Vol.15 | チャーリー・ヘイデン@メールス・ジャズ祭1992
Charlie Haden @ Moers Festival 1992
(c) 横井一江 Kazue YOKOI

 第30回にあたる2012年度のNEA(全米芸術基金)ジャズ・マスターズの受賞者が6月24日に発表された。ジャズ・マスターは存命の人物にのみ授与される生涯功労賞で、過去の受賞者には、第一回のサン・ラ、ディジー・ガレスピー、ロイ・エルドリッジに始まって錚々たる名前が並ぶ。日本人では穐吉敏子が2007年に受賞している。音楽家だけではなく評論家のナット・ヘントフ、プロデューサーのオリン・キープニュースやレコーディング・エンジニアのルディ・ヴァン・ゲルターにも与えられている。今回の受賞者はジャック・ディジョネット、ヴォン・フリーマン、チャーリー・ヘイデン、シーラ・ジョーダン、ジミー・オーエンスの5名。25,000ドルが授与され、2012年1月10日にジャズ・アット・リンカーン・センターで授賞式とコンサートが開催される。

 今回はそのひとり、チャーリー・ヘイデンの写真を。
 チャーリー・ヘイデンといえば、まず思い浮かぶのはオーネット・コールマン・カルテットでの演奏であり、カーラ・ブレイの協力を得て結成したリベレーション・ミュージック・オーケストラであり、ドン・チェリーなどとのオールド・アンド・ニュー・ドリームス、そしてカルテット・ウエストだった。
 だが、レコードではなくライヴで初めてヘイデン特有の深みのあるベースの音色を聴けた!と感じたのは、1992年のメールス・ジャズ祭にヘイデンがゴンザロ・ルバルカバとフリオ・バレットとのトリオで出演した時である。そのせいだろうか。キューバのピアニストということで当時話題の人だったルバルカバを横目にヘイデンばかり撮っていた。

 

 キューバに超絶テクニックを持つピアニストがいると、ルバルカバの存在が知られるようになったのは80年代の終盤である。その彼を世界に紹介したひとりがヘイデンなのだ。その出会いは1986年、ヘイデンがジャズ祭に出演するためにキューバを訪れ、並外れた才を持つルバルカバを知ったことによる。1989年のモントリオール・ジャズ祭ではヘイデン特集が組まれ、8つの異なったプロジェクトで演奏したが、そのひとつはルバルカバ、ポール・モチアンとのトリオだった。このトリオで1990年のモントルー・ジャズ祭にも出演し、注目を得るのである。
 考えてみれば、メールス・ジャズ祭でピアノ・トリオというフォーマットのステージを観たのはこの時だけだったように思う。ルバルカバは聞きしに勝るテクニシャンで、知性が先走るようなところもあったが、パッショネイトな感性と若さという特権そのものの持つ勢いが、私に彼をただならぬピアニストとして印象づけたことは間違いない。ステージ脇に到着したばかりのレスター・ボウイがやってきて、暫くのあいだ聴いていた姿がなぜか記憶に残っている。
 その後もずっとヘイデンとルバルカバは共演を重ねており、キューバの曲を取り上げたヘイデンのCD『ノクターン』では2002年にグラミー賞のベスト・ラテン・ジャズ・アルバム賞を受賞している。年月が織りなす綾なのか、ルバルカバもぐっと落ち着き、上手さにコクが出てきたようだ。

 ところで、チャーリー・ヘイデンのベースの魅力は叙情性と表現力に富んだ太くて暖かな音色、そしてウタゴゴロにあると思うのだが、それはアメリカの原風景とどこかで繋がっているのだろう。いつだったか『ミズーリの空高く』というパット・メセニーとのアコースティック・デュオ・アルバムを聴きながら、ジャケットに用いられた写真を眺めながらそう感じたのだ。そして、もし再びアメリカへ行く機会が万が一訪れたのなら、南部の夕暮れを見てみたいと思ったのである…。

横井一江:北海道帯広市生まれ。The Jazz Journalist Association会員。音楽専門誌等に執筆、 写真を提供。海外レポート、ヨーロッパの重鎮達の多くをはじめ、若手までインタビューを数多く手がける。 フェリス女子学院大学音楽学部非常勤講師「音楽情報論」(2002年〜2004年)。趣味は料理。

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FIVE by FIVE 注目の新譜


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追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
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#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
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