12月に入ってこの冬はじめての雪が降った。朝起きたら窓の外が真っ白だった。まっさらな雪の中で犬が嬉しそうだった。
今回のエッセイを「2013年を振り返る」というタイトルで書くことに決めたわけだけれども、1年前のことを思い出そうとしたらすごく昔のことのようで、ずっと物置の奥にしまっていたものを探しだそうとするような気持ちになって途方に暮れてしまう。この1年でいろんなことが自分の中に起きた気がする。それらははっきりとした形をみせていないものもあるが、感覚としてこれまでと何かが違うような気がする。
とても抽象的な表現になってしまうが、この1年で地に足を着けてここオスロで暮らせるようになったような気がする。2年間やってきたことが、ようやく少しずつ繋ぎ目をつけてきたような気がする。音楽はもちろん出会った人たちとのこと、毎日の暮らしのこと、さまざまなことが結び目をつけて一つの線になろうとしている。ピアノに向かう際、少しずつではあるが、自分の言葉に確信が持てるようになってきた。私が言うまでもないことだろうけれど、何かを磨くということは本当に大切に時間をかけてあげないといけないのだと感じる。
今年を振り返るということは2年半前はじめてオスロに来た頃の気持ちを振り返ることになった。というのは、最近できた日本人の友人とノルウェーについて感じていることを互いに話をする機会があり、その頃の気持ちを思い出すことになったからだ。どうしてここに来たのか、ノルウェーに来てどういうことを感じたのか、どういうことをありがたいと感じたのか、というようなことを改めて考え直した。初心は大切にしたい。尊敬するピアノの先生の音をはじめて聴いたときに何かが私の心に触った感覚を決して忘れないようにしなければならない。いつでもピアノに向かうときは生まれてはじめてその音を聴いたような気持ちを持っていたいし、人と接するときは何度もあった人であってもその人のことをわかったような気持ちにならずにいたい。毎日の駅までの道も、はじめて歩くような気持ちでいたい。
"Steg for steg"(ノルウェー語で“一歩一歩”という意味)。これは1年生の頃のイヤートレーニングの先生がノルウェー語がわからない私に「ノルウェー語の勉強がんばってね」と励ますために教えてくれた言葉であるが、それ以来、なにかうまく進めないときはいつもこの言葉を思い出してきた。この言葉がオスロに来てからの2年半、少しずつではあるが私を成長させてくれているような気がする。
最後に1年生の頃に尊敬するピアノの先生が話してくれた言葉を紹介したい。
「花は咲くまでお互いがどんな種類の花でどんな色の花なのか確認し合うことはないです。今のあなたはつぼみです。周りの人たちがどんなふうなのか確認する必要はありません。自分の方法で自身を深めてつぼみを咲かせるしかないのです。」
追伸:「2013年を振り返る」と意気込んではみたものの個人的な感想文のようになってしまいました。現時点でノルウェーでジャズや即興音楽を学んでいる日本人はほとんどいないので、私が感じていることをシェアできたらと思い書かせていただきました。こういう人もいるんだなぁと思いながら読んでいただけたとしたら幸いです。
田中鮎美:
3歳から高校卒業までエレクトーンを学ぶ。エレクトーンコンクール優勝、海外でのコンサートなどに出演し世界各国の人々と音楽を通じて交流できる喜びを体感する。
その後、ピアノに転向。ジャズや即興音楽を学ぶうちに北欧の音楽に強く興味を持つようになり、2011年8月よりノルウェーのオスロにあるノルウェー国立音楽大学(Norwegian Academy of Music)のjazz improvisation科にて学ぶ。Misha Alperinに師事し、彼の深い音楽性に大きな影響を受ける。
追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley
:
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣
:
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi
#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻
音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美
カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子
及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)
オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美
ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)
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#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義
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#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄
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