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現代ジャズ・ピアノ愛好家のみなさん、こんにちは。

ジャレットのソロコン発売時に「レコード屋さんに走りなさい」と言ったのが油井正一さんだったとすれば。

このフランスのピアニスト、バティスト・トロティニョンBaptiste Trotignonのピアノ・トリオ@新宿ピットインに走りなさいと、おいらは2010年10月にここで書きたい。ジャレット、メルドー、そして・・・トロティニョン、かもしれない。

なんと、トリオ公演とソロ公演があります!
Baptiste Trotignon 来日公演

おれ、昨年東京丸の内で聴いてるんだよな。われらmusicircusの同朋アスキータちゃんがじつにいい記事 を書いていますね。

で、CDはこれ!

<track 093>
Suite Part III / Baptiste Trotignon from 『Suite...』 (Laborie) 2010

「マーク・ターナー、デイブ・ホランド、エンリコ・ラヴァ、が、このピアノに触手を伸ばしている!」

この50分に及ぶ組曲。メンツを見てくれ!
Baptiste Trotignon(p) Mark Turner(ts) Jeremy Pelt(tp) Matt Penman(b) Eric Harland(ds)
2009年7月7日、8日 Live at Charlie's Wright (London)

現代ジャズ・サックスの皇帝マーク・ターナー、ギター皇帝カート・ローゼンウィンケルの双生児、彼は才能を見抜いた共演歴(フェレンク・ネメス、ブノワ・デルベック、ヤコブ・ブロ、ディエゴ・バーバー・・・)にも要チェックなのであるが、そのマーク・ターナーを従えての堂々としたカルテットの演奏だ。

タイコのエリック・ハーランド、こないだはローゼンウィンケルのスタンダード・トリオ『リフレクションズ』でいい味を出していたが、ここでもピカイチな推進を見せている。トランペットのジェレミー・ペルト、吹きまくりのテンションで、これはジャズファン瞠目ものの才能だろう。

そんでもってトロティニョンは、来年、マーク・ターナー、デイブ・ホランドとのトリオで公演することもすでに決定しているのである。また、エンリコ・ラヴァからもオファーがかかっている(ECM盤『ニューヨーク・デイズ』!モチアン、グレナディア、ターナーだろ!)という。

おおっ!NHKで児山紀芳さんが9月26日で、このパート3を選曲されている!さすがいい耳してるな。


今年の中秋の名月、みんな、見た?おれは新宿ピットインに行く駅前で見上げていたよ。

月のまわりには。照らされた空間がある。

そこ、には。

死んだじいちゃんがちゃぶ台を囲んで一杯呑んでいた日とか、おれが2さいの長女をだっこして遊んだ夜とか、どこかの国で、とか、吊るされた首とか、飢餓で川辺で雑草喰って吐いて見上げた老人とか、やることなくて倦んだ独裁者とか、みんな居るのでないのか?太古の日本人がみんないる。

そういうのが公共性だろう。オペラ座でも歌舞伎座でも、中央にある演目に照らされて、集った人々は社交をしたり恋事をしたり飲食をしている、のであるから、月に似つかわしいのだ、芸術は。

この照らされた薄明の橙色は、奈良は東大寺の二月堂「お水取り」の「韃靼の行法」で炎に照らされる深夜の外陣にいる色彩でもあったか。

十三夜のお月様を環七通りを夜勤に向かうドライバーであるわたしもまた、見ていた。


<track 094>
聖フローリアンのブルックナー / 朝比奈隆:指揮、大阪フィルハーモニー交響楽団

ブルックナー交響曲第7番ホ長調(ハース版)
1975年10月12日、聖フローリアン教会
天皇陛下が朝比奈隆のコンサートに来ていて、陛下の拍手も止まらず、いつまでもおじぎをしていた朝比奈さんのエピソードを語ってくれた同僚からお借りしたCD。

えもいわれぬ残響に、うっとりとする。700人が入れるほどのホール。残響が7秒。録音はあまり良くないのに。金管がおそるおそるになるほど、弦楽器が豊かに響く。奇跡のエピソードを先に読んでしまった。でなければ気付かない。かすかに。かすかに、聴こえる。アダージョが終わったときに、フローリアンの鐘が鳴りはじめるのだ。

「十分な間合いを持たせて第2楽章の最後の和音が消えた時、左手の窓から見える鐘楼から鐘の音が1つ2つと4打。わたしはうつむいて待った。ともう1つの鐘楼からやや低い音で答えるように響く。静寂が広間を満たした。やがて鐘の余韻が白い雲の浮かぶ空に消えて行った時、私は静かに第3楽章への指揮棒を下ろした。」(朝比奈隆)



<track 095>
J.S.バッハ パルティータ全曲 Six Patitas / アンドラーシュ・シフ Andras Schiff (ECM New Series 2001/02) 2009

シフは無重力の暗闇の中、道なき道を透明な軌道を描いているようだ。

そのように言葉になったのは、音がそうであるからであり、CDのジャケもそうであるように感じられるからでもある。動かしがたいシンプルな制作である。

最初の一音から止まらない陶酔に身を委ねている。シフのピアノは、いつぞやのNHKの番組で見ているし、ECMでベートーベンのソナタ全曲録音したのも、ゴルトベルクも聴いたので、ありようはつかまえている。シフの軽やかさと速さ!・・・、と表現すると、軽やかさと速さという言葉をすり抜けてゆくシフの足音。あとは来年2月の紀尾井ホールでのライブを体験することにしている。シフは、シフだな。クラシックは、評価が苛酷だ。今年のポリーニが27000円、来年のシフが12000円、というチケットの値段に格付けがなされているようでもあり。

このシフのパルティータに驚くのは、曲順が5−3−1−2−4−6となっていることによる。主調が一音ずつ上がってゆくように配置されている、ということだ。おれにはそんなことはわからない。シフも好みの順番で聴いてほしいと記している。いくにんかのピアニストで聴いたことはあるけど、1番が最初に来ていないだけで、すべては異なる表情を見せるパルティータとなる。CD1の後半でさりげなく流れるような1番が、構築の通過点、とか、旅路の途中、とか、形容が凡庸なのでうまく言いえていないが、従来なら1番で聴取の体温をすっと上げてゆく季節にあるものが、すでに温まった聴取の体温にどこかしら酩酊させられるような妖しい響きの連なりとなるようだ。

シフはこの順番で録音をしたのではないだろうか・・・。と、クレジットを見ると、なんとライブ録音というから、この曲順で弾いたのだ。・・・なんだい、シフ、この順序は私個人の選択であり普遍的真理だと主張するつもりはない好みの順序でこれらの曲を聴いてほしい、なんてカッコつきすぎだぜ。1番の後半3曲(メヌエット2つとジーク)と2番へのリレーには手を入れなかったし、続いて聴かれるようにCD1に(5−3−1−2)と収録したのも適切だったと思う。

2007年9月21日 ノイマルクト(オーストリア)、ヒストリッシャー・ライトシュターデル(乗馬館)<ライブ録音>

ECMは、その場所でしか得られない残響、というものも、演奏の一部だと考えていると思う。


<track 096>
thursday / Liudas Mockunas & Ryoji Hojito from 『vacation music』 (NoBuisiness Records NBCD 19) 2010

宝示戸亮二×リューダス・モツクーナス、CD発売記念JAPANツアー、2010年9月21日(火) 新宿ピットイン、ライヴ・レポート参照

「ジャレットが70年代にだけ見せた片鱗、や、ブレイのインプロヴァイズのもうひとつの可能性、を、現在の宝示戸亮二は携えている。それも、彼の音楽の一部として。」


ポーニイーテエルー。いちばん綺麗なわたしを抱いたのはあなたでしょう。

トイレにはー、それはそれは綺麗な女神さまがー、いるんやてー。の、おばあちゃん、いやはや、顔を見せずにいいだけ遊んでみんなに公衆トイレと言われてる孫娘の顔を見たらあたしゃああの世に。

老いた肉親の最期を歌ったものとしては、あたしゃ、樋口了一さんの歌う「手紙〜親愛なる子供たちへ」が好きだよ。


<track 097>
手紙〜親愛なる子供たちへ / 樋口了一 2008

原作詞:不詳/訳詞:角 智織/補足詞:樋口了一/作曲:樋口了一/ストリングス・アレンジ:本田優一郎

原詩はポルトガル語の詠み人知らずの詩だそうだ。

上下するのどぼとけという点では、トワエモアの男性のほうを彷彿とさせる系列の歌い手であり、おいらは決して好きなほうじゃないのではあるけれども、やはり、この声でなければこの味は出ないものであった。

お風呂のくだりが、何度聴いても泣ける。

なぜだかわからないがちいさな子どもとお風呂にはいること以上の幸福感をわたしは知らない。

だけどさ。介護は大変なんだぜ。何年も義母の介護をした嫁さんのやつれた顔と葬儀での安らかな表情。ゼニのモンダイだって、そりゃキレイごとばかりじゃないって。特別養護老人ホームに働きに出たこともあったけど、あのガッと老人の口をあけさせてデカいスプーンで刺すように流動食を流し込むラップタイムは刻めなかったぜ。ほぼ呑み込みで気道に入って肺炎を引き起こして冷たくなって出所してゆく。新しい老人を受け入れるとまたホームの経営は安定する。そんなシステムが見えたら、やめるさ。苛酷な労働環境もある。

この曲。しあわせな年寄りだよ。いい気なもんだぜ、かな。

こんなふうに子どもに向かっておれは歌えないな。猫なんか、ぜったい飼い主に死ぬところは見せない。やはり猫はすばらしい。老いたらおれは猫と暮らすぞ。猫の名前は、マネリ、ドネダ、ターナー、モチアン、ウイリアムパーカー、アイヒャー、レイク、ガルバレク、リピダル、ビョルンスタ、シフ、ポリーニ、シェプキン、ゲキチ、アガタモリオ、ツルオカマサヨシ、ヤマセマミ・・・。


Niseko-Rossy Pi-Pikoe:1961年、北海道の炭鉱の町に生まれる。東京学芸大学数学科卒。元ECMファンクラブ会長。音楽誌『Out There』の編集に携わる。音楽サイトmusicircusを堀内宏公と主宰。音楽日記Niseko-Rossy Pi-Pikoe Review。

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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


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