Live Report #862

第6回 雅楽と国際文化交流

2015年11月8日 銀座・ヤマハホール
Reported by Kenny Inaoka 稲岡邦弥
写真提供:公益社団法人北之台雅楽アンサンブル

第一部(タイガー大越tp、クリヤマコトp)
 1.母さんの歌
 2.通りゃんせ
 3.始まりの終わり
 4.さくらガーデン(クリヤマコト・ソロ)
 5.時の流れと共に
 6.ブースマンズ・リトルハウス
第二部(十二音会)
 1.楽器紹介
 2.管絃:盤渉調音取・千秋楽・越殿楽
 3.舞楽:陵王

雅楽を通じて青少年の健全育成と国際文化交流を活動目的とする公益社団法人北之台雅楽アンサンブルが主催する「雅楽と国際文化交流」の第6回目は、“東西音楽の競演”をテーマに、ジャズと雅楽の顔合わせとなった。昨年秋に北之台雅楽アンサンブルがボストンのバークリー音大に遠征し奏楽を披露した際には同大教授でトランペッターのタイガー大越が共演するパートがあったようだが、答礼演奏となった今回はそれぞれがステージを分け共演するチャンスはなかった。周知のように雅楽のリズムは一定ではなく小節ごとに間を開ける独特なものだけにジャズとの共演に興味があったのだが、今回それは実現しなかった。
“文は人なり”というが音もまた人なりでタイガーのトランペットの音にはいつも一点の曇りもない。明朗闊達で時に健康的でさえある。そこに人格者としての人間味が加味され心温まる音となり聴くものを幸せ感で包み込む。体調管理も万全で早寝早起き、ヨガで鍛えた体力で破綻なく1時間吹き切った。時にクリヤがシンセで制作したバックに合わせたり、クリヤのピアノとの共演もあったがタイガーの年齢を考えると生で1時間は容易いことではない。近年のタイガーは演奏家としての活動の他に、日米を往復しながら教師として後進の指導に忙しいが、昨年には長年に亘り音楽を通じ日米交流及び対日理解促進に果たした貢献を認められ、ボストンの日本総領事館で外務大臣の表彰を受ける栄誉に浴している。
第2部に出演した「十二音会」は、宮内庁式部職楽部の楽師(国家公務員)を中心に昭和52年秋に結成された雅楽演奏団体。宮中行事の枠を越え、一般に問いかけ、さらには新作にも挑戦、技術を高めるべく邁進しているという。「十二音会」の命名は、雅楽の音階が1オクターブの間に十二音あることに由来する。
いわば日本で最高の技量を持つ雅楽師の集まりである「十二音会」の演奏を1時間にわたって、また、間近に見て、聴くことができたのはまたとない体験となった。まず“世界最古のオーケストラ”を構成する“三管両絃三鼓”の8種の楽器について由来と役割、次いで奏法と演奏の披露があり、僕も含めて初心者が多い聴衆には格好の入門の手引きとなった。楽師のなかには若手と思しき奏者が多く見受けられ、これは団体の性格を考えると納得が行くのだが、後継者の不在を嘆く伝統芸や伝統技術が多いなか、随分頼もしく思えたものだった。
近年、とくに笙(しょう)は雅楽の世界を飛び出し洋楽のなかの独奏楽器として聴く機会も多く、なかには外国人の奏者も出現するなど活躍の場を世界に広げているが、雅楽のなかで聴く笙の音色は格別である。デジタルなテクノロジーのなかで生きざるを得ない現代人にとって、メトロノームでは追えない小節の間に間をおく独特のリズムを持つ非デジタルな雅楽に耳を傾けることは、リズム感のリセットになるのではないだろうか。ホールを出て銀座の喧騒に身を置いた時、街のリズムとの微妙なズレに新鮮な驚きを感じたのだった。

稲岡邦弥 Kenny Inaoka
兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。音楽プロデューサー。著書に『改訂増補版 ECMの真実』編著に『ECM catalog』(以上、河出書房新社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。 Jazz Tokyo編集長。

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