top_image

Vol.62 | ニューオーリンズ
text by Seiichi SUGITA

 フレンチ・クォーターを少し外に出ると、ニューオーリンズの日常がある。黒人居住区ではほとんど毎日、ソウル・フーズを食する。そして、港へ行けば、小規模ながら、フィッシャーマンズ・ワーフのようなところがあって、生のカキが何ダースも食べられるのです。
 ニューオーリンズで2本の映画を観る。1本は『夜の大捜査線』。シドニー・ポワチエは、大都会からやってきた敏腕刑事。南部の鼻持ちならない金持ちの温室作業中に、ポワチエが本当にひっぱたく。目をこらして、客席をみる。息が詰まる。白人も黒人も、予想以上に冷静に画面を凝視している。そう、白人も黒人も意外とクールなのである。
 もう1本観たのは『イージー・ライダー』。構成的には、時代の音楽のプロモーション映画である。ぼくが最も興味を持ったのは、ジャック・ニコルソンである。ドロップ・アウトした弁護士なんだけれども、イージー・ライダーと意気投合。ニューオーリンズの暮らしでLSDを体験する。この体験が、次回初主演映画『5イージー・ピーセス』にそのままつながっていくのです。
『イージー・ライダー』は、ニューオーリンズに複数のフリーペーパーを誕生させる。内容は、簡単にいうと、“ポスト・ヒッピー”。テーマはたいてい、自然食と、ドラッグ。『イージー・ライダー』に出て来る音楽はインド〜アフリカ〜中近東の音楽がテーマになることはあっても、ジャズはまったく問題にされない。ジャズがジャズであった時代は、明らかに離れつつあることを知る。
 それにしても、LSDなんてやるもんじゃありませんね。それのイマジネーションの限界をいやというほど知らされるだけで、ぼくはあまり深入りできなかった。

 

 さて、再び、フレンチ・クォーターへ戻ろう。ディザイアー通りと同じくらいに有名なのがバーボン通りである。ここでもっとも流行っているのは「アル・ハート・クラブ」。もちろん、ジャズではありません。もっとも多い店は、ストリップ・バー。天井にあるサーカスのブランコに乗って、店の外にまで、お御脚を出すなんてハデな店もある。日本のストリップとの違いは、お客の男女比は、ほとんど同じくらいというところかしら。バーボン通りでぼくがよく通ったのは、「レッド・ガーターズ」。ニューヨークの「レッド・ガーターズ」には、サン・ラと彼のソーラー・アーケストラが出演していたけれども、ニューオーリンズの「レッド・ガーターズ」は、ちょっと事情が違う。チャーリー・チャップリン、マルクス・ブラザーズ、バスター・キートンといったサイレントの名画を毎日やっているのです。演奏は、毎日、ディキシーランドの生バンド(ほとんど白人)が出ている。さすが、弁士は付かない。活動弁士というのは、日本固有の話芸なのです。毎日出し物が違うので、結構楽しめる。サイレント時代の映画って、きっとこんな楽しみ方をしていたのでしょうね。ウェーターもウェートレスも必ず赤いガーターを身に付けている。支払いやチップは、ガーターにお札を挟むのがルールである。
 フレンチ・クォーター内であれば、まあ安全なんだけれども、白人スラム街は、大変危険である。ぼくは初めてNikon Fを一式やられる。それも私服刑事2人にである。ニューオーリンズ警察に被害届を出したが、まったく形式的で、「俺たちの仲間にそんな奴がいるわきゃないだろう」だってさ。
 今も、5ドルを払えば、ニューオーリンズには<聖者が街にやって来る>はずだ。
 そうそう、ストリッパーの看板は各クラブでは、だいたい1週間に1回は入れ替えられる。通常は、たいてい月曜日に、踊り子自身立ち会いで行われる。そう、彼女の顔写真がいま、掛け替えられつつあるのです。

杉田誠一
杉田誠一:
1945年4月、新潟県新発田市生まれ。
1965年5月、月刊『ジャズ』、
1999年11月、『Out there』をそれぞれ創刊。
2006年12月、横浜市白楽に
cafe bar Bitches Brew for hipsters onlyを開く。
http://bbyokohama.exblog.jp/
著書に『ジャズ幻視行』『ジャズ&ジャズ』
『ぼくのジャズ感情旅行』。
http://www.k5.dion.ne.jp/~sugita/cafe&bar.html
及川公生のちょっといい音空間見つけた >>

♪ Live Information

/27 Sat レイジー・リタ(vo) 佐藤綾音(as) 楠真紀子(p)
/30 Tue 平山順子(as) 佐藤えりか(b)
12/03 Fri 佐藤綾音(as) 楠真紀子(p) 落合康介(b)
/06 Sat 秋山一将(g) 清水絵里子(p)
/11 Sat “ピンク・ワーゲン”サニー(vo) カイキ(tb) 佐藤綾音(as)
楠真紀子(p) 落合康介(b) JUNマシオ(MC, perc)
/12 Sun “JUNマシオ&イエロー・ジャズ・プロジェクト“
/17 Fri 佐藤綾音(as) 角脇真(p) 林航太朗(b)
/23 Thu 佐藤綾音(as) 飯島るい(p) 落合康介(b)
/24 Fri ステーシア(p,vo)
/25 Sat 金井英人(b)
/27 Mon 金井英人(b) 田村勝哉(p)デュオ :ゲスト ●●●●(reeds)
/30 Thu 平山順子(as) 佐藤えりか(b)
/31 Fri 羽野昌二(ds) ●●●●(reeds)
オールナイト・セッション
WEB shoppingJT jungle tomato

FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.