Live Report #861

コリン・ヴァロン・トリオ
COLIN VALLON TRIO

2015年10月26日 岡山・蔭凉寺
Reported by 平井康嗣 Yasushi Hirai
Photo by 篠原真祐(蔭凉寺)Shinyu Shinohara

Colin Vallon コリン・ヴァロン(p)
Julian Sartorius ジュリアン・サルトリウス(dr)
Patrice Moret パトリス・モレ(db)

ジャズからもっと進化したヨーロッパ・コンテンポラリー・ミニマル・ミュージック

 岡山の臨済宗妙心寺派のお寺、蔭凉寺。このお寺の住職、篠原さんが音楽好きで、この十数年来、ジャズ、ブラジル、フォーク、民族音楽、現代音楽等々ジャンルを超えたライブをしてきている。音楽的内容のクォリティもさることながら、音響機材もハイエンドな装置が揃っている。もはや趣味を越えた音楽へのこだわりは、地方でも屈指のコンサート・ライブ会場となっている。
 この日は、「おかやまコンテンポラン」と名打った10月25日と26日に渡る二日間のイベントの二日目のプログラムであった。26日は、コリン・ヴァロン・トリオと0(ZERO)の2グループの出演だった。
 0(ZERO)は、Sylvain Chauveau率いる現代音楽室内楽アンサンブルで、小津安二郎の無声映画「大人の繪本 生まれてはみたけれど」の伴奏、サウンド・パフォーマンスだった。彼らの現代の楽曲による室内楽的憂愁な演奏が付く事によって、小津の映画を新たな解釈で観る事ができた。私たち日本人にとっては、小津の映画は原体験的デジャヴの世界ではあるが、当時のヨーロッパ人やアメリカ人からみると、日本人の生活感や価値観、世界観は理解し難いモノだったに違いない。だから、彼らが伴奏することで小津映画が日本人では無いフィルターを通して新たな映像になってゆく。面白い体験であった。
 コリン・ヴァロン・トリオも演奏を熟知してライブに臨んだ訳ではなかった。ヨーロッパ・コンテンポラリー・ピアノ・トリオということで、ECMが好きな私はその若いサウンドを是が非でも聴いてみたかったのだ。静寂の中から徐々に演奏が始まる。始めて聴くミュージシャンに対しては、私はいつも、私の知っているサウンドをパズルのようにあてはめてゆく。ところが、彼らのサウンドはあてはまらない。あてはまりそうで、あてはまらない。ミニマルなピアノではあるが、ミニマルの特有な無機的な演奏でもない。ドラムのリズム、ベースライン、ピアノのコードが妙にずれて聴こえる。こいつら下手なのかな、と思いきやフェイク演奏だったりする。プリペイドピアノ、転調、変拍子、即興演奏も今までのヨーロッパ・フリー・ミュージックとは違う。然し、私の好きなECMのサウンドになっている。耽美なフレーズが洗練されないまま、波のように砕け散る。リリシズムの裏には、底知れない闇が拡がっている。彼らの演奏には、正にヨーロッパ独特のリリシズムが存在していた。演奏テクニックをひけらかすわけでもなく、人間的な個々の個性が一つのイマジネーションの流れの中でしっかりとインタープレイしている。
 先日亡くなったプーさんこと、菊地雅章。彼は、ミニマル的な演奏を早くからジャズの中に取り入れていた。ときに耽美であり、ときにダンサンブルでもあった。彼のミニマル的な演奏のアイデアはマイルス・デイビスにも影響を与えている。それとは裏腹に沈鬱した彼のピアノ・ソロは、日本人ならではの美意識が底に流れている。コリン・ヴァロン、菊地雅章のミニマルは、一般に言われるところのミニマル・ミュージックとは少し趣が異なっている。どちらかと言えば、原始的ミニマル音楽に近い。ブルースや津軽三味線、インド音楽、ブードゥーのジュジュ、バリのガムラン等々、同じパターンの音楽が反復される事で音楽に陶酔してゆき、そしてそれが微妙にずれて民族特有のグルーヴが生まれてくる。プーさんの音楽がジャパニーズ・コンテンポラリー・ミニマル・ジャズならコリン・ヴァロン・トリオの音楽は、ヨーロッパ・コンテンポラリー・ミニマル・ミュージックだろう。ジャズからもっと進化している。若い世代が確実に音楽を推し進めていることが、なによりも嬉しいライブ・コンサートであった。

平井康嗣(ひらい やすし)
1954年 岡山に生まれる。
学生時代からジャズが好きで、常連客だったジャズ喫茶「シャイン」でアルバイトをするようになり、ついには「シャイン」のオーナーであり自身が"音楽の師"と仰ぐ乗金健郎(のりかねたけお)氏の紹介でジャズ、ロック、ソウルを中心のレコードショップ「LPコーナー岡山支店」店長となる。同時に、ジャズ・フォーラム岡山、フリー・インプロヴィゼイション・クラブ、表町生活向上委員会等の団体を主催して、ライブの企画を手がけ、数多くのミュージシャンを岡山に招聘する。
また、平成元年のスポーツ公園での「音楽三昧公園まつり」には上々颱風、梅津和時、古澤良治郎を迎えて、音楽愛好家達による手作りの音楽イベントにも着手。その後、後楽園の河川敷では日ソ友好の「公園まつり」で、ソ連からアルハンゲリスク、沖縄のネーネーズを披露した。西川公園での渋谷オーケストラをゲストに迎えた「音楽楽市」の協力、築城400年祭のおかあさんと子供の為の「ヴォイセス・フォー・チルドレン」では、モンゴルの不思議な歌声ホーメイのサインホを紹介。音楽の原点に立ち返る石門別神社での「いわとわけ音楽祭」、そして2002年からスタートした「岡山ジャズフェスティバル」では、ゲイリー・バートンと小曽根真のデュオを実現。音楽による岡山の地域おこしの市民活動にも尽力した。
今は引退して、岡山出身のミュージシャン達、コジマサナエ、橋爪亮督、及部恭子、鳥越啓介、Mika(森 美佳)などを応援するかたわら、様々な音楽を一音楽ファンとして純粋に楽しんでいる。
招聘した音楽家は、
エルビン・ジョーンズ、エヴァン・パーカー、ペーター・ブロッツマン、エグベルト・ジスモンチ、レイ・ブライアント、ドン・フリードマン、姜泰煥、デレク・ベイリー、リッチー・バイラーク、ジョージ・ムラーツ、ゲイリー・バートン、リチャード・デイビス、ジミー・スコット、エリック・アレキサンダー、スティーブ・キューン、シーラ・ジョーダン、ピエール・バルー、マーク・マーフィー、デヴィッド・マレー、リー・コニッツ、サインホー・ナムチャラック、ネッド・ローゼンバーグ、デューク・ジョーダン、マイク・スターン、ヒューストン・パーソン、エタ・ジョーンズ、レス・マッキャン、マリーナ・ショウ、スコット・ハミルトン、ダニエル・ユメール、ポール・モチアン、ビル・フリーゼル、ジョー・ロバーノ、ジャネット・サイデル、ゲイリー・ピーコック、グレッグ・オズビー、ホッド・オブライエン、アルハンゲリスク、AMM、ジョン・ローズ、トム・コラ、トーマス・チェイピン、マイラ・メルフォード、梅津和時、加古隆、中村善郎、宮野弘紀、ヤヒロトモヒロ、橋本一子、山本剛、菊地雅章、小曽根真、おおたか静流、内橋和久、上々颱風、ネーネーズ、坂田明、峰厚介、藤原清登、佐藤允彦、早坂紗知、大友良英、木住野佳子、川嶋哲郎、廣木光一、鬼怒無月、ティポグラフィカ(菊地成孔)、巻上公一、酒井俊、程農化、渋さ知らズ、山崎ハコ、与世山澄子、フェダイン、灰野敬二、黒田京子、ガイアクアトロ、片山広明、タイロン橋本・・・・・等々
副島輝人、白石かずこ、若松孝二

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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


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