![]() |
![]()
Vol.17 |
![]() |
ボブ・マーレィ(前号掲載)は、私にとっては、偉大な思想家である。音楽界には、もう一人そういう人物がいる。
今日はその人物の話をしよう。
1980年というのは、特別な年であった。
その日の午後10時49分。
ニューヨークの夜、とくに穏やかな夜だったような気がする。
ドアマンが、管理室から出て来て、車のドアをあけた。
彼は、ヨーコより先に通路に入って歩いていた。
と、後ろから見知らぬ男が呼びとめた。
「レノンさん?」
「?...」
彼が振りむくと、殺人者は、三十八口径のリボルバーで彼の背中に銃弾を五発撃ち込んだ。
ジョン・レノンが撃たれた!ヨーコは錯乱状態になって、救急車を求めて大声で叫んだ。
ジョンは、オフィスにむかって、よろめきながら六段上がり、
「I’m shot (撃たれた)、I’m shot」 とうめきながら床の上に倒れ込んだ...。
あっという間に世界中にこのショッキングなニュースは広まった。
皮肉にも、ジョンの死の瞬間は、何百万という人の心の中に彼が蘇った時でもあった。
ロックンロールからもはや何も期待できなくなった時代に、十代の自己主張の闘いの勝利した証として、
耐えて久しい反骨精神として、君臨したジョンの魂。
彼は、単なるロック歌手からアーティストへの変身を成功させた数少なき存在。
ヒューマンな匂いをぷんぷんさせて脆さをさらけ出した人。
そして、温かさのかたまり。そしていついかなる時も、己に正直であり続けた人。お金で動くことを拒み続けて来た人...。
ゴーン ゴーン ゴーン ゴーン
嗚呼、John Lennonの<マザー>だ...。この曲の最初に存在感のある鐘の音が鳴る。
この曲のイントロを聞くのが、私の心の除夜の鐘...。
MOTHER
かあさん、僕はあなたのものだった。
でもあなたは一度だって僕のものじゃなかった。
あなたがほしかった。
あなたは、僕をほしがらなかった。
だから言わなくっちゃならない。
さようなら。さようならと。
とうさん、あんたは僕を見捨てた。
(中略)
かあさん、行かないでよ。
とうさん、家に帰ってよぉ...。
ゴーン ゴーン ゴーン ゴーン ゴーン
どこからともなく、楽曲<マザー>のイントロの鐘と二重写しになって、罪業消滅の除夜の鐘が聞こえてくる。
天国の父に聞いてみる。
タッカー高谷(T):「どうして除夜の鐘は百八つなるの」
父さん:「うーん、いろいろな説があるが、人間の煩悩の数だね。諸所の寺で百八の煩悩を除く意をこめて百八回つく。」
T:「百八には何か意味があるの?」
父:「やみくもに百八ではなく、ちゃんと理由があるよ。」
人間には、感覚や意識を生ずる六つの根源がある。つまり耳、眼、鼻、舌、身、意の六根。この六根がねぇー、感覚や認知作用を起こす対象を『境(きょう)』という。
耳による音声を声境、眼による認識を色境、鼻による香りを香境、舌による味を味境、体による触覚を触境、意識によるものを法境...」
T:「随分ややこしいねーー。」
父:「こっからが、大切や。この六根が六境に対するとき、『好き、嫌い、無関心』という好、悪、平の三つの感情が働いて(6×3=)18の煩悩が起きる。
また、このことから『苦、楽、捨てたい』という三つの意志を誘発して、さらに18煩悩が出てくる。合わせると、36種の煩悩となる。36煩悩は過去、現在、未来の三世に現れ、通算して(36×3=)108煩悩となる。
T:「なるほど。」
「この108の煩悩をひとつひとつ消去するために除夜の鐘をつく」
T:「ジョン、どんな煩悩があった?」
John:「ビートルズという煩悩。」
![]() |
---|
高谷秀司(たかたに・ひでし)
1956年、大坂生まれ。音楽家、ギタリスト。幅広いジャンルで活躍。人間国宝・山本邦山師らとのユニット「大吟醸」、ギター・デュオ「G2us」でコンサート、CDリリース。最新作は童謡をテーマにしたCD『ふるさと』。2010年6月から約1ヶ月間、オーストラリアから招かれ楽旅した。
www.takatani.com
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
:
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
:
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
Copyright (C) 2004-2015 JAZZTOKYO.
ALL RIGHTS RESERVED.