Vol.18
沖縄 伝説の二人
 そして マイルスの So What ….



どの人の人生にも、恩人と言う人が、いると思う。
私にも。そういう人が何人かいる。
私が、沖縄にいたころ(私がいたのは、1972年返還前後と1980年初頭)の二人。
どちらも、知る人ぞ知る伝説の人。

香村英史さん 崇高なるピアニスト。
そして 与世山澄子さん。日本の生んだ唯一無二のJAZZヴォーカリスト。
今の私の音楽の素地を作ってくれた人といっても過言ではない。
このお二人のことは、ゆっくり語りたいと思う。逸話はきりがないくらいある...。

沖縄で本物のそして正統派のJAZZの修行をさせて頂いた後...香村氏はJAZZ Live KAM’s House(カムズ・ハウス)と言うライヴハウスをやっておられる。今も、ここで若手を育てておられる...。

内地へ戻った。(沖縄から見ると沖縄以外の日本は、すべた内地である。)

内地に戻ってありついた仕事がバイショウだった。どんな漢字が当てはまるのかは、わからない...。おそらく「商売」のバンドマン用語なんだろうけどいろんな意味が付加されていた...。

おそらく50代以上のミュージッシャンはすぐに、意味がわかると思う。

カラオケがない時代、JAZZクラブで演奏することをそう呼んだ。

しかし、しかし、私のいたところは、JAZZを演奏することはあまりなかった。 ほとんどが、酔っ払いの歌のバックだった。
歌謡曲、当時の流行歌、演歌、果ては軍歌まで...。

そんなことをやろうと思うと器用でないとできない。

どんな曲でもこなせる器用さと、そしてその器用さを支える本当のおおらかさを教えてもらったような気がする。
あの おおらかさ・・・
彼らを支えているのは、これらのミュージッシャンのエネルギーを支えているものは何だろう...って...。

もちろん沖縄だから、魔性の輝きのある海 沖縄...。

レゲエのリズムを生み出した海 レゲエと言うメンタリィティそのものを生み出した海。

沖縄の海は、季節を問わず美しい。

とくに、以前に(香村さんのところにいたころ)私がいた頃の渡嘉敷島(沖縄本島の隣の島、慶良間列島の一群)の海は、格別に美しく、透明度が25メートル以上だと言われていた。(かのモルディブ諸島についで世界で2番目である。)
抜けるような蒼い空、日に輝いた白金のような海原、海に潜る前はいつもこの海原の下には、今日はどんな神秘が待ち構えているのかと、胸を躍らせたものです。

仕事の前、香村さんのところにきていたミュージッシャン5人をわが愛艇(自分のギターにかこつけて335と名づけていた)に乗せて、沈潜スポット(沈んだ船のある潜水地域)をめがけて出発。

アンカーを下ろして、スウェットスーツを着ようとした瞬間、私は悪戯心をおこして、5人の中の一人(男性)を、後ろから抱えて海に放り投げた。ダイブマスター(潜水資格の中でも段階があり、その中でも上位のもの)を持っている人だから大丈夫だろうと思って、思い切り遠くへ放り投げた...。ザブン、   水飛沫。

ふと見ると、なっなっんと溺れかけているではないか...。
「冗談こくな...」
「早く 戻って来い」
大声をあげた。他の4人は、はしゃいでいる。私は、てっきりおぼれた真似をしているものと思い込んでいた。
ところが、そうではなかったのである...。本当に溺れているのである。冷や汗ものである。
慌てて飛び込んで助けあげた。助けあげる時に、だいぶ暴れた。助かろうと思って必死になってつかみかかってくるので、えーいとばかりに無理に溺れさせた。そうしないと共倒れになる。

  だいぶ、水を飲んだようである。しばらく休ませてから話を聞いてみる。
「足でもつったの。」
「いや違う。まったく泳げないなんだ...。」
たおやかな笑顔である。

So What

いわずと知れたマイルス・デイヴィスの名曲中の名曲。
ある意味。曲が単純すぎて、アドリブは演奏者の技量、クリエイティヴィティに託される楽曲。
うがった見方をすれば、マイルスはこの曲を通じて、アドリブということの意味そのものを問いかけたのかも知れない...。

So What

この人が昨日、カムズハウスの超辛口のオーディエンスをうならせたトランペット奏者。
しかも、So Whatのアドリブ、めったに拍手の来ることのないSo Whatのアドリブで喝采を浴びたプレイヤー。
死にかけていたにもかかわらず、何の屈託もなく「泳げないんだ」と言い放った彼の笑顔が、彼のアドリブの素地を作っている。

JAZZはどこまでも おおらかである。どこまでも...。











高谷秀司(たかたに・ひでし)
1956年、大坂生まれ。音楽家、ギタリスト。幅広いジャンルで活躍。人間国宝・山本邦山師らとのユニット「大吟醸」、ギター・デュオ「G2us」でコンサート、CDリリース。最新作は童謡をテーマにしたCD『ふるさと』。2010年6月から約1ヶ月間、オーストラリアから招かれ楽旅した。
www.takatani.com

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FIVE by FIVE 注目の新譜


NEW1.31 '16

追悼特集
ポール・ブレイ Paul Bley

FIVE by FIVE
#1277『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』(ピットインレーベル) 望月由美
#1278『David Gilmore / Energies Of Change』(Evolutionary Music) 常盤武
#1279『William Hooker / LIGHT. The Early Years 1975-1989』(NoBusiness Records) 斎藤聡
#1280『Chris Pitsiokos, Noah Punkt, Philipp Scholz / Protean Reality』(Clean Feed) 剛田 武
#1281『Gabriel Vicens / Days』(Inner Circle Music) マイケル・ホプキンス
#1282『Chris Pitsiokos,Noah Punkt,Philipp Scholtz / Protean Reality』 (Clean Feed) ブルース・リー・ギャランター
#1283『Nakama/Before the Storm』(Nakama Records) 細田政嗣


COLUMN
JAZZ RIGHT NOW - Report from New York
今ここにあるリアル・ジャズ − ニューヨークからのレポート
by シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley,剛田武 Takeshi Goda, 齊藤聡 Akira Saito & 蓮見令麻 Rema Hasumi

#10 Contents
・トランスワールド・コネクション 剛田武
・連載第10回:ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報 シスコ・ブラッドリー
・ニューヨーク:変容する「ジャズ」のいま
第1回 伝統と前衛をつなぐ声 − アナイス・マヴィエル 蓮見令麻


音の見える風景
「Chapter 42 川嶋哲郎」望月由美

カンサス・シティの人と音楽
#47. チャック・へディックス氏との“オーニソロジー”:チャーリー・パーカー・ヒストリカル・ツアー 〈Part 2〉 竹村洋子

及川公生の聴きどころチェック
#263 『大友良英スペシャルビッグバンド/ライヴ・アット・新宿ピットイン』 (Pit Inn Music)
#264 『ジョルジュ・ケイジョ 千葉広樹 町田良夫/ルミナント』 (Amorfon)
#265 『中村照夫ライジング・サン・バンド/NY Groove』 (Ratspack)
#266 『ニコライ・ヘス・トリオfeat. マリリン・マズール/ラプソディ〜ハンマースホイの印象』 (Cloud)
#267 『ポール・ブレイ/オープン、トゥ・ラヴ』 (ECM/ユニバーサルミュージック)

オスロに学ぶ
Vol.27「Nakama Records」田中鮎美

ヒロ・ホンシュクの楽曲解説
#4『Paul Bley /Bebop BeBop BeBop BeBop』 (Steeple Chase)

INTERVIEW
#70 (Archive) ポール・ブレイ (Part 1) 須藤伸義
#71 (Archive) ポール・ブレイ (Part 2) 須藤伸義

CONCERT/LIVE REPORT
#871「コジマサナエ=橋爪亮督=大野こうじ New Year Special Live!!!」平井康嗣
#872「そのようにきこえるなにものか Things to Hear - Just As」安藤誠
#873「デヴィッド・サンボーン」神野秀雄
#874「マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット」神野秀雄
#875「ノーマ・ウィンストン・トリオ」神野秀雄


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