ノルウェーの音楽というのは日本でどのくらい知られているのだろう。
オスロで暮らすようになって2年と少しが過ぎたが、その土地で暮らしてようやく知ることになったことの方が多いような気がする。音楽にしても日本で知ることのできる情報はほんの一部分である。近年多いノルウェー人ミュージシャンの来日でノルウェーの音楽は日本でも少しずつ浸透しているのだろうが、それでもごく一部しか知られていない。イチゴのショートケーキに例えるならば、手に取ることができるのは一番上に乗っているイチゴの部分だけだ。実際食べてみないとスポンジがどれだけきめ細やかにつくられていて、いかにおいしいのか知ることはできない。どこかに旅に出ておいしいご飯を食べたければ地元の人に聞くのが一番とよく言うけれど音楽についてもそうだ。そこで暮らす人にしか知り得ないものがある。どうしてこんなにケーキやご飯の話をしているのかというと、私は今カフェにいて斜め向かいのおばあさんがあまりにもおいしそうなケーキを食べているからだ。
さて、前置きが長くなったが、日本ではまだあまり知られていないであろうノルウェーの素晴らしい音楽家たちを紹介したい。しかも、私の親しくしてもらっている友人たちの音楽を。彼らがこの秋、リリースするCDを通して。
『Mopti/Logic』
Jazzland records
Harald Lassen(テナー/ソプラノサックス)
Kristoffer Eikrem(トランペット)
Aleksander Sjolie (ギター)
Christian Meaas Svendsen(コントラバス)
Andreas Wildhagen(ドラムス)
ノルウェーで2年に1度開催される若手ジャズミュージシャンのためのコンペティション『Jazz Intro 2013』での優勝バンド「Mopti」のデビュー・アルバム。Bugge Wesseltoft、 Sidsel Endresen、Atomic等ノルウェーを代表する素晴らしいミュージシャンのレコーディングを発表しているJazzland Recordsから2013年9月にリリースされた。
リリカルで伸びやかな音色を奏でるHarald Lassen(テナーサックス)とKristoffer Eikrem(トランペット)の知的なサウンドが、Christian Meaas Svendsen(コントラバス) とAndreas Wildhagen(ドラムス)の強力で柔軟なリズム・セクションに混じり合い、そこにAleksander Sjolie (Gitar) が豊かな色彩をつける。60年代、70年代のジャズやコンテンポラリーロックに影響を受けて作られたという曲たちは、彼らのバックグラウンドであるスカンディナビアの即興演奏におけるアプローチが融合し新しいサウンドを生み出している。
Moptiはノルウェー国立音楽大学2012年の卒業生5人によるバンド。2008年の入学当初から、たまたま同級生として出会った異なるバックグラウンドを持つ5人が始めた。トラッドジャズ、モダンジャズ、ポップ、フリーインプロなどメンバーそれぞれが異なる分野を得意とする彼らが奏でる音楽は今までに聞いたことのない新しいサウンドであり、それと同時に様々な音楽の影響も感じられる。5年間続けてきたというバンドのサウンドは、お互いに対する強い信頼から生まれた安心感と、何かを探しもとめるスリルが交差し合う。
レコーディングは2013年の1月にOcean sound recordings studioで行われた。Moptiはこれまでノルウェー、イギリス各地でのコンサート・ツアーを成功させ、この秋にドイツでのコンサート・ツアーを予定している。ノルウェーのこれからのジャズを牽引していくであろう若手バンドのひとつだ。
http://www.mopti.no/
『Duplex/DUOLIA(CD)/Sketches of…(レコード盤)』
NORCD
Harald Lassen(テナー/ソプラノサックス)
Christian Meaas Svendsen(コントラバス)
ゲスト:Rob Waring (ヴィブラフォン)
MoptiのメンバーであるHarald Lassen(テナー、ソプラノサックス)とChristian Meaas Svendsen(コントラバス)によるデュオのデビュー・アルバム。9月にノルウェーのNORCDからCD盤とレコード盤が同時リリースされる。
大学2年生の時にそれまで幾度となく共演機会のあった2人が、2人だけで演奏したらどうなるのかというところから始めたこのデュオは、エネルギッシュなサウンドが印象的なMoptiとは対照的な叙情的、知的なサウンドが印象的。デュオという最小の編成により生み出されるスペースを決して埋め過ぎることなく穏やかな中に強いエネルギーが沸々と流れる。小さなニュアンスの変化によるサックスとコントラバスの豊かな音色は、それぞれの楽器の持つ可能性を楽しませてくれる。どちらが前に出るとも背景になるともなく、常に引きつけ合う2人の浮遊感溢れるサウンドは、デュオというフォームに新たなアプローチを見出そうという意志が感じられる。
CD『Duolia』は作曲されたものを中心としたもの、レコード盤『Sketches of…』はより即興演奏を中心とした異なるコンセプトを持つ内容となっている。CDにはゲストとしてヴィブラフォン奏者のRob Waringが加わっている。今回のレコーディングには収録されていないが、クラシック奏者や、シンガーなどと様々なコラボレーションも行い、作詞も手がける。デュオだからこそ広がる無限の可能性をこれからも楽しみにしたい。
『KNYST!/KNYST!』
Gaffer records
Kasper Varnes(アルトサックス)
Christian Meaas Svendsen(コントラバス)
Andreas Wildhagen(ドラム)
“Be quiet!”や“Listen!”という意味を持つノルウェー語
“KNYST!”は、ノルウェー国立大学の卒業生であるアルトサックスのKasper Varnes、コントラバスのChristian Meaas Svendsen、ドラムのAndreas Wildhagenの3人によるフリージャズをベースにしたトリオ。バンド名と同じ『KNYST!』をタイトルにした彼らのデビュー・アルバムが9月にフランスのGaffer Recordsから発売された。
メロディやコード進行などよりも、ラインやリズムパターンなどのアイディアをもとに作られた曲たちは、エネルギッシュでクレイジーな方法で演奏される。緊張感溢れるサウンドはバンド名の通り、聴くものを黙らせる。これまで、スウェーデン、フィンランド、デンマーク、ノルウェーなどスカンディナヴィア各地のツアーを成功させ、この秋にドイツ、フランス、オランダへのツアーを予定している。
www.knysttrio.no
『Andrea Kvintett/russian dream』
NORCD
Andrea Rydin Berge (ヴォーカル/オートハープ)
Harald Lassen(テナー、ソプラノサックス)
Svein Magnus Furu (テナー、バスサックス/クラリネット)
Kim Erik Pedersen (アルト、バリトンサックス)
Christian Meaas Svendsen(コントラバス)
ヴォーカル、3サックス、コントラバスというユニークな編成によるAndrea Kvintettの2枚目のアルバム。ファーストアルバム『Andrea kvintett』に続く今作が、9月にNORCDからリリースされた。全曲Andreaによる作詞作曲によるオリジナルポップソングで、ノルウェーのポップソングに多いメランコリーなものとはひと味違ったハッピーで陽気な世界観。アコースティック楽器のみで、コード楽器やドラムを含まないバンド編成が、ポップミュージックの新たなアプローチを提示している。メンバー全員で作り上げるというアレンジは、3サックスを生かしたパンチの効いたユニークな世界観を生み出している。弓奏法を多く用いたコントラバスのサウンドも楽しめる。
http://www.andrearydinberge.com/
『CHRISTIAN WINTHER & CHRISTIAN MEAAS SVENDSEN / “M/W”』
Vafongool Records 今年中発売予定
Christian Winther(アコースティック・ギター)とChristian Meaas Svendsen(コントラバス)の2人のインプロバイザーによるソロ・レコーディング2枚組。オランダのVafongool Recordsから今年中にリリースされる予定。
ノルウェー国立音楽大学で学んだ同じ名前を持つ2人によるこのアルバムでは、それぞれが伝統的な奏法とそれをさらに開拓した独自の奏法で演奏される。ギターとコントラバスの2つのアコースティック楽器が持つ無限の可能性を引き出している。ICH BIN N!NTENDO, Mopti, Mokey Plot, KNYST!, Karokh, Duplex, Mummu, Aksiom, Unbirdなど、互いが様々なグループで活躍する2人の異なるコンセプトをもった世界観が楽しめる。
http://www.vafongool.no/#!christan--christian/cqc7
http://www.christianmeaassvendsen.com/
http://www.christianwinther.no/
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
:
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
:
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
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