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Vol.56 | スティーヴ・レイシー        1975年6月 東京
text by Seiichi SUGITA

 ソプラノ・サックスといえば、ストレートなクラリネットのような形状のものがスタンダードであるが、なかなかこなすのが難しいときく。シドニー・ベシェにはあまりはまったことはないけれども、ジョン・コルトレーンの『マイ・フェイバリット・シングス』(Atlantic) には、すっかり取りつかれてしまった。あの衝撃に打ちのめされたソニー・ロリンズが『ネクスト・アルバム』(Milestone) で初めてソプラノ・サックスを吹くまで一体何年かかったのだろう?
 そのソプラノ・サックス1本に1950年頃から2004年に死去するまで、ずうっとこだわり続けて血肉化したのが、スティーヴ・レイシーである。レイシーの生と初めて出会ったのは、75年6月、東京である。クロスオーバー〜フュージョンなるものが、ジャズ・シーンを席巻し、“時代はさらに寒く”へと、まるで転がる石っころのように向かっていく。その閉塞情況は、未だ出口なしだと思われる。
 正直いって、ぼくは、レイシーの孤高のソプラノ・ソロが殆ど唯一の突破口だと実感する。
 レイシーは、34年ニューヨーク生まれ。“現代のシドニー・ベシェ”として、ディキシー・シーンで、名声を独り占めする。50年代中葉に入り、ボストンのシェリンガー音楽院(バークリーの前身です)に学び、モダン・ジャズに開眼。レスター・ヤングに多大な影響を受けたといわれている。
 ニューヨークに帰ったレイシーは、セシル・テイラー、ギル・エヴァンスと共演。60年代に入るや、セロニアス・モンク、ジミー・ジュフリー、ラズウェル・ラッドらと次々に共演。たちまちのうちに、オーネット・コールマンのフリーの方法を自らのものとしてしまう。“現代のシドニー・ベシェ”が、“ソプラノのオーネット・コールマン”と呼ばれるのに、ほんの10年ばかりしか必要としなかったわけ。
 63年、レイシーはヨーロッパに渡り、あの戦慄の名作『森と動物園』(GTA)をものにする。以来、根拠地=ホームを、ニューヨークからパリに移す。

 

 75年のジャズ、そのありどころを真摯に見すえる者は、ジャズが「個的なもの」から「個」へのベクトルが強靭に働きかけていることをいやというほど知り尽くしている。それはコンテンポラリーな時代意識そのものである。
 集団即興演奏という劇的なフリーの方法を積み重ねた後に、試行されるのは、個としてのインプロヴァイズド・ミュージックである。その大きなテーマは、ポスト・フリーであり、情況としては、ポスト・ヴェトナムととても奇妙に暗号する。
 どういうわけか、銀座<十字屋>で行われたスティーヴ・レイシーの記者会見__。「ヨーロッパには、アメリカにはないフリーの基盤がある」と、たんたんと言い切る。富樫雅彦(perc)と、吉沢元治(b)がシラ〜っと同席。同メンバーに、佐藤允彦(p)、池田芳夫(b)、翠川敬基(cel)らが加わり、日本コロムビアでレコーディング。
 未だにポスト・モダンの位相にすらない日本のジャズ・シーンにあって、ポスト・フリーなんて関係ねえよ、でしょうか?
 ところで、最近、カーブド・ソプラノと通称されるカワいい楽器を手にする日本のミュージシャンが増えている。カーブド〜は、柳沢楽器に在籍していた金剛進(ts)が発明、製作したすぐれもの。習得するのが、ものすごく楽なのだそう。ポスト・モダン〜ポスト・フリー〜、そしてポスト・コンテンポラリーには、最もふさわしい楽器であるかも知れない。
 それにしても、スティーヴ・レイシーを超えるソプラノ・サックス奏者は未だに現出していない。

* 杉田誠一氏の個展『JAZZ meets杉田誠一』が、「横濱ジャズ・プロムナード 2010」の<特別展示>として、10月9日(土)、10日(日)ランドマークホール・ホワイエで開催される。
入場は「プロムナード」のフリーパス(バッジ)購入者にのみ限られる。
キュレーターにJazzTokyoのアート・ディレクター大江旅人を迎え、新開発の特殊プリント用紙を使った特大のプリントも展示される。
なお、希望者には額装プリントも頒布の予定。

杉田誠一
杉田誠一:
1945年4月、新潟県新発田市生まれ。
1965年5月、月刊『ジャズ』、
1999年11月、『Out there』をそれぞれ創刊。
2006年12月、横浜市白楽に
cafe bar Bitches Brew for hipsters onlyを開く。
http://bbyokohama.exblog.jp/
著書に『ジャズ幻視行』『ジャズ&ジャズ』
『ぼくのジャズ感情旅行』。
http://www.k5.dion.ne.jp/~sugita/cafe&bar.html
及川公生のちょっといい音空間見つけた >>

♪ Live Information

9/18 Sat 岡 恵美(p) 仲石祐介(b)
19 Sun 小島伸子(vo) 金井英人(b) 田村 博(p)
JUNマシオ(MC,perc)
24 Fri 佐藤綾音(as)
25 Sat 金剛 進(ts) 林あけみ(p)
26 Sun ジャム・セッション:名取俊彦(p) 田富美咲(b)
29 Wed Soon Kim(as) 石井康二(b) 宇野光俊(el-b)
30 Thu 佐藤綾音(as)
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追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

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#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
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#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
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COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
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・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
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