音の見える風景
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Chapter 12.デイヴ・リーブマン
photo&text by 望月由美

撮影:1980年12月12日
杉並グリーン・スタジオにて



 デイヴ・リーブマンのロング・ソロを聴いているといつもジャズを聴いていてよかったな、という安らいだ気分になる。リーブは勤勉で貪欲で精力的なサックスの達人でとてもエネルギッシュな人だと思う。 しかし、ただバリバリと吹きまくるだけではなく、ジャズへの情熱、熱い思いがホーンから塊まりになって噴きだしてくるところに親しみを覚える。だから、リーブのロング・ブローは長さを感じさせず居心地の良い時間を与えてくれる。そして、どのような環境でも常にベストを目指してプレイするリーブのひたむきな態度にファンは共感をおぼえるのである。

 初めて、リーブを見たのは確か1973年、マイルス・デイヴィス2度目の来日公演を収録したヴィデオであった。少し足を引きずりながらステージの中央に進み出たリーブのソプラノ・サックスにコルトレーンの影を重ね合わせて見た記憶がある。丁度その頃、エルヴィン・ジョーンズの『Live at The Lighthouse』(Blue Note)がリリースされた。リーブとスティーヴ・グロスマンの2管で、エルヴィンのバースデイ・ライヴである。ここでの二人の豪快なサックスのバトルを聴きリーブは私にとって、とても身近な人となった。そしてECMから『ルックアウト・ファーム』が発表されてリーブは一躍注目の人となる。それから暫く経った1980年の12月、高瀬アキ(p)の『ミネルバの梟』(テイチク)のレコーディングに立ち合わせていただいたときに初めて目の当たりにリーブの凄さを知ったのである。当時、全員が30代前半というアキさん、井野(b)さん、日野(ds)トコちゃんに接するリーブはサックスからほとばしる激しい音とは違って物腰の柔らかい人懐こい紳士であった。

 マイルス、エルヴィンのグループを離れてからのリーブはほとんどビッグ・ネームのサイドマンになったという話は聞かない。自己の「デイヴ・リーブマン・グループ」、オーケストラ「DLBB(デイヴ・リーブマン・ビッグ・バンド)、ジョー・ロヴァーノ、ラヴィ・コルトレーン等との「サキソフォン・サミット」、リッチー・バイラークとの「クエスト」、「ルックアウト・ファーム」など、数多くのグループで活動している。そして、その他にヨーロッパでも沢山のグループを組織していて、ヨーロッパ・ツアーの際にはその時々に応じて使い分けているようで、「イタリアン・トリオ」、「ダッチ・トリオ」、ダニエル・ユメール等との「オールスター・インターナショナル・グループ」等々である。

 


そのなかでも、とりわけ強力なユニットがジャン・ポール・セリア(b)、ヴォルフガング・レイジンガー(ds)との「ワールド・ヴュー・トリオ」で、アルバム『ゴースツ』(Night Bird Music)で三者のインター・プレイが息詰まるようなテンションを生み出していて10年経った今聴いても新鮮である、是非日本に来て貰いたいグループである。

 それにしてもリーブの活動はなんとも精力的である。グループが沢山あることも手伝ってか、リーブは多作家であり、リーブのディスコグラフィーはおそらく100枚を超えるのではないかと思われる。特にここ数年はあとからあとから絶え間なく新譜がリリースされる。ここ数ヶ月の間に『Lieb Plays A La Trane』(Daybreak)、『Quest』(Out Note)、DLBBの『As Always』(Mama Records)など5タイトルを矢継ぎ早やに発表してファンの方のフォローが大変な程の新作ラッシュである。
 また、リーブは演奏活動のかたわら、サキソフォンの教則本、DVDなども出していて、サックスの指導にも力を入れている。サキソフォンを極め、更にその上のステージを目指しながらも自ら体得した技法を広く公開し指導するリーブに、人生の全てを音楽と向き合う真摯な姿をみる。嘗てマイルスにビル・エヴァンス(sax)を推薦したことは良く知られている話である。

 デイヴ・リーブマンは今年の1月12日、2011年度のNEA(National Endowment for the Arts)のジャズ・マスターズ賞を受賞し名実共にジャズ・マスターとなった。1946年9月、ニューヨークのブルックリン生まれだから現在64歳になる。60年代の初め「バードランド」や「ヴィレッジ・ヴァンガード」でジョン・コルトレーンを聴いてジャズの道に進みポスト・コルトレーンと云われて久しいがリーブの創作意欲はますます旺盛で、今まで以上に求心力を発揮して新しい道を切り開く。正にリーブの真の栄光はこれから始まるのだ。


望月由美

望月由美:FM番組の企画・構成・DJと並行し1988年までスイングジャーナル誌、ジャズ・ワールド誌などにレギュラー執筆。 フォトグラファー、音楽プロデューサー。自己のレーベル「Yumi's Alley」主宰。『渋谷 毅/エッセンシャル・エリントン』でSJ誌のジャズ・ディスク大賞<日本ジャズ賞>受賞。

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追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

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#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
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#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


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