２５年前の１９８６年にエフゲニー・キーシンが初来日した。１５歳だった。上着なしの長袖の白シャツで演奏を行った。細い華奢な身体つきがとても印象に残っている。そして２０１１年の今年は来日２５周年の記念の年を迎えた。４０歳である。今や世界が注目する気鋭のピアニストである。日本で迎えた記念すべきバースデー・コンサートとパーティにご両親が駆け付けた。
　会見では面白い話を披露してくれた。アメリカのワシントンに滞在していた時、ホテルに中国人親子が訪ねて来た。こどもは６〜７歳か８〜９歳くらいだった。持ってきたDVDを見てくれと言う。そこにはベートーヴェンの曲やショパンの２４の練習曲などを弾く男の子が映っていた。自分だったらとても出来なかっただろう。ホテルの宴会場での録画であった。母親と１時間半ほど電話で話をした。ピアノの才能はあるが、いまは普通の生活・普通の勉強をした方がいい、と伝えたが、なかなか理解して貰えなかった。ほかの人は一日でも早くデビューさせた方がいいと言っている、と言う。８年前のことである。しかしその子がコンサートをやっているとは聞いていない。
　キーシンは自分の場合は、親も先生もとても音楽に進む道を大事に導いてくれた。それに加えてキャリアを積むに連れて素晴らしい人たちに恵まれた。音楽も人生もバランスをとることが大切である、と。
　また今回２２年ぶりに日本ではコンチェルトを弾く。指揮は敬愛するアシュケナージである。相変わらず多くの花束が客席から送られた。