Vol.11 | ジェームズ・カーター@メールス・ジャズ祭1992
James Carter @Moers Festival 1992
(c) 横井一江 Kazue YOKOI

 6月に入ったとはいえ冷える夜だったと思う。
 1990年のメールス・ジャズ祭3日目最後のステージは、名も知らぬ若いサックス奏者のトリオだった。弱冠21歳のジェームズ・カーターがローカル・シーンから世界の舞台に登場したのである。共演者はベースのジャリブ・シャヒド、ドラムスのタニ・タヴァル。その年はデトロイトの特集ということで、マーカス・ベルグレーヴやケン・コックスらベテラン勢によるバンドも出演していたが、最も強い印象を残したのがまだ若いジェームズ・カーターだったのである。なにしろ、夜も更けてしんしんと足下から冷えてくるにもかかわらず、演奏はひたすら熱く、そのブロウは終わることなく、果てしなく吹きまくったのである。時代が逆流して、コルトレーンの『アセンション』の向こう側へ行けるのはこの若者かもしれないとさえ思ったのだ。これはハズレたが、そのくらい一心不乱に吹いていたのである。
 その後、たまたま会ったドン・モイエにジェームズ・カーターのことを話したら、あっさりといいミュージシャンだという答え。まもなくレスター・ボウイ・ニューヨーク・オルガン・アンサンブルに引き抜かれたのだから、その存在はミュージシャンの間では既に知られていたのだろう。再びジェームズ・カーターを観たのもメールス・ジャズ祭だった。1992年、レスター・ボウイ・ニューヨーク・オルガン・アンサンブルでの出演。2年の間にひとまわり大きくなったような気がした。彼のトリオで出た時のように吹きまくることはなかったが、それでもCDとは違ってソロも長く、その片鱗を見せていたのだ。彼のソロをフィーチャーした<エンジェル・アイズ>でも、天使の瞳をもつ彼女へのやるせなさをそのメロディで唄いあげるものの、このブロウならば彼女がたじろくか男気に惚れ直すかどちらかだろうな、などと思ってしまったのである。

 

 あの頃、デヴィッド・マレイをはじめとする多くの先輩ミュージシャンがジェームズ・カーターに期待を寄せた。しかし、彼がジャズ・シーンそのものを牽引していくには、時代と状況が変わりすぎていたのだろうか。もう既に約20年経った。もちろん、ひとりの存在感のあるミュージシャン、とりわけバリトン・サックスにおいては名手であることは確かであり、きっちりと足跡は残しているのだが…。
 ジェームズ・カーターのメールスでのデビューを思い出したのは、実は古谷暢康のアルバム『シュトゥンデ・ヌル』を聴いた時なのである。タイプは違うものの久々に「これは」と思わせるマルチ・リード奏者の登場に、期待感と共に20年前の記憶が甦ったのだ。

註: ジェームズ・カーターのデビューCDの解説には、メールス・ジャズ祭に出演したのは1991年とあるが、これは間違いで1990年が正しい。

横井一江:北海道帯広市生まれ。The Jazz Journalist Association会員。音楽専門誌等に執筆、 写真を提供。海外レポート、ヨーロッパの重鎮達の多くをはじめ、若手までインタビューを数多く手がける。 フェリス女子学院大学音楽学部非常勤講師「音楽情報論」(2002年〜2004年)。趣味は料理。

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