Live Report #866 |
戦後・日本のジャズは氷川丸から始まった |
---|
氷川丸 | 瀬川昌久と内田晃一 |
高山恵子 | 高山恵子と内田晃一 |
金谷船長 | 瀬川昌久と元少年兵 |
戦後70年(1945年8月15日正午の天皇による玉音放送を通じた日本の降伏報告を以って終戦とする)に際し、全国各地でさまざまなイベントが催されたが、横浜では氷川丸船上で音楽を中心とするきわめてユニークなイベントが行われた。これは、ニューギニアなど南方諸島に残留していた日本兵を帰還させる復員船として活躍していた氷川丸に衣糧主任として乗り込んでいた瀬川昌久さんが、疲労困憊する乗組員や看護婦の癒しのために企画した船上コンサートを再現したもの。ジャズが「敵性音楽」として演奏することはもちろん聴くことも禁止されていた不自由な戦時を知る91歳の現役ジャズ評論家瀬川さんにとって、これは単なる回顧のための企画ではなく、「自由に音楽を聴ける社会の尊さを訴える」ための手段であった。
ヴィブラフォンのエレガントなイントロで始まった楽団南十字星の<スターダスト>。ヴァイブ奏者はなんと内田晃一。当時ジャズ・ヴァイブ奏者として一斉を風靡したライオネル・ハンプトンに倣って “内田ハンプトン”として愛されてきた内田晃一は御年88歳、月刊ジャズ専門紙「Jazz World」の編集長としても知られるが、時に2本から4本に持ち替え見事なマレットさばきを見せる。70年前に瀬川さんはが船上コンサートに招聘したオリジナル「楽団南十字星」から正式に楽団名の継承を受け継いだという。続く<南国の夜>からヴォーカルとして参加した高山恵子は内田の姪。大橋節夫とハニーアイランダースの甘美なハワイアンとして耳に馴染んだ<南国の夜>が、ラテン調の情熱的な高山のヴァージョンに驚いたが、オリジナルはラテン楽曲という解説を聞き浅学を恥じた次第。当日演奏された<黒い瞳>や<ジェラシー><ラ・クンパルシータ>は、ジャズを禁止された戦時中に演奏されたタンゴ。当時の楽団南十字星はヴァイオリンやアコーディオンで編成されたタンゴ・バンドだったという。
瀬川さんが語る復員船「氷川丸」の惨状は耳を覆いたくなる酷さ。酔いに任せて戦地の状況を語り伝えてくれた父親だったが、シベリアに抑留されていた叔父は一切語ることなく逝ってしまった。それは語ることはおろか思い出すことさえ苦痛な過酷な日々だったようだ。しかし、「語る」ことで戦争の悲惨さを後世に伝えることが大切なのもまた事実なのだ。学徒動員でとして氷川丸に乗り組んだ元・少年兵の証言によれば(客席にいたが瀬川さんの招きで前に出て思い出を語り出した)、復員兵は甲板にまであふれ、マラリアなどで航海中に亡くなる傷病兵も多く、彼らは“おんぼー焼き”(on board 焼きと思われる)と言われる船上火葬に付されたという。客席には各地から参集した元・乗組員や家族らも多く、言葉少なだが胸に迫る証言を披露した。
<蘇州夜曲>は、現在でもカバーが続く服部良一の名曲(西条八十作詞)。ジャズでは秋吉敏子が『ザ・トシコ・トリオ』(Storyville)の演奏がある。戦争前夜にヒットし、戦地でも兵士に広く愛唱されたという。<センチメンタル・ジャーニー>は瀬川さんにとっても忘れられない1曲で、復員活動を監視するMP(Military Police=憲兵)の携帯ラジオから頻繁に流れ、憧れの洋楽だったという。まさに終戦の年にドリス・デイの歌で全米で大ヒット、FEN(Far East Network=駐留軍放送/極東放送)でもヘヴィ・ローテーションだったようだ。
瀬川さんのたっての希望で楽団南十字星もレパートリーに加えてくれたという。
<ホワイト・クリスマス>もFENでよく流れた当時のビング・クロスビーのヒット曲。いつまでも平和なクリスマスを楽しめる世の中であって欲しいと切に望みながら高山のヴォーカルに耳を傾けた。
この企画は、横浜のジャズ喫茶ちぐさが主催した瀬川昌久さんと柴田浩一さんの連続講義から派生したもので、実現にはジャズ喫茶ちぐさと吉田衛記念館の尽力に負うところが大きい。
* ビデオ・ドキュメンタリー
http://chigusa-records.jimdo.com
*関連リンク
http://www.jazztokyo.com/library/library082.html
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
:
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
:
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.