Vol.64(Extra)
竹内 直/オブシディアン 2010
text by Seiichi SUGITA

本稿は、本来、年末特集「この1枚/国内篇」に寄稿したものである。

What's New/BounDEE WNCJ-2207

竹内 直(bcl、fl)
山下洋輔(p) on 3,5,7
中牟礼貞則 (g) on 1,4,5,8
井上陽介(b) on 1,2,4,6,9,10
江藤良人(ds) on 2,7,9

1.オブリビオン (Astor Piazzolla)
2.オブシディアン(竹内 直)
3.トライ・ア・リトル・テンダース(H.Woods,J.Campbell,R.Connelly)
4.アイ・レット・ア・ソング・ゴー・アウト・オブ・マイ・ハート(D.Ellington)
5.プレリュード(Chopin)
6.ビューティフル・ラブ(V.Young,W.King,E.Alstyne)
7.クルディッシュ・ダンス(山下洋輔)
8.オール・ザ・ウエイ(J.V.Heusen)
9.ショーター・ザン・ジス(竹内 直)
10.ユー・アー・マイ・エヴリシング(H.Warren)

プロデューサー:竹内 直&佐藤 弘
録音:佐藤 弘@GROOVE Studio、松戸
2009年11月30日、12月14日、29日、2010年1月26日

 

 バス・クラの名手が、エリック・ドルフィーとアンソニー・ブラクストンであることに異を唱える者は、おそらくいまい。ならば、もうひとり挙げるとすれば、と問われるとき、やはり躊躇してしまうに違いない。何故ならば、いくらでも類型をあげつらうことはできても、永続的な典型となると、どうしても、いろいろとひっかかってしまうのです。
 ぼくはいま、自信満々でいえる。とうとう、バス・クラの3人目の名手が誕生したと。彼の名前は、竹内直である。
 竹内がいかにスグレ者であるかは、すでに金剛 督(こんごう・すすむ)との死闘と快楽のデュオ『Our Tribal Music』(VIBRATION/地底レコード)で、十二分に堪能している。金剛は、as,ss,fl,b-bl,voiceを、竹内は、ts,fl,b-cl,voiceを、ほとんど極限に迫るところまで血肉化している。両者にとって楽器は肉声にどこまで近づくかということである。というのは、肉声に迫りくる音楽がありうるのか?はたまた、肉体に迫りくる楽器がありうるのか?両者にとって、肉の脈流が音楽であり、脈動する肉体そのものが楽器である。
 ぼくは、正直なところ、両者の息遣いに耳を傾けただけで、マジにいっちまうぜ。
 参考までに、録音は、1996年11月4日、横浜は吉田橋の<リトル・ジョン>である。あまり関係ないけれども、ぼくが40代の頃、<リトル・ジョン>の自宅ガレージを借りていたことがある。
 それにしても、これほど自らのブラッド=ルーツを目覚めさせるデュオが他にあっただろうか。たまさか、スイタルは、フリーではある。フリーとは、インプロヴァイズド・ミュージックを、どこまで純化させるかであることを知る。
 ここで、竹内直のプロフィールに触れておこう。1955年生まれ(金剛 督は1953年)。18歳でテナーを始める。23歳で渡米し、バイヤード・ランカスター、スティーヴ・グロスマンより、ジャズの手ほどきを受ける。ぼくの聴く限り、オーネット・コールマン〜ジョン・コルトレーンが、いわばアイドル的存在だったと思われる。というのは、1980年代後葉のエルヴィン・ジョーンズのレギュラー・メンバーとして起用されたことが、その証左である。
 遅ればせながら、竹内の生を初めて聴く機会を得たのは、2010年10月10日、横浜ジャズ・プロムナードである。じつは、ランドマーク・ホール内の<ホワイエ>で、偶然にもぼくの個展『JAZZ meets 杉田誠一』をやっていたってわけ。
__ジャズを始めたきっかけは?
「高校生のとき、杉田さんの雑誌『JAZZ』をとってまして、そのジャズの写真がものすごくカッコよくって、ジャズ・ミュージシャンになっちゃいました」
__そう__。で、いま、どこに住んでるの?
「妙蓮寺ですよ」
__えっ、ぼくが住んでるところじゃない。奇遇だね。

 

 そのサイン会で入手したのが、竹内直『Obsidian』(What’s New)である。竹内が手にしたのは、バス・クラとフルート。見事に抑えにまわった共演者は、山下洋輔(p)、中牟礼貞則(g)、井上陽介(b)、江藤良人(ds)。
 まぎれもなく、バス・クラの第3の名手の誕生である。エリック・ドルフィーも、アンソニー・ブラクストンも成し遂げられなかったすぐれて固有のスタイルを、これ1枚で確立してしまっている。分かりやすく比較すれば、『Our Tribal Music』の対極に位置づけられる。つまり、ここでは、バス・クラで、スムーズにうたっているのである。
 バス・クラのクリフォード・ブラウンの誕生である。心から、「コングラッチュレーション!」。
 ここには、死の予感を覚えるほどのスリリングさは全くない。ただ、ひとつだけ強く感じてしまうのは、竹内直はいま、ニューヨークでもなく、東京でもなく、ましてや横浜でもなく、ベルリンに向かっているのではないでしょうか?
狂おしいまでの自由はいま、ベルリンにあるのかしら?

杉田誠一
杉田誠一:
1945年4月、新潟県新発田市生まれ。
1965年5月、月刊『ジャズ』、
1999年11月、『Out there』をそれぞれ創刊。
2006年12月、横浜市白楽に
cafe bar Bitches Brew for hipsters onlyを開く。
http://bbyokohama.exblog.jp/
著書に『ジャズ幻視行』『ジャズ&ジャズ』
『ぼくのジャズ感情旅行』。
http://www.k5.dion.ne.jp/~sugita/cafe&bar.html
及川公生のちょっといい音空間見つけた >>

♪ Live Information

1/29 Sat 金剛 督(ts)+林あけみ(pf)
*古谷暢康7days
*2/04 Fri 古谷暢康(ts,cl,fl)
*2/05 Sat 古谷暢康(ts,cl,fl)
2/06 Sun 望月孝ボサノバ・セッション
*2/11 Fri 古谷暢康(ts,cl,fl)
*2/12 Sat 古谷暢康(ts,cl,fl)
*2/18 Fri 古谷暢康(ts,cl,fl)
*2/19 Sat 古谷暢康(ts,cl,fl)
2/20 Sun 金井英人(b)+田村博(p)
*2/24 Thu 古谷暢康(ts,cl,fl)
2/25 Fri 小島伸子(vo)+今村真一郎(p)
2/26 Sat ピンク・ワーゲン
*詳細は;http://bbyokohama.exblog.jp/
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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
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#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


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