Live Report #868

カマシ・ワシントン
Kamasi Washington

2015.10.31 17:00 ブルーノート東京 Blue Note Tokyo
Text by Hideo Kanno 神野秀雄
Photo by Makoto Ebi 衣斐 誠

Kamasi Washington (sax)
Patrice Quinn (vo)
Ryan Porter (tb)
Brandon Coleman (key)
Miles Mosley (b)
Tony Austin (ds)
Ronald Bruner Jr. (ds)

1. Miss Understanding
2. Leroy and Lanisha
3. Giant Feelings
4. The Magnificent 7

5. Cherokee

圧倒的な迫力を持つ音に身を委ねる

最初の一音から圧倒される。最新盤『The Epic』から<Miss Understanding>。カマシ・ワシントンのテナーサックスとライアン・ポーターのトロンボーンによるゆったりとしたスピリチュアルなハーモニーと、ロナルド・ブルーナーJr.とトニー・オースティンの叩きまくるツインドラムが印象的なイントロ。この音の説得力はなんだろう。この一瞬に限っていえば、今年聴いたライブで最も心が震わされた瞬間だった。そしてインテンポでの熱いプレイに移行する。ブランドン・コールマンのキーボードとマイルス・モズレーのベースも素晴らしい。また、パトリス・クインのヴォーカルが2管に加わって、豊かな表現と、編曲上でも新しさを創り出していたことも重要なポイントだった。

カマシ・ワシントンは1981年生まれで、ロサンゼルスをベースに活躍。ハービー・ハンコック、ハーヴィー・メイソン、チャカ・カーン、ケンドリック・ラマー、フライング・ロータス、スヌープらに重用され、最も注目を集めるサックスプレーヤーの一人だ。2015年5月に最新盤『The Epic』をフライング・ロータスが主催するブレインフィーダーレーベルからリリースし、3枚組170分、約60人のミュージシャンが参加する壮大なプロジェクトになっている。
その音はジョン・コルトレーンには多大な影響を受けていると思われ、そのスピリチュアルな側面をより拡張させ、もちろんテクニカルな技も持ちながらもそれは全面に押し出さず、最新のサックスプレーヤーらしいイディオムも控えめに適所に魅せて、かえってきらりと光る。
ただ、カマシのサックスとグループのとてつもない説得力と、巧みな作編曲に裏打ちされつつ、ブラックミュージックからクラシックまでの音楽の歴史を正統に巧みに取りいれて安定したサウンドと力強いグルーヴで心に響かせる一方で、根源的なところで、これまでに想像もできかった物凄く新しい斬新なサウンドを提示するのではないように感じた。それが1セット通して聴いて、最初の一音の強過ぎるインパクトに比べて、少しの物足りなさを感じさせることになった。いや、これはカマシ自身の凄さに対比しての話であり、それは望み過ぎる必要がないことかも知れない。満席の観客はグループのスピリチュアルで躍動感溢れる音に身を委ねて、圧倒的な興奮に包まれていた。
カマシのサックスとそのグループの説得力に満ちたスピリチュアルな音は一聴の価値がある、ぜひライブで体感されることをお勧めしたい。

【関連リンク】
Kamasi Washington Official Website
http://www.kamasiwashington.com
ブルーノート東京公演
http://www.bluenote.co.jp/jp/artists/kamasi-washington/


The Epic (Brainfeeder)

神野秀雄 Hideo Kanno
福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。東京JAZZ 2014で、マイク・スターン、ランディ・ブレッカーとの“共演”を果たしたらしい。

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