Vol11
オーストラリア初心 2:オーストラリアの真友




ちょうど、オセアニアン・マフィア、そうそう・・・一番前に座っている三人組の白いスーツを着た碇肩の・・・何をやっても反応がない。
正統派イングランド・イングリッシュも通じない・・・。
色々楽曲を用意したけど、そんな事はもう問題ではないと・・・。
持っているものを出すしかない。相方(ギタリスト、マサ大家)を横目で見ると真っ青である。
私は、腹をくくった。勿論ステージに出る以上、最初から腹をくくっているのは当たり前のこと。違う覚悟を決めた。

MCも日本語。歌も日本語。言葉が通じる通じないなんてももはや関係ない。 そして、日本語のブルーズを歌いまくった。「もしもあんたが女に振られたら・・・」
ステージ構成や考えた選曲も無視して、持っているものをありったけ、力の限り、日本人の誇りを込めてさらけ出した。
そしてとうとうアカペラで<竹田の子守唄>を二人でハモリを入れて歌った。勿論予定外である。なんと4番まで歌えてしまった。意外と歌詞は覚えているものである。偶然とは思えない。

インストメンタルのギターデュオが、アカペラでハモルなんてあり得ない。・・・・・
と、オセアニアン・マフィアたちの目の色がかわった・・・。これは、あとで聞いたことだが、われわれがステージに命がけだということが伝わったのだ。 
マフィアの態度が180度変わって拍手喝采である。こうなると彼らの後ろにいるオーディエンスは右に倣えである。もともと反応したかった人たちがやんやの喝采である。
バルが興奮の坩堝と化した。やれどもやれども収まらない。実に気持ちがいい。

何度アンコールをやったかもう記憶にすらない。

そして、終演後の打ち上げ、その前にみんなでわいわい話す。例の三人組オセアニアン・マフィア、じつは、ミュージッシャンだった・・・。
しかも、二人はギタリスト。だから我々は当然のごとくギター談義。今日のこのフレーズはとか、フレットがどうの・・・コードチェンジがどうのと・・・。
そして、彼らが私のギターを手にして弾き始めた。もちろん私は大喜びで見ていた。うまい。とくに右手が凄い。まるでスパニッシュのギタリストだ。クラシカルなトレモロも凄い・・・。セッションを始めようかという瞬間、フランス人の店のオーナーママが、「もう音を出さないで・・・」。しかし、我々の乗りは止まらない・・・。セッションを始めた。すると今度はかなり大きな声でママが、「やめろ!」と言っている。

そんなことはお構いなしで、演奏を続けているとどうなったと思います・・・?
な、なんと、ママが店の電源を抜いた!PAが使えないので、音は出なくなるが、それよりなりより、真っ暗である。これには、さすがに驚いた。おまけに、ママは真っ暗な中で、フランス語でなにやら叫んでいる。

どうしてこんなことになるのだろう。

フランス人のママに差別意識があったのだ。三人組はアポリジニのミュージシャンで、ママに差別されていた。もともと、彼らはこのバルで演奏したかった。そして以前に何度も頼んだが、ママが断っていた。彼らは業を煮やしていたのだ。自分たちが出演できない場所にどうして日本人のミュージッシャンが出られるのか。悔しさをこめて、最初は、「お手並み拝見」を決め込んでいたのである。

そんな状況やママの意味のない差別意識とは関係なく、彼らは、実に素朴でまっすぐで、素晴らしい人たちだ。
大陸文化の深遠を見た気がした。
彼らとは、本当に深い絆ができた。
そのバルでは3日間演奏したが、毎日来てくれた。たくさんの友達を連れて。実に温かく、心優しい人々だ。
私のオーストラリアでの最初の真友だ。

今もその絆は、耐えることなく続いている。
I Love オーストラリア!



高谷秀司(たかたに・ひでし)
1956年、大坂生まれ。音楽家、ギタリスト。幅広いジャンルで活躍。人間国宝・山本邦山師らとのユニット「大吟醸」、ギター・デュオ「G2us」でコンサート、CDリリース。最新作は童謡をテーマにしたCD『ふるさと』。2010年6月から約1ヶ月間、オーストラリアから招かれ楽旅した。
www.takatani.com

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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


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