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Vol.59 | ハービー・ハンコック     1974年  東京
text by Seiichi SUGITA

 どういうわけか厚木(神奈川県)には、日産の研究所とNTTの研究所がある。興味深いことに、前者の所長は、知る人ぞ知るジャズ・ベーシストである。こんもりとした森の奥にある研究所最上階でお目にかかった所長は、仕立ての良いスーツとヒゲがすこぶるカッコいい。テーマはカー・オーディオ。日産のカー・オーディオは、すべてBOSEなのです。
 BOSEは、マサチューセッツ工科大学の、アマージ・ボーズ教授の研究室から生まれた。それまでのオーディオは、直接音だけが重要視されてきたのだけれども、BOSEは、間接音を中心に開発された。だから、BOSEのスピーカー・ユニットは、前面だけではなく、後方にもスピーカーが埋め込まれている。BOSE究極のカー・オーディオは、カブリオレである。すぐれたオープン・カーは、時速80マイル以上で走行すれば、雨の日でもぬれずにドライヴを楽しめる。その空間をBOSEは、最適な音響空間にしてしまう。
 ほぼ同じエリアにNTTの研究所がある。何故NTTの研究所に興味を持ったかというと、すこぶる興味深い研究をしているからである。そのプロジェクトは、全員ジャズの熱烈な愛好家である。何と、誰もがハービー・ハンコック(p)になれるというソフトを開発しているのである。名付けて“ハービー君”。
 簡単にいうと、そのソフトさえあれば、誰でもハービーのような作曲が出来ちゃうのである。つまり、“マイルス君”だって、“ソニー君”だって、“チャーリー君”だって、“セロニアス君”だって、いくらでも可能なのです。そんな時代に生きのびられるミュージシャンの生演奏をぜひとも聴いてみたいものだ。いつまでもスタンダードをサラってる場合じゃないぜ。サラうとは、「おさらい」という意味です。念のため。
 で、ぼくが初めてハービーと言葉を交わしたのは1974年、新宿・厚生年金ホールの楽屋である。
「NANMYOH HOHRENGEKYOH〜〜NANMYOH HOHRENGEKYOH~~」
 メンバー全員でお題目を唱和している。それが見事にハモっていて、とっても楽しそう。いわゆる抹香臭さは微塵もないのです。
__ハーイ、ハービー!貴方は、創価学会員なのですか?
「いや、僕は日蓮正宗です。NSA(日蓮正宗・オブ・アメリカ)」
 現在、日蓮正宗は、創価学会と袂(たもと)を分かっており、ハービーは創価学会員である。ぼくの知る限り、ウェイン・ショーター(ts)、ラリー・コリエル(g)、リチャード・デイヴィス(b)も創価学会員。

 

__日蓮正宗に入ったきっかけは? 「バスター・ウィリアムズ(b)と一緒にセッションしたとき、今まで一度も経験したことのないハッピーな気持で一杯になったのです。それで、何故なんだろうって聞いたところ、日蓮正宗のおかげだというのです。私は、即、入信しました」
__お題目は、いつも唱えているのですか?
「(笑)あたりまえだよ。お題目を唱えていると、次々にイマジネーションが泉のように溢れ出て来て、いい音楽が生まれてくるのです」
__入信したのは何年ですか?
「1972年です」
__「ヘッド・ハンターズ」を結成するにあたって、参考というか、意識された音楽はあるのですか?
「そうですね...。スライ・ストーンとジェイムズ・ブラウンです」
__楽しくなければ、音楽じゃない!?
「ヤー、その通り。だから、ドラマー(ハーヴィー・メイスン)とベース(ポール・ジャクソン)は、ソウルのミュージシャンにしたのです」
__「ヘッド・ハンターズ」はジャズですか?
「そうですね...日本ではジャズとしてとらえられてるのかなあ...。むしろ、アフリカ音楽やポピュラー音楽の要素の方が強いと思います」  マイルス・デイヴィス(tp)の『ビッチェズ・ブリュー』(1969年/CBS)以来、ジャズは、大きく変わって行く。『ビッチェズ・ブリュー』は、ウェイン・ショーターを中軸として創り出された。1971年に結成された「ウェザー・リポート」もまた、ウェイン・ショーターが中軸である。奇妙なことに、日本では、宗教のことに触れたがらない。『ビッチェズ・ブリュー』も『ウェザー・リポート』もも、そして『ヘッド・ハンターズ』も、日蓮正宗〜創価学会の精神的支柱に支えられてはいるのです。
 参考までに、ほぼ同時代にジャズの流れを大きく変えた『リターン・トゥ・フォーエヴァー』(1972年/ECM)のチック・コリア(p)は、サイエントロジーの信者であり、『サハラ』のマッコイ・タイナー(p)はイスラム教である。ぼく自身はといえば「ヒプスター教」とでも言っておこうか。何れにしても死ぬまでヒプスターでいたいとは思っているのだ。
 『聖教新聞』(2010年9月4日)の1面全面には、「池田SGI会長、世界最高峰の音楽家と対話の『共演』とある。池田大作会長とハービー・ハンコックとウェイン・ショーターがにこやかに握手しているカラー写真が大きく掲載されている。そして、3面には、3者がにこやかに抱き合っているカラーの写真。見出しは「ジャズは人間と人間の真の触発」。
 今頃、NTTの研究所では、“杉田君”なんてソフトが開発されているのかしらね。

杉田誠一
杉田誠一:
1945年4月、新潟県新発田市生まれ。
1965年5月、月刊『ジャズ』、
1999年11月、『Out there』をそれぞれ創刊。
2006年12月、横浜市白楽に
cafe bar Bitches Brew for hipsters onlyを開く。
http://bbyokohama.exblog.jp/
著書に『ジャズ幻視行』『ジャズ&ジャズ』
『ぼくのジャズ感情旅行』。
http://www.k5.dion.ne.jp/~sugita/cafe&bar.html
及川公生のちょっといい音空間見つけた >>

♪ Live Information

10/31 Sun ジャムセッション:名取俊彦(p,g)
/30 Sat 飯島瑠衣(p)
11/04 Thu 佐藤綾音(as) 楠真紀子(p) 落合康介(b)
/05 Fri 中牟礼貞則(g) 秋山一将(g)
/06 Sat 沖 至(tp) 白石かずこ(詩)
/12 Fri 佐藤綾音(as) 中尾剛也(g) コダカ・トシユキ(b)
/13 Sat “モチ・ラボ” 望月孝(perc, g, vo) 他
/15 Mon 林栄一(as) 永井隆雄(p) 高梨路生(b) 黒崎隆(ds)
/19 Fri 佐藤綾音(as) 角脇真(p) 永見寿久(b)
/20 Sat 金剛進(ts) 林あけみ(p)
/23 Tue “JUNマシオとイエロー・ジャズ・プロジェクト“
渡辺ミキ(vo) JUNマシオ(MC,perc,笛,vo) 他
/26 Mon ステーシア(p,vo)
/27 Sat レイジー・リタ(vo) 佐藤綾音(as) 楠真紀子(p)
/30 Tue 平山順子(as) 佐藤えりか(b)
12/03 Fri 佐藤綾音(as) 楠真紀子(p) 落合康介(b)
/06 Sat 秋山一将(g) 清水絵里子(p)
/11 Sat “ピンク・ワーゲン”サニー(vo) カイキ(tb) 佐藤綾音(as)
楠真紀子(p) 落合康介(b) JUNマシオ(MC, perc)
/12 Sun “JUNマシオ&イエロー・ジャズ・プロジェクト“
/17 Fri 佐藤綾音(as) 角脇真(p) 林航太朗(b)
/23 Thu 佐藤綾音(as) 飯島るい(p) 落合康介(b)
/24 Fri ステーシア(p,vo)
/25 Sat 金井英人(b)
/30 Thu 平山順子(as) 佐藤えりか(b)
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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


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