーネが音楽を担当した40近い映画で弾いています。」あの強く引き込まれた映画を彩った音楽をオリジナルのピアニストで聴くというかけがえのない体験となった。ちなみに、ジュゼッペ・トルナトーレ監督による『ニュー・シネマ・パラダイス』だが、最近になって“ディレクターズ・カット版”(173分)を観ることができ、日本の劇場で公開された“国際版”(123分)とは少し違った意味で、あまりにも切ないストーリーを監督が描きたかったことを知った。ぜひ鑑賞をお勧めしたい。
続いて<Castle of Solitude>、エンリコらしいメロディと美しい構造の曲を哀愁と切なさを込めて演奏し、ライブを締め括った。イタリア人の観客も多い中、リラックスした雰囲気の中でイタリアワインとエンリコのソロピアノに酔う充実した夜となった。

エンリコは、2015年11月にも3枚の新作をリリースする。まず最近のトリオでのライブ録音『Tales from the Unexpected』、2015年8月29日録音から11月のリリースというから驚きだ。『Proximity』はピアノとベースと2管によるカルテット作品。そして、2003年の音源だが、エンリコ、マーク・ジョンソン、ポール・マッキャンドレスによるトリオで『Nuovi Racconti Mediterranei』と実に幅広く、立ち止まらない創作意欲と、その作品内容に感動させられるばかりだ。今後も多様な演奏フォーマットで来日してもらって、ソロ、トリオとも異なるさまざまな表情を見せてもらえたらと思う。

【関連リンク】
Enrico Pieranunzi 公式ウェブサイト
http://www.enricopieranunzi.it
Enrico Pieranunzi Piano Solo 2015.9.23 Cotton Club, Tokyo (公式YouTube)
https://youtu.be/Njr78JdpoV0

【JT関連リンク】
Enrico Pieranunzi Trio at Cotton Club Tokyo 2013.9.4
http://www.jazztokyo.com/live_report/report576.html
『Enrico Pieranunzi Plays Domenico Scarlatti: Sonatas and Improvisations』
http://www.jazztokyo.com/newdisc/537/pieranunzi.html


Enrico Pieranunzi Plays Domenico Scarlatti: Sonatas and Improvisations (CamJazz)


『ニュー・シネマ・パラダイス』オリジナルサウンドトラック

【2015年11月発売 エンリコ・ピエラヌンツィ新譜】


Tales from the Unexpected
Enrico Pieranunzi(p), Jasper Somsen(b), Andre Ceccarelli(ds)
TalesFromTheUnexpectedSM


Proximity
Enrico Pieranunzi (p), Ralph Alessi(tp, cor, flgh), Donny McCaslin (ts, ss) , Matt Penman (b)


Nuovi Racconti Mediterranei
Enrico Pieranunzi(p), Marc Johnson(b), Paul McCandless(ds)

神野秀雄 Hideo Kanno
福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。東京JAZZ 2014で、マイク・スターン、ランディ・ブレッカーとの“共演”を果たしたらしい。

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