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Vol.16 |
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ボブ・マーレィ 追悼。
5月11日 ボブ・マーレィの命日だ。一つ月遅れだけど、今の季節はたまらない郷愁にいざなわれる。
彼の計り知れない感性が自然と溶け合う。
夕焼けで、うす桃色に染まったヨット・ハーバーに佇む...。
潮風が、頬をなでて清々しい。
振り向きざま、
「ドライブにでも行こうか」
「えっ?...」
私は、愛車に向かって歩き始める...。と、二つの影がやがて一つになる。
お気に入りの海辺を二人でドライブ。
そして日が沈む...。
翌日、今日は遠出を決め込む。愛車に再びキーを差し込む。ドライブも二人になると、ここまでふっ飛ばしてきた疲れもなくなる...。
あっ、いい忘れてましたが、私たちは今、福岡まで来てしまった。
糸島半島。天神から唐津に向かって30分ほど走ると、まず右側に緑の松原が広がっている。その先今宿の交差点を右折すると、そこからが糸島半島だ。
海釣り公園、唐泊、夫婦岩がぽっかり浮かぶ二見ヶ浦、そして野北、海岸線を少し離れて、大葉山に登ってみる。
眼下には、野北浜から、芥屋にかけての壮大な海岸線の景観が広がる。
野北浜の左手にもう一つの浜辺が見える。
よっし。あそこまで行ってみよう。
この浜辺に近づいていこうとするのだけれども、道路からは見えない...。車を止めて、近くの中学校の辺りから海に向かって生い茂る林の中を歩いて行かねばならない。
幣の浜、この浜は知る人ぞ知るシークレット・ビーチだ。
ここらで少し腹ごしらえ。メイン・ディッシュは海...波の音。シートを倒して食後の戯れ。
美しい瞳に吸い込まれて転た寝...。
波の音が子守唄。
と、どこからともなく。
スッチャカ スッチャカ...レゲエのリズムが聞こえてくる。
スッチャカ スッチャカ スッチャカ...
心地よいリズムだ。
と、肩をたたく人がいる。誰かと思いきやどこかで見覚えのある顔...誰だ?
ボブ・マーレィではないか。もはや、驚きを超えている。
ボブ・マーレィ(B)「コンニチワ」
高谷(T)「こ、こんにちわ」
余りの唐突さに、口ごもってしまう。
ボブ・マーレィといえば、言わずと知れたレゲエの神様だ。一体どうなっているんだ...。
えーい、この際だ、話しかけてみよう。
T 「レゲエの発生・源は、波の音ですよね?」
B 「Yes」
T 「日本の沖縄の音楽と共通するところがありますよね。」
B 「Yes」
ちょっと畏れ多いけど、勇気を出して聞いてみる。
T 「日本の音楽をどう思われます?」
B 「うーーん、三波春夫が好き。」
T 「? !」
B 「とっても素晴らしい」
T 「まさか“チャンチキおけさ”じゃないでしょうね。」
B 「それそれ、最初にラジオで聴いて、あっこの人はスゴイ!と。なんかそれまでに聞いたことのない異質なものを感じた...。」
僕は、日本の音楽には二つの流れがあると思う。一つは、中国音楽、大陸音楽といわれるエキゾチズム的な音楽。
そして、もうひとつが、三波春夫や三橋美智也。今風にいうと日本のエスノ・ミュージック(ethno=アフリカやアジアなどの民族性豊かなリズムを取り入れたロック音楽)にあたる音楽だと思う。」
T 「そうでんナァー。(私も急に大阪弁になり、地が出る)私も、昔アラブをよく旅したことがあるんですが、シリアに行った時、シリア人から<サブ・キタジマって知ってるか?>って突然聴かれたんですよ。ええもちろん、って答えて、“ヘイヘイホー”ってやってると、ちゃんと『与作』を知ってるんで、本当に驚いた...。よくよく聞いてみると、実はローマ時代に作られた大コロシアムでコンサートをやって、シリア人もみんな『与作』を大合唱したんだって...。
音楽の流れからいくと、コブシの利かせ方とか、音への情感の込めるやり方って、すごくアラブ音楽に似ているかもしれないね。」
B 「でしょ。だって、アラブの音楽の影響力ってものすごく広大だよ。スペイン、ヨーロッパはもちろん。東欧の音楽で、ブルガリアン・ボイスっていってるのもアラブ音楽の流れだよね...。」
T 「そういえば、ロシア音楽も、スラブにアラブが重なったような音だよね。」
B 「そう、そのとうりだよ。」
T 「もしかして、人類で一番音楽性の高い人種はアラブ人じゃないかって思うほどすごい。」
B 「それほど音楽性の高い人々を感動させるサブ・キタジマは、日本で一番インターナショナルな歌手じゃないかな...。」
T 「あのコブシは、演歌という狭いジャンルのコブシとは違うよね。」
B 「もっと明るいんだよ。エスノだからこそ通じるんだよね。うん。その源流をなすのが、“チャンチキおけさ”の三波春夫なんだよ...。」
と、遠くの方で波が三つ折り重なった。
今日も夕日が沈んでいく。
今宵、ボブ・マーレィに乾杯...。
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高谷秀司(たかたに・ひでし)
1956年、大坂生まれ。音楽家、ギタリスト。幅広いジャンルで活躍。人間国宝・山本邦山師らとのユニット「大吟醸」、ギター・デュオ「G2us」でコンサート、CDリリース。最新作は童謡をテーマにしたCD『ふるさと』。2010年6月から約1ヶ月間、オーストラリアから招かれ楽旅した。
www.takatani.com
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
:
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
:
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
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