まっすぐで、少しの淀みもない音。
落ち葉が散りゆく10月のオスロで、77歳のCarla Bleyのピアノを初めて聴いた。彼女ほどシンプルな音を豊かに響かせてしまうピアノを聴いたのは初めてだったのかもしれない。
Carla BleyはSteve SwallowとAndy ShepardによるトリオのコンサートをオスロにあるジャズクラブNasjonal Jazzsceneで行った。開演前から満員のお客さんで会場が埋め尽くされた。
変な表現かもしれないが、ただ3人の気心知れた男女が部屋で温かいお茶を飲みながら会話しているのを見ているかのようなコンサートだった。
Carla BleyとSteve Swallowがシンプルなリズムを一緒に弾いているのがとても素敵で、長く連れ添った夫婦が息を合わせて一緒に歩いているような感じだった。
Steve Swallowは、素敵な紳士という感じで演奏が終わってステージから去るときも、共演者のCarla BleyやAndy Shepardのために仕切りのカーテンを開けてあげたりしていた。そういう優しさが演奏にもでていた。
私がいつもすごいなぁと思ってしまう音楽家は、いつでもその人である人。嘘や無理がなくて、ありのままの音を出す人。そういう人に出会うと、大切なことを思い出させてくれる。Carla Bleyは、まさにそういう人だった。
そういえば先日、大学の先生のMisha Alperinが久しぶりにピアノを弾いてくれた時にもその感覚を思い出した。彼は自分がどんなに小さく感じても“This is me.”と人に示せるように、そのままの自分でいなさいと話してくれたことがあったけれど、それは本当に大切なことだと思う。
私がCarla Bleyを初めて知ったのは、確かPaul Bleyが弾いていた"Ida Lupino"という曲だ。それ以来、彼女の作曲がとても好きでたくさん聴いた。
折れてしまいそうな細い身体で、凛とステージに立っていたCarla Bleyは長く生きた人生の重みみたいなものと、やんちゃな娘のようなお茶目さを兼ね備えていて、あんな風に年を重ねられたらなぁと憧れてしまう。
演奏後、深々と3人並んで固く手をつないで客席に向かってお辞儀をする姿は、彼らの音楽に対する深い感謝の気持ちの現れのように感じた。
最後にCarla Bleyのとてもかわいいホームページを紹介したい。次のページに行くとお部屋のようなデザインになっていて、"The Libraly"というところを開くと、彼女の曲の譜面も見ることもできる。こんなかわいい形で自分の作品をシェアしているなんて、なんて素敵なんだろう。
http://www.wattxtrawatt.com/
写真はオスロの王宮の近くの公園。一人で写真を撮っていると、ベビーカーを押した女の人が「きれいな景色だから、あなたも一緒に写しましょうか」と声をかけてくれた。私はこの街の人のそんなところが好きだ。
田中鮎美:
3歳から高校卒業までエレクトーンを学ぶ。エレクトーンコンクール優勝、海外でのコンサートなどに出演し世界各国の人々と音楽を通じて交流できる喜びを体感する。
その後、ピアノに転向。ジャズや即興音楽を学ぶうちに北欧の音楽に強く興味を持つようになり、2011年8月よりノルウェーのオスロにあるノルウェー国立音楽大学(Norwegian Academy of Music)のjazz improvisation科にて学ぶ。Misha Alperinに師事し、彼の深い音楽性に大きな影響を受ける。
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
:
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
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