Vol.17 | キンモ・ポホヨネン@メールス・ジャズ祭2000
Kimmo Pohjonen @Moers Festival 2000
(c) 横井一江 Kazue YOKOI

 ブーカルト・ヘネン音楽監督時代のメールス・ジャズ祭では、1990年頃からルーツ・ミュージックやワールド・ミュージックの新たな動向も紹介していた。そこでいちはやく知ったミュージシャンは少なくない。
 キンモ・ポホヨネンもそのひとりである。もはやワールド・ミュージックという範疇にとどまらない多角的な活動をしている彼だが、2000年のメールス・ジャズ祭で最も印象に残ったミュージシャンだったのだ。なにしろ彼のソロ・パフォーマンスは、コンタクト・マイクをアコーデオンに取り付け、ライヴ・エレクトロニクスを用い、音響的に拡張されたサウンドによって一種ミステリアスな音空間を構築するものだった。それは、アコーデオンという楽器に対する固定的なイメージを覆すものだったからである。
 1999年、ベルリンのWOMAXでのソロで注目を集め、やがてあちこちの音楽祭やジャズ祭で引っ張りだことなったポホヨネンは2001年に初来日している。その時にインタビューしたのだが、アコーデオンなのにアンプやエフェクトを用いていることがすごく興味深くて尋ねたら、こういう答えが返ってきた。
 「アンプやエフェクトを使うことを始めたのは、自分の出す音すべてが前に聞いたことのある音で、新しい音の発見がなくなったと感じたから。それは僕にとって重要な出来事で、可能性を見いだせた。世界中で何千、何万人のギター奏者が私と同じことをしているじゃないか。 アコーデオンだけ違うということはないでしょう。世界中で何万人のギター奏者がやっているのに、アコーデオン奏者がひとりそれをやったからといってなぜ驚かれるのか、私は逆に質問したい」

 

アコーデオンを弾きながら、ひとりでどのようにしてライヴ・エレクトロニクスをやっていたかということも不思議だった。ステージ上にはそれらしき機材は見あたらなかったからである。既にデジタル時代だったのだが、意外にも古いサンプラーを使っていたのである。  「僕が使っているのは古いタイプのサンプラーだ。サウンドは全て僕がステージ上で創り出しているけど、皆それに気づいていないのではないかな。テープを使っていると思っている人も多いだろうね。実は足でサウンド・エフェクトを操作している。新しいタイプのサンプラーだと、80%は録音したものを使うことになってしまう。100%ライブでやりたいから、敢えて古い方法でやっている」
 初来日時、お台場のトリビュート・トゥ・ザ・ラヴ・ジェネレーションでのソロ・パフォーマンスでは、通常のスピーカーの他に背後からも音が聞こえるようにステージ後方にもスピーカーを設置、独自のサウンド・システムを用いて音をループさせたり、照明家によるライティングを行い、よりマルチメディア色の強いステージだった。「コンサートならではの何かを付け加えて、レコードを聞くのとはまた違ったパフォーマンスにしている」と彼は言っていた。
 現在では、キング・クリムゾン出身のトレイ・ガンとパット・マステロットとのトリオKTU(結成時にはサムリ・コスミネンも参加していた)での活動がプログレ・ファンを中心によく知られているのではないだろうか。他にもクロノス・カルテットに曲を提供し共演、またフランスのパーカッション奏者、エリック・エシャンパールとのデュオなどひとつのカテゴリーに留まることはない。ポホヨネン自身が言ったように彼の音楽は「何かと何かの間」、ボーダーもジャンルも超えた処に立っているのだろう。そして、「毎日新しいサウンドを求めている」といっていたことが、メールスでのソロ・パフォーマンスと共に今でも記憶に残っている。

横井一江:北海道帯広市生まれ。The Jazz Journalist Association会員。音楽専門誌等に執筆、 写真を提供。海外レポート、ヨーロッパの重鎮達の多くをはじめ、若手までインタビューを数多く手がける。 フェリス女子学院大学音楽学部非常勤講師「音楽情報論」(2002年〜2004年)。趣味は料理。

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#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
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#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
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第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


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