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Vol.57 | デューク・エリントン    ナッソー・コロシアムNY  1972年
text by Seiichi SUGITA

 すべてがジャズというわけではないけれども、LPがおよそ1万枚ぐらいはある。そろそろ“死ぬ作法”の一環(?)として、整理を始める。本や雑誌以上になかなか遅々として進まない。どうしても、1枚1枚がそれぞれ捨て難く、つい聴き込んでしまう。
 最近よく聴くようになったのが、チャーリー・ミンガスの2枚組『アット・モンタレー』である。収録は64年9月20日。このアルバムは、ミンガスの自費出版アルバム、ミンガス・レコードの1と2にあたる。ミンガスは死ぬまで自己に忠実、自己を偽らない生きようを貫いたため、しばしばレコード会社とトラブルを起こしてきた。で、結果、どのレコード会社も、ミンガスのレコーディングを敬遠するようになってしまう。ならばってわけで生まれたのがこのミンガス・レコードというわけ。
 何度聴いても、デューク・エリントン・メドレーには圧倒される。ミンガスは、これでもか、これでもか、とぼくを徹底的に鼓舞してくる。こんなに優しくも、タフに挑発してくるミンガスをほかに知らない。「私の楽器は、ピアノではなく、オーケストラです」といったのは、デューク自身。
 ならば、ミンガスの「楽器」は、ベースではない。チャールズ・マクファーソン(as)、ジョン・ハンディ(ts)、ジャッキー・バイアード(p)、ダニー・リッチモンド(ds)という5、6人のユニット=ワークショップが中軸である。壮大ですらあるオーケストラの世界を、コンボで軽々とやってしまうのだ。その強烈さと、センチメントがたまらない。
 デューク・エリントン・オーケストラのアルバムを何枚も聴くよりも、『アット・モンタレー』を聴いた方が、デュークの偉大さがよく判るのではないだろうか?
 デュークが生まれたのは、1899年4月29日、ワシントン。本名は、エドワード・ケネディ・エリントン。何故、「公爵」(デューク)と呼ばれるようになったかというと、父がホワイト・ハウスの執事であったから。お品がよろしい。
死去したのは1974年5月24日、ニューヨーク。死因はガン。長年行動を共にしてきたビリー・ストレイホーンもジョニー・ホッジスも、ポール・ゴンザルベスも、すでに死去している。
 ぼくが初めてデュークの生と出会ったのは、70年、東京サンケイホール。そして、最後に出会ったのは、72年、ニューヨーク郊外ナッソー・コロシアムである。マンハッタン・トランスファー(乗換駅)で列車に乗り、コロシアムに向かう。
 大好きなボーカル・グループ<マンハッタン・トランスファー>って、どうして名付けられたかご存知ですか?
マンハッタン・トランスファーは、まあ東京駅、いや上野駅だと考えたらいい。大都会で成功を夢見て田舎からみんな上京してくるのだけれども、夢破れて田舎へ帰って人もいっぱいいる。リーダーは、「成功の甘き香り」を手中に収めることが出来なかったが、帰る気になれず、イエロー・キャブ(タクシー)のドライバーに。いつも流すのは、ブロードウェイ、ターゲットをスーツケースを持ったマン・トラ行きの客にしぼる。「もう一回、やり直してみなか?」。こうして生まれたのが“マン・トラ”なのです。うん、マン・トラのデューク・エリントンもおススメです。

 

 マン・トラが凄いのは、インストに詞をつけて唄っちゃうこと。それも各パートに分けて、ハモっちゃう。<ウェザー・リポート>だって、チック・コリアの<リターン・トゥ・フォーエバー>だってやってのける。
 で、ナッソー.コロシアムは、5万人が入れる野外の球技場。#&bや、ニューハードが後楽園球場に出演なんて考えられませんよね。
 デュークの前座はといえば、アレサ・フランクリン。まあ、ヒノテルとは格が違います。アレサは、“ソウル・レディ”と呼ばれている。“レディ”と言えば、“レディ・デイ”こと、ビリー・ホリデイが想い起こされるけれども、アレサは、レディ・デイ以来最高のボーカリストとしてコロムビアからデビューしている。偉大な牧師(お説教のLPが大ロング・セラーを続けたほど)が父であり、少女時代から、ゴスペルとかかわってきている。デュークの前座に、まさにふさわしい存在ではある。
 アレサ・フランクリンは、夕刻のまだ明るい時刻にスタート。ちょうど、暗転の時刻に、いよいよデュークの登場。ぼくが初めて大手町サンケイ・ホールで出会ったデュークはといえば、チェックのラフなジャケットだったけれども、ビシッとタキシードでキメている。「大統領よりも多忙」といわれているデュークの、まさに真骨頂です。
 よく知られているように、デュークは、ニクソン大統領よりホワイト・ハウスの晩餐会に呼ばれている。69年、デュークが70歳をむかえたときのことです。
 デュークのことを書けば書くほど、その偉大さから遠のいていくような気がする。パーカッショニスト、ストム・ヤマシタを紹介してくれたのは、チェリストの岩崎あきらである。バークリーに入学したら、翌日から教えてくれといわれ、アホくさくなってやめたという。そのストム・ヤマシタが紹介してくれたのが武満徹__。眼光鋭く、頭がどでかくて、火星人じゃないかと思った位(失礼!!)。1970年秋、東京文化会館ホール楽屋。「武満です。ジャズの方ですか?」
__はい。
「ジャズは、私が最も影響を受けた音楽です。なかでも、デューク・エリントンは素晴らしい」
__はい。
「そう思いませんか?」
__はい。
 あの『ノベンバー・ステップス』の武満徹が、いま眼の前でしゃべっているのです。
 ぼくは、「沈黙と測りあえる」言葉として、武満を位置付ける。
 ぼくは、「沈黙と測りあえる」音楽として、デュークを位置付ける。
 久しぶりに、『ノベンバー・ステップス』を聴いてみよう。これじゃ、まだまだ死ねませんな。

杉田誠一
杉田誠一:
1945年4月、新潟県新発田市生まれ。
1965年5月、月刊『ジャズ』、
1999年11月、『Out there』をそれぞれ創刊。
2006年12月、横浜市白楽に
cafe bar Bitches Brew for hipsters onlyを開く。
http://bbyokohama.exblog.jp/
著書に『ジャズ幻視行』『ジャズ&ジャズ』
『ぼくのジャズ感情旅行』。
http://www.k5.dion.ne.jp/~sugita/cafe&bar.html
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♪ Live Information

10/01 Fri 飯島瑠衣(p)
09 Sat 昼/佐藤綾音(as)
夜/小島伸子(vo) 岡恵美(p) 仲石祐介(b)
10 Sun 昼/佐藤綾音(as)
夜/平山順子(as) 佐藤えりか(b)
17 Sun “ピンク・ワーゲン”
サニー(vo) &カイキ(tb) 福本純也(p) JUNマシオ(MC,perc,vo,笛)
22 Fri 佐藤綾音(as)
23 Sat 望月 孝(vo.g.perc)
29 Fri 佐藤綾音(as)
30 Sat 飯島瑠衣(p)
31 Sun ジャムセッション:
名取俊彦(p,g)
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追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
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#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
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